第32話。戦争

飛影とセツネが出会って4ヶ月

すでに飛影と椿は王の客人としてメリア城に住ませてもらっている


それもこれも飛影が面白い登場をするからである

天井粉砕 床粉砕 扉粉砕 気配なく侵入

本人いわく面白い登場を期待させられたために頑張ったらしい


さすがに放置できないと判断したセツネは飛影と椿を招き入れた

最初は反対であった城の者も飛影が魔王であることや、セツネがきちんと仕事をするようになり今では快く賛成している


「戦争?」


飛影がいつも通りに公務に勤しんでいるセツネの部屋に訪れてソファーで寛いでい た際

セツネがぼそりと呟いていたのを飛影は聞き漏らさない


「…相変わらずの地獄耳だな」

「一人言するやつが悪い」


ニヤニヤと笑いあう二人

いつもの光景である


「まぁいいだろう。最近この国が物騒な雰囲気だろう?」

「そうだな。かなり物騒だ」


城に住んでいる飛影

廊下を歩いている時に慌てている者を見かけるのが多くなり

訓練もいつもより緊張感のあるものになっていた


「1か月前くらいに隣国のボジョンドが宣戦布告してきた」

「あらまぁ」


セツネには緊張感がある だが飛影には全く緊張感が感じられない

隣国であるボジョンドは大国である メリアも一応は大国の部類に入るが 国土も人口も戦力もメリアとは比べものにならないほどである

飛影も行ったことがあるが面白そうだと感じた魔法使いが二人いたことは記憶にあった


「ふ~んいつから戦争?」

「明後日だ。結構追い込まれていてな」


やはり緊張感がない飛影

だが明後日と聞いて眼を細める


「俺に伝えるの遅くない?」

「客人に戦争をさせるわけにはいかないからな」


魔王の力があれば勝てる可能性があると考えているセツネ

だが魔王ではなく友達である飛影を戦争に参加させるという選択肢は存在しなかっ た


戦力としてメリア国は

34万5000人


ボジョンドは

90万2000人


確実に負ける戦である


「まぁそんなことはさておきだ。お前城の奴らから心象悪すぎだぞ。何やってるん だ?」


無理矢理話を変えるセツネ

だがセツネ的には王としてではなく個人的にはこの話題の方が頭を痛ませる原因で ある


「普通の人間に興味ない」


ずっぱり切る飛影

嫌いではなく無関心だからである

話しかけられても基本的に無視をするというよりも認識しない


「はぁ…」


解決が大変だと再び頭を悩ませる


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椿と飛影の部屋


「メリアが戦争だってさ…隣のボジョンドと」


飛影はセツネと話終わり、部屋に戻ると椿に聞いた話を報告する


「へ~」


わりとどうでも良さそうな返事

椿は最近、読書にハマっている。読書と言っても手当たり次第の飛影とは違い、小説を読む

小説内のジャンルは手当たり次第である

読書をしている時の椿はいつも心ここにあらずという感じで、右から左に流す


「…」


《炎舞・ドッキリ炎》


「ひゃわ!!?」


本と椿の顔の間に炎が発生する

さすがに視界一面が炎に包まれると驚いて現実に戻る


「なぁ…椿、戦争が起こる…確実にメリアは負ける」

「うん」


飛影に文句を言おうとした椿だが、その表情は真剣そのものだ

大切な友人を殺させるわけにはいかない。椿も暴走した


「俺はセツネを死なせたくない…だから戦争してくる」


飛影がメリアの味方として戦争を行う場合、戦力差は逆転する


「それには賛成できないよ…飛影は絶対強者級で魔王だからそんな理由で戦争をしちゃダメ…セツネさんを助けるのは賛成、戦争を根絶することが飛影の目指すところなら私は止めないよ」


強すぎる力が勢力に加担してしまうと、歯止めが無くなってしまう

だから椿は、一瞬だけ加担してから、その勢力を無意味なものにしまえばいいと考えた

戦争に良いことなんて無い


「わかった…根絶してくる」


飛影は頷くと布団に入り就寝する


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二日後


メリア国とボジョンド国の戦争が始まった

攻められる側であるメリア国はすでに待機済みであり ボジョンド国は進軍している

34万5000人がいる中でセツネは先頭に立っていた

どれだけ考えても籠城や地形を利用しても60万の数の差は埋まらない


一人一人の兵の練度はメリア国が高い

だからセツネの考えは簡単であった

60万を自分が殺せばメリア国は勝てる。馬鹿な案だがセツネは本気である


生き残る術が他にない

国王自らが先陣のメリアに対して


ボジョンドの国王は参加していない

それも当然でメリアのように強い国王は珍しく今頃メリアを侵略した後の計画を立 てているはずである


「さて…と」


槍を振り回し感触を確かめる。魔力による肉体強化

そして、セツネの雷を操る魔法


《威雷》


雷を槍に纏わせる


「行くかぁ!!」


軍より先にセツネは単身敵軍へと突っ込む


『えぇぇ!?』


当然メリア国の兵は驚愕の声をもらす。急ぎ王を守るために全員が進軍する

戦略なんて何もない。実力で叩き潰す。それだけだった


「ふっ!!」


セツネは敵兵まで100メートルの地点で立ち止まり、雷が纏っている槍を全力で投擲

横へと落ちる雷が敵兵を襲う


100人ほど蒸発させその空いた隙間に突撃


《威雷・雷槍》


雷単身の3メートルの巨大な槍を形成し 襲いかかる敵兵を薙払う

武器で防ごうにも実体がない雷は防御をすり抜け敵を殺していく


一人で戦局を揺るがすほどの実力者のセツネ

単身で突撃したのも敵兵の統率を乱し味方を有利にさせることもできる


《威雷・拡散》


先程投擲した槍に込められていた雷が拡散し周囲の敵兵を殺していく


(これで200人)


頭の中で数を数えながら向かってくる敵を殺していく


《威雷・電光》


上空に雷を放つとそれは雲に直撃し雷雲に変化する


「墜ちろ!!」


雷が降り注ぎ、次々と敵兵が炭へと変貌する


セツネは全力で敵兵が固まっている所へと跳躍し武器を構える敵兵を見ても関係なしに魔法を発動


《威雷・雷光》


セツネの全身に雷が帯電すると、敵兵の構えた武器に身体が触れる直前に雷の光が周囲を包み込んだ


光が止んだ時にはセツネと炭しかいなかった

地面に刺さっていた自分の槍を引き抜き再び雷を纏わせる


確実に最小限の魔力消費で敵兵を殺していく

ようやく味方が敵兵達と交戦

敵兵の指揮は乱れていて完全にメリア国の士気が高い


「うぉぉ!!」


セツネはそのまま敵兵全体の指揮を乱すために縦横無尽に駆け回る


「っ!?」


魔力の気配を感じセツネは全力で後ろに跳躍し、着地時に《雷光》で敵を蹴散らす


「ちっ!!」


鎌鼬がセツネが先程までにいた場所を切り刻む

その現象が意味するのは魔法使いがいるということである


「今のを避けられるとは思わなかった」


上空から声が発せられる


淡々と抑揚のない言葉

セツネが声の主であり、攻撃してきた張本人を見て舌打ちをする


「ボジョンドの魔法使いの頂点だったか?名前は…ガジル」


がっしりと筋肉質な肉体 威圧的な殺意に強大な魔力


(厄介だ)


自分と互角


セツネもガジルも互いに実力を感じとり、ガジルは笑みを浮かべセツネは苦笑いを浮かべる


(味方に被害がでる前に対峙できたのはいいが…早すぎる。勝った後に戦える力が 残らないぞ)


ようやく1500人程度潰せたのだが

目標まであと200倍

圧倒的に足りない


「まぁそんなことを考えることすらできんか!!」


セツネは背後に攻撃を感じガジルへの警戒をしつつ

迫り来る幾数のナイフを叩き落とすと、ガジルが魔法を発動したことを感知し雷をナイフを放った人物に放ちすぐさまその 場から離れる


(ナイフを投げつけてきたのも私と互角か!!)


同等の魔力と自分の一撃が防がれた感覚で判断する

空中に浮いたセツネに鎌鼬とナイフが襲いかかる


「っ!!」


《威雷・落雷》


自身に雷を纏わせ自分ごと雷と落ちる

瞬間 セツネがいた場所に鎌鼬とナイフが通り過ぎる


「あっぶな!!」


落雷の衝撃で敵兵が炭に変化したことにも気にとめず、ガジルとナイフの投擲者がセツネを挟むように着地しその警戒をする


「ちぃ!!」


詰んだ


セツネは今のこの状況を一瞬で判断した

セツネの背後にいるのはボジョンド国の暗殺部隊の隊長のファースト

1対1なら負けはしないがガジルの相手をしながら暗殺部隊の隊長を警戒するのは 不可能である

ガジルが大きな威力の魔法を構築しはじめファーストは薄かった気配が更に薄くな る


(最後の足掻きでもしたかったがな)


最後に全魔力を込めてイタチの最後っぺでもしようとしていたセツネだがファース トがそれを邪魔するだろう

状況を理解したセツネは槍を地面に突き刺し王らしく覚悟を決めた


「はっ!!いいだろう!!キサマ等に私の命をくれてやる!!」


目を最後まで開けて己を殺す者を睨みつける


「さらばだ…誇り高き強大な王よ」


そして巨大な風の塊がセツネを砕く

その寸前でセツネの視界が反転し、急速なGが身体を襲う


「おい」

「は?」


生きていた

誰かに首根っこを掴まれている視界には風の塊で砕けた地面

驚愕しているガジルと初めて顔を見たファーストの姿も見えた


「今死のうとしただろ」


絶望的ともいっていい状況の中、セツネにとっても不可解な人物が登場している


「魔王は個人に肩入れできないって聞いたんだが…」


首根っこを掴まれながらセツネは飛影に問う


「は?んなルール誰が決めた?友達を助けることの何が悪い?」


セツネの視界に映るは魔法を構築しているガジルとナイフを準備しているファース ト

二人とも魔王だとは気づいていないが、強大過ぎる圧迫感に反射的に行動している


「お前…」

「とりあえずうるさい」


首根っこを掴まれていた感触が消え浮遊する。セツネが投げられたと理解するまで数瞬の時間が必要であった

その隙にガジルは鎌鼬をファーストはナイフを飛影に対して放っていた


「俺の友達殺そうとしたろ」


抑えられていた魔力と殺気が爆発する

背筋が凍る

だがガジルとファーストの放った攻撃は飛影に直撃する


よく言う1+1=2


つまり強大な敵に勝つために力を合わせれば勝てるなどの言葉がある

だがその敵との力の差が圧倒的ならその言葉になんの意味はない


雑魚の攻撃はセツネの魔力による防御で通りはしない

だが60万もの数はもともと体力的にも魔力消費的にも無理である


つまりそれはセツネは60万もの兵が入れば打ち取れるのだ

セツネにとっては兵は0ではなく0.00001程の戦力なのである


ガジルも同じ程度で、ファーストはそれより下

だが魔王である飛影は圧倒的である


「死ね」


粉塵の中、真っ黒な刀身が見えた


一瞬


ガジルもファーストも何が起きたか理解する前にファーストは切り刻まれた


「な!!?」


ガジルがそれを視認した時には全てが終わっていた


「遅い」


目の前にいた飛影の声が背後から聞こえた

それと同時に自身の身体がバラバラになるのを視認する


「…はは」


圧倒的過ぎて思わず笑ってしまったセツネ

横から見ていたがギリギリ視認できた程度である

本人達は何も見えなかっただろう


「さてセツネ」


黒く黒い刀身の刀を鞘に納める飛影


「なんだ?」

「全軍徹底しろ。巻き込むぞ…」

「は?」


一瞬何を言っているかの理解が追いつかない


「だからぁ!!この場の人間全部殺す。あとこの世界の戦争止めさせるから早く帰れ 」

「なに…を?」


《炎舞・殲滅の矢》


夕暮れ時で少し空が暗かったが赤い光が降り注ぐ


「は?」


空が夕暮れ時だけでなく赤く染まった。その空一面には炎が埋め尽くされていた


「んじゃ五分後に落とすからセツネはそれまでにここから半径3キロは逃げといて 」


笑いながら言う飛影


「待て!!敵味方関係ないのか!?」

「いやいやセツネは味方だから」


飛影にとってはセツネ以外は全員どうでもいい

だからこその発言だ


「このアホ!!」


《威雷・瞬雷》


全身に雷を纏わせると、味方兵と敵兵が戦っている境界へと移動


「くっそ!!魔力消費が馬鹿だから使いたくなかったが」


《威雷・雷神》


味方兵と敵兵の区別をつけ雷が走り、敵兵だけを炭にする


『全軍撤退だぁぁぁ!!5分以内に撤退しろ!!鎧が重ければ脱ぎ捨てろ!!殿は私が受け 持つ!!今すぐ撤退しろ』


喉が枯れんばかりのふざけた大声はまだ乱戦になってなかった味方全員に響く

空の炎を見て唖然としていた味方兵は直ちに後退する

だが敵兵は敵の王自らの撤退命令に鼓舞してしまい、追撃を始めようと行動し、、王の命令もあり空の炎もありメリア兵達はすぐさま撤退


「あー、そっか、こうすればいいか」


《炎舞・壁》


セツネの尽力で出来た境界、脱兎のごとく逃げるメリア兵と、追撃しようとするボジョンド兵の間に巨大な炎の壁が出現する

突貫として、武勇を焦り炎の壁に突っ込もうとする者は一瞬で焼き消えた


「早いけどセツネに当たらないことは確定したから、方向を修正して」


暇つぶしに周囲の兵を殺していた飛影の周りには血の海ができていた


「堕ちろ」


飛影の言葉を合図に空が落ちた

次々と赤い炎の矢が隕石のように落下して領域にいるモノを燃やしつくす

ただの人間も魔法使いも関係なく炎は降り注ぎ殺していく


絶叫や悲鳴

逃げ惑う兵士 混沌が広がっている


「あ~しんどい!!炎舞は魔力消費激しいな…風の魔法でも覚えようかな…まぁいい や、さて…と戦争をやめさせるかな」


そんな中で飛影は欠伸をして面倒そうな表情で歩いていた

2分後

全ての炎が降り注ぎ、メリア兵は無傷に、そしてボジョンド兵の全てが燃え尽きた


>>>>>>>


その後飛影は全ての国の王に会い、戦争するなら滅ぼすぞ

と笑顔で宣言しにいき世界で戦争がなくなった

大国であるボジョンドを単騎で落とした魔王相手に逆らうものはいなかった

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