第30話。寄生者

世界を壊すモノを殺してから1週間

カガリの死体はカガリの住んでいた家の前に埋めて墓を建てた


飛影はそのまま骨まで燃やし尽くそうとしたが、椿が墓を作ることを提案したのだ

墓荒らしなどにあわぬように、墓から半径10メートル近づいた瞬間に近づいた者を燃やし尽くす魔法をかけた


その後、飛影と椿は近くの街の宿を借りて今までの事を話していただけである


「話終わったね~」


ベットに寝転がっている椿


「そうだな…そろそろ旅に出るか俺は友達ってのを探したいし」


やることもない飛影はトレーニングをしている


「うわ~飛影にとってそれは厳しそうだね~」

「うっさい!俺も自覚してるからいいんだ!!」


感情豊かになっている飛影


カガリの最後の願いを叶えていた

しかし、感情豊かになっていても飛影の度が過ぎるほどの人間に無関心は治る気配が無い

むしろ悪化している

宿の女将とのやりとりは全て椿が行っていた


「その前にアイステンペストに行きたい!飛影と合流したら一回戻るって約束したし!!」

「あ~?了解…んじゃあ行くか!!」


思い立ったらすぐ行動

もともと宿には余分に金を払っているため、いつでも出ることができる


荷物も二人して無いに等しい

飛影は立ち上がると椿の首根っこを掴む


「え?これマジでやってる…?」

「大マジだ!!」


飛影はとにかくテンションが高くなっており、その高さにときどき椿でも引くぐらいである


楽しいときは良く笑う

そして窓に脚をかけて飛び立った


「くそばかぁ!!?」

「聞こえないな~」


《炎舞・加速》


飛影は背中に炎の羽を構築し羽ばたく


良く笑い、わざわざ羽を構築する

まるでカガリの真似をするように


「速いからぁぁぁ!!私が死ぬぅぅ!!?」


ぎゃあぎゃあと高度100メートルほどの所で騒いでいる飛影と椿


一時間程飛行していると飛影の眼に人間の大群が見える


「なんだ…あれ?」

「戦争の行軍とかじゃないかな?活気が良いし」


万を越える人

カガリと出会う前なら突っ込んで魔法使いを皆殺しにしたであろう飛影だが

そんな気は起きない

スルーしようとした飛影


《氷輝・アイス》


先頭を歩いていた魔法使いが空を飛ぶ飛影に向けて氷の礫を放つ


「うわわ!?」


慌てる椿だが飛影は炎の羽を羽ばたかせ何事もないように蹴散らす


「…殺す」


舐められたと認識した飛影は臨戦態勢に入ろうとする


「飛影!!無視!!先行こうよ先」


それを宥める椿

軽々と攻撃を消された魔法使いの表情に怒りが見える


「はぁ…わかったよ!!」


飛影は溜め息を吐きながら先を急ぐことにする。

飛影と椿がアイステンペストに到着した時、いつもと変わらない国の景色ではなく結界が無くなっていた


「…え?」


アイステンペストは結界を張っており、雪を防ぐようにしていたがそれが無くなっており、雪が所々に積もっていた


その瞬間、山頂の雪が崩れ始める


「あ、これ死ぬわ」


明らかに人為的に起こされたであろう結界の消失に、雪崩

雪崩の規模は明らかに指向性があり、アイステンペストを滅ぼす殺意ある一撃であった

飛影の感覚的には先ほど攻撃を仕掛けた奴と同等の反則級の上位程度の実力


「…え?」

「さて、どうするかな」


飛影としてはぶっちゃけどうでもいいが、椿が世話になった国であることを考えると助けても良いかと悩んでいる最中にそれは起こった


「…許さない」


ポツリと呟いた椿は血が出るほど拳を握り締めた瞬間


「…!!?」


上空を飛んでいた飛影は全力で椿を投げ捨て距離を離す

一瞬にして50メートルほどの距離を離した飛影の行動は、恐怖だとかそのようなものではない

身体の異変を感じたのである


(…魔力を吸われた?)


一瞬で10分の1の魔力が椿に吸いとられた

何が起こったのか飛影には理解できていない


「…殺してやる」


殺気混じりの魔力が解放される


「…っ!?」


それは絶対強者級の総量と変わらない


「…魔力が…」


飛影は自分の魔力がまだ椿に奪われていることに気付く


《炎舞》


椿の背中に炎の翼が現れ、国を守るように移動する


《炎舞》


雪崩を飲みこむような炎が出現し、全てを焼き尽くす


「…どういうことだ?俺の魔法だぞ」


理解ができていない

魔法は十人十色


同じような魔法は使えるが、同じ魔法は使えない

飛影のヘリオトロープがあれば別であるがそもそもとして椿は魔法使いではない


「おい椿!」


追いかけながら近づかれると魔力が吸われるので遠い所からの飛影の呼び掛けにも応じずに椿は飛び去った

まだ魔力は取られていた

椿が飛んだ先は王城、魔力を察知するとそこにも反則級上位の魔力を感じとれていたため、結界を消したのはそいつが行ったことだと判断しつつ、雪崩を起こした人物に対して飛影は接近する


「よくわかんないけど、とりあえず死ね」


絶対強者級の飛影の拳は、一撃で首を吹き飛ばす

その身体には先ほど飛影を攻撃してきた魔法使いと同じ鎧を装備していた


「なるほど、少し理解してきた」


すぐに飛影は追わなかった

椿の魔力は絶対強者級で放置しても問題はないと考えに至った


読んだことがある魔法生物の図鑑で見た何かと同じ症状で、飛影はコートから魔法生物の図鑑を取り出すと調べ始める

そしてその情報はすぐに見つけることができた


「…寄生者パラサイト」



椿はすぐに結界を消した人物を見つける

身体が軽いこと、絶対強者級の魔力をもっていること、飛影の魔法を使えること

そんなことは椿にとってどうでもいいことであった


目の前に大事な友達を殺そうとした人物がいる

それだけで充分であった


《炎舞》


殺気しか込められていない眼で魔法を発動した



〈寄生者は正体不明…最初は光の玉として姿を現す。〉

椿が飛影の前に現れたのはアギトを倒して光の入った瓶を割った後である



発生した炎の波は瞬く間に侵入者を焼き尽くす

そして、焼き尽くす一瞬前に鎧を確認して、何がこれを起こしたかを理解し、飛び去る

椿はすぐにアイステンペストに攻撃を仕掛けた軍に追い付くことができた


《炎舞》


雪崩で攻撃されたから炎の雪崩で攻撃し返す

雪がないため、炎で代用し草原に巨大な炎の波が発生する



〈寄生者は外気に触れると一番近い者とリンクを張る、そのリンクは形を造るための魔力を吸いとるためのリンクである。そのリンクを使用して身体を造るほどの魔力が溜まると顕現する。形は人によって様々であるが、人間にも動物にも成れる〉



《氷輝・足場》


脱け出すことができたのは、飛影に攻撃を放った男だけである

反則級の上位といえど精一杯での回避であるため、それ以下が対応しきれないとしても仕方がない


「…なんなんだお前」


炎の波から逃げるために空中に足場を形成した男



〈寄生者は外気に触れると一番近い者とリンクを張る、そのリンクは形を造るための魔力を吸いとるためのリンクである。そのリンクを使用して身体を造るほどの魔力が溜まると顕現する。形は人によって様々であるが、人間にも動物にも成れる〉



《炎舞》

《氷輝・氷刃》


椿は炎の剣を造りだし男も氷の剣を造りだす


翼を羽ばたかせ空中を飛び男に突っ込む椿

男も氷の足場を使い椿に突っ込む


炎と氷がぶつかり合う

椿は絶対強者級の魔力を持っているが、使い方が下手なため力ではほぼ互角



〈形を造った寄生者はリンク先の者の前に現れる。外気の魔力も吸いとりそこから知識を取得しているためコミュニケーションには問題ない、基本的にリンク者に従い付き添う。問題として身体が顕現しても魔力を吸いとられることである。〉



椿は翼を振り回し相手の態勢を崩す

その一瞬の隙を突いて男の左腕を切り落とす



〈寄生者はリンク者の魔力を死ぬまで吸いとる。通常の人間では寄生されると3ヶ月で魔力枯渇による衰弱死となる。リンク者が死ぬと身体が顕現できるまで現界し再び光の玉へと姿を変える。その繰り返しである〉



左腕を失いバランスが崩れた瞬間の隙を突いて男の右腕も切り落とす


「がぁ!!?」


苦痛に満ちた悲鳴をあげるが椿は止まらない

右足に左足すらも切り落とす



〈注意点として、寄生者の感情が爆発するとリンク先から膨大な量の魔力を吸いとる。魔法使いでさえ魔力枯渇に陥り死亡する。対処法は光の玉になった際に外気と遮断することで寄生を止めることができる。完全な消滅方法は不明〉



椿は男の顔面を掴む


「なんで殺そうとしたの…あんなに良い人達だったのに!!」


短い悲鳴しか聞こえない


《炎舞》


椿の手が赤く燃え上がると同時に男の全身を炎が包み込む

一瞬で炭へと身体を変える


「会いに行かないと…」

「とりあえず寝てろ!!」


椿に軽い衝撃が襲い意識を手放す


「あ~身体がだりい…半分以上持ってかれたな…」


椿を抱き抱える飛影

絶対強者級になった飛影の魔力を半分を吸いとった椿


反則級では即死である

飛影は魔力探知で注意深く観察すると、確かにリンクが張られていた


(魔力探知が今までてきとうだったとはいえ気付かなかったな…)


もともと魔力操作がてきとうであった飛影

カガリに受けた魔力の訓練は色々な箇所で役立っていた


(…生き残りは…いないか…)


見渡す限り焼け野原

草原が一瞬で焼け野原に変わっていた


ほぼ黒炭になっている中まだ人の形を保っているものを探す飛影

僅かに影が動いた


「生きてたか…」


飛影は椿をおぶさりまだ生きている者へと落下する


「お前らどこの国に属してる?」


飛影は半身が焼け焦げて放置しても死ぬものを俯せ状態から蹴り起こして仰向けにする


「う…ミラス」


もはや目も見えていない者は助けだと思い言葉を振り絞る


「そうか…」


飛影は国の名前だけ聞ければ充分であり、無造作にその者の顔を踏み潰す


「とりあえず…記憶してる奴のとこ行くか…」


飛影は炎の翼で移動し、混乱で事態の把握に追われている王族たちの中心に突っ込む

アイステンペストの騎士であるシュガーが、その存在に対して王族を守ろうと反射的に移動する


「…」


ぽいっと椿を放り投げる


「椿!?え?っていうことは飛影様ですか!?」


スノウの言葉を完全に無視して、飛影はまた飛ぶ


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


「さて…」


飛影はミラス国の上空にいた

地図を確認して飛影はミラス国の場所を認識するとすぐに向かった


滝のような水量の豪雨

だが飛影の身体は濡れていなかった


《炎舞・断罪の矢》


飛影は手をあげる

ミラス国に赤い光が降り注ぐ


空を埋め尽くしているのは、赤い炎

無数の矢が空を覆い隠す


「あは!!危うく死ぬところだった…椿の友達の国に攻撃してんじゃねえよ」


飛影はニヤリと笑い手を下ろす


それを合図に空が落ちる。無数の矢が降り落ちて国を滅ぼしていく

建物も城の結界も関係無く破壊し赤い炎が蹂躙していく


炎の矢は五分間降り注いでいた


「…こんなもんか」


国として見る影も無くなったミラスを見て、飛影は一つ頷いた


無事に保護されてベッドで寝かされていた椿が起きた時に飛影は全てを話した

ミラス国を滅ぼしたこと、そして寄生者について

椿の反応は簡単だった


「あー、やっぱり私人間じゃなかったんだ!」

「俺も人間じゃないし気にすることはない」

「それもそうだね!」


特に気にしていない様子であった

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