第29話。篝火の最後

三日目

飛影とカガリは森から出てイニシアチブ国の近くにある何もない広々とした野原にいた


「基本的に絶対強者級の戦いでは結界を張るのは必須ね」


カガリは大きな木の棒で地面に陣を描いている

飛影は中心に立ってそれを見ていた


「理由はわかる?」

「絶対強者級の戦いだと世界が滅ぶからか?」

「そう正解!!」


気まぐれで世界を滅ぼすことができる絶対強者級同士の戦いはやはり世界が滅ぶ

被害を抑えればなんとか大丈夫だが、今回は世界を壊すモノとの戦いであり被害を抑えて戦う気は双方微塵もない


「だから結界を張るんだよ…大きさは大体半径500メートル~一キロぐらい。けど結界に魔力を割けないから、魔術を使って消費を抑える。人間界の魔王のダドマは無限の魔力を持っているから基本的に結界を張ってくれるんだよね~」


今回、魔術で結界を張ったのには2つの理由がある

魔力消費を抑えるためと、飛影の魔力を使って結界を張るからだ


「準備は万端!!」


陣を描き終わったカガリ

それを合図に飛影は陣に魔力を混める


飛影を中心に半径一キロが結界で覆われた


「とりあえず、そろそろだから魔力全開放でよろしく!!」

「わかった」


カガリと飛影は魔力を開放。準備は万端

いつでも戦える準備はできていた


「飛影…戦法はわかってるよね?」


昨日の内に魔法の修業をしながら練っていた戦法


「カガリを主軸に俺は援護…」


飛影はまだ絶対強者級と戦えるほどの強さは無いため、カガリを主軸に戦う


「おっけい!!…さて、来るよ」


周辺の空気が変化し、巨大な存在が生まれようとしていた

飛影は魔剣を構える


《クリエ・六枚羽》

《炎舞・大剣》


カガリは全力で戦うために、魔法を構築し背中に美しい翼が生える

飛影は魔剣に緑色の炎を纏わせ、大きさは20メートルほどの巨大な刀身を作り出す


飛影の目の前50メートル先に突如として影が現れる

その影は形を変えながら人の形へと変わる


「ふっ!!」


飛影の先制攻撃


相手が出現した瞬間に炎の刃で影を切り裂こうと全力で薙ぐ


《闇》


世界を壊すモノ


絶対強者級の存在は一瞬で魔法を構築し、完璧なタイミングの攻撃に対して手に闇が現れ、飛影の攻撃が闇に触れた瞬間に飛影の炎が消滅した


「!!?」


何でもないように突っ立っている世界を壊すモノ


(先制攻撃は失敗か…だけどどんな魔法かはわかった)


「貴様らが生け贄か?」


世界を壊すモノ

仰々しい異形のものであったり、色々な形で顕現するモノだが、今回の姿はただの少年のような容姿であった

飛影より少し背が高い少年は飛影とカガリを見てニヤリと笑う


「…さて、と!!」


カガリは一度羽ばたき、次の瞬間には世界を壊すモノに接近していた


六枚羽の一枚が槍のように鋭利な形に変化し、突き刺すが横殴りの一撃に弾かれる


《闇》


お返しとばかりに闇の球体がカガリに放たれる


「!!?」


威力は目で見て理解したカガリは残りの羽を羽ばたかせて回避


《炎舞・槍》

《クリエ・疾風羽根》


飛影は緑色の炎の槍を構築しその槍にカガリは無数の羽根を纏わせ放つ


《闇》


世界を壊すモノはその一撃を防ぐために軌道上に大きな闇の球体を造り出す


「飛影!!」

「わかった」


闇の球体を避けるように槍がホップすると同時にカガリの羽が槍から離れる

闇の球体を回避して槍は落下、世界を壊すモノに直撃する


火柱が立ち昇りカガリは火柱を指差す

槍から離れ空を舞っていた無数の羽根が世界を壊すモノに向けて襲い掛かる


「うざい」


少しはダメージ与えられたかなとカガリが考えた瞬間であった

世界を壊すモノの声が聞こえた


《闇》


同時に魔法構築の気配


『っ!?』


飛影とカガリは同時に全力で距離を離す

火柱で見えないが世界を壊すモノの手に小さな闇の球体が現れる


そして闇が空気を侵食。闇が全てを食らいつくしいく

飛影の炎はもちろん、カガリの羽根すらも闇は食らいつくす


半径一キロの結界を準備したが、逆に半径一キロしか逃げ場はない

世界を壊すモノの闇は一キロを確実に埋め尽くす


世界を壊すモノが半分以上の魔力で構築した魔法


「飛影!!」


カガリは飛影を抱きしめる


「なにす…」

「我慢してね!!」


飛影の言葉を聞く暇が無い


《クリエ・篝火(たいせつなものにたいせつなしゅくふくを)》


全魔力を使用してカガリは魔法を発動

金色に輝く巨大な羽が飛影を包み込むと同時に結界内が闇で埋め尽くされた


30秒経つと闇は晴れていった

そこには飛影とカガリの攻撃により若干のダメージを負っている世界を壊すモノ


そして呆然と立ち尽くす飛影と身体の半身が消滅しているカガリであった


「消えろ」


《や》

《方舟》


世界を壊すモノが止めを刺そうと手を向けて魔法を発動しようとした瞬間

背後に巨大な存在が二つ出現した


「最後くらいは待ってやるもんだぜ」

「デリカシーの無いやつじゃな」


その圧倒的すぎる威圧感に指一本動かすことができない


それすらも視界に入っていない飛影はカガリをそっと抱き起こす


「…あ、飛影…無事?」

「無傷だ!!待ってろ今治す!!」


飛影はヘリオトロープを発動しようとする

他の魔法が使える魔法


回復系の魔法も飛影が名前と効果を知っているものに限られるが、あるにはある


「…多分、これ普通の傷じゃないから無理だよ。消滅してるし」


飛影はバカだなぁと半身が消滅していても笑うカガリ

ゆるゆるとカガリは消滅していない方の腕を飛影の首に回して引っ掛ける


「なん…」


何かを言おうとした飛影の口が塞がれる

ロマンもなにもないが、五秒ほどのキス


「…初めてだったらごめんね」

「何をした?」


飛影は身体が熱くなるのを感じた

同時にカガリの存在が薄くなっていくような気配があった


「…残りの力を全部あげた。魔力は使っちゃったし残りカスの生命だけどね」


笑顔を見せるカガリ


「ふざけんな!!…カガリは生きろよ!!お前は俺より強いだろ!!なんで…そういうことすんだよ!!」

「…なんでだろ?わかんないや…多分大切だから」


「…会って間もないだろうが!!カガリ一人だったら防ぎきっただろ!!?なんでだよ!!」


俯く飛影

抱き起こされているカガリの視点では表情はまるわかりである

泣きそうな表情だが涙は流れない


「…私からのお願い事…叶えてくれる?」


そんな飛影を見て、やはりカガリは笑う


その身は今すぐ死にたくなるほどの激痛を感じているが、笑う


飛影からの返事はまたない


「…一つ、もうちょっと自分に素直になって感情豊かになりなさい…せっかく格好良いのに無表情はダメだよ」


飛影の頬を触る


「…一つ、友達を作りなさい…友達は良いものだよ」


力無く飛影の頬をつねる


「友達?」

「そう友達…良いものだよほんとに」

「…わかった」


「…最後…今私があげた力全部混めて魔法を構築しなさい…飛影の魔法は強いよ…圧縮しまくってあいつを倒してね…いつかまた会おう」


最後の笑顔を浮かべるカガリ

飛影の頬をつねっていた手が力無く落ちる


「…カガリ…カガリ!!?…死ぬなよ!!…生きてくれよ!!…頼むから…眼をあけてくれ…」


飛影がカガリの身体を揺らすが、反応はない


「…」


カガリが死んだ

そのことを飛影は認識して何かが弾けた


「…殺す」


カガリから譲り受けた命の魔力とそして自分自身の魔力を解放した

気付けばダドマとギルギアという強大すぎる気配が消えていたことに世界を壊すモノは認識したが、矮小な存在であった飛影の殺気に一歩退く


飛影を中心に大地が燃えていく


《炎舞》


全ての魔力を込めて一つの魔法を構築する


「殺す…殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


ぶつぶつと殺気を更に強くしながら飛影は呟く


まず生まれたのは赤い炎

圧縮する


小さくなった炎は魔力を継ぎ足して増やす


「殺す殺す殺す殺す」


赤い炎を圧縮し生まれたのは緑色の炎

圧縮する


小さくなった炎は魔力を継ぎ足して増やす


「お前だけは殺す…」


緑色の炎を圧縮し生まれたのは黒色の炎

圧縮する


小さくなった炎は魔力を継ぎ足して増やす


「…全力で殺してやる」


まだ圧縮する

黒が闇になるまで


光すらも焼く闇色になるまで圧縮する


「はは…あはは…存在も魂も欠片残さず殺してやる」


そして飛影の手には半径10メートルほどの闇色の炎の球体が造り出された

その放射熱だけで、世界を壊すモノの皮膚が消滅していく


「は?」


《闇》


世界を壊すモノは咄嗟に残りの魔力を込めて巨大な闇を造り出す

全てを食らいつくす闇が飛影と同じように半径10メートルほどの球体となる


《炎舞・無炎》


飛影はその炎に名前をつけた

全てを無にする炎


「あははは!!!死ねよ!!!」

「矮小な存在がぁ!!」


飛影と世界を壊すモノは同時に攻撃を放った


無炎と闇はぶつかり合い、互いを食らいつくす

なんてことは起こりえなかった


闇と闇はぶつかり合うこと無く無炎が触れた一瞬で闇が焼滅する

闇を焼滅させ、勢いが衰えることなく世界を壊すモノに迫る


「…」


何かを世界を壊すモノが喋ったが音すらも焼き付くす無炎に全てを焼滅させられた


それだけではなく、飛影がカガリの魔力と自分自身の魔力を使用した無炎はそのまま結界を焼滅させる


それは世界が滅ぶ一撃

飛影が絶対強者級になった証明でもある


「ギルギア!本気で防ぐぞ!!」

「うむ!」


ダドマは全魔力を何度も消費し五重の結界を造り出す


《グラビティ・黒穴》

《天変地異・無限一手》


ギルギアは巨大なブラックホールを生成し無炎にぶつけ、結界を張り終えたダドマは全魔力を消費して巨大な水の塊を無炎にぶつける


ブラックホールでも止めることができず、抑えることが限界である

ダドマの水は放射熱と無炎の熱で半分以上が焼滅する


「くそったれな威力じゃな!!」


《グラビティ・黒穴》


ブラックホールですら焼滅させられ、再びギルギアはブラックホールを構築


《天変地異・無限二手&三手&四手&五手》


ダドマは一気に魔法を発動

ダドマの全魔力の水の塊×4が無炎とぶつかり合う


「…ようやくか」

「疲れたの…」


そしてようやく無炎が消滅する


「いや~しかし、攻撃力最強ってとこだな…」


ダドマは落ち着いて状況を確認する


もともとの結界の半径一キロはもとより、ダドマが張り直した結界半径三キロにはなにも残っていなかった


大地すらも底が見えない

そんな中で飛影とカガリとその地面だけが無傷であった

飛影はカガリを抱いて身動ぎ一つも取らない


「さて、と」


ダドマは魔王としての能力を発動


万物創造


魔王を一億年ほど続けると身に付く能力で戦闘以外で限定だが万物を造り出すことができる

ダドマは消えた大地を元に戻し緑を戻す


「んじゃ帰るか」

「うむ」


《方舟》


やることはやって、新たに飛影という面白い存在を確認して笑いながら魔界から去る


「…カガリ」


魔力もなく、身体中の力が入らない飛影はカガリを大事に抱き締めながら空を見る

星空が綺麗な夜空である


何時間経ったのかはわからない

正確な体内時計を持つ飛影だが、何時間も何日にも感じた


「飛影くん…」


懐かしい声が背後から聞こえた

忘れるはずもない煩わしいとも思ったことがある声


「椿か…」

「一発殴ろうと思ってたけど止めるよ」


椿は飛影が大切に抱いているカガリを見て拳を開く


椿の服は血で濡れていた

暴動が発生して襲い掛かる街人を殺さぬようにナイフで腱を切って応対していた

そして飛影の魔力を感じとり地割れを越えて来たのだ


「椿…俺は弱いな…」


ポツリと飛影が呟いた


「…え?」


椿には聞こえたが信じられなかった


「…カガリに守られた…俺は何もできなかったことが悔しいよ」


涙は決して流れない

災厄として生まれた飛影にその機能はない


「…俺は…弱い」


飛影はその場で崩れ落ち、意識を失った


「飛影くん…変わったね」


椿はカガリには触れないように丁重に飛影の頭を膝に乗せる

椿が聞いたのは飛影からは想像できなかった泣き言にも近い言葉だった


「久しぶり…飛影く…飛影」


優しく飛影の頭を撫でる椿

これが飛影と椿の再会であった


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


天界


どんな者だろうが死んだら必ず来る世界

そこの地獄や冥界や様々な世界の中心となる橋渡しの世界

その中心に豪勢な建物が建っている


そこには魔王であり、天界の最高責任者のラインがいた

外見は25歳ほど 身長は180cm 実年齢は3万四千弱歳

薄い青色の腰までのびている長い髪を後ろでまとめ スーツを着ている姿は社会人である


大人しそうな青年の外見だが殺し合い最強の魔王だ

忙しそうに仕事の手は休まないが、そんな忙しそうな彼の目の前にカガリはいた


「なんで厄介事持ってくるかなぁ!!?」

「私死んだのにその態度は酷いわ~」


生前と同じ姿のカガリ


「君みたいな善の絶対強者級の処分は面倒なの!!悪人だったら楽なんだけどね」


本来死んだものは魂だけとなって天界の閻魔の所に行く

悪人の場合は直接冥界送りになる


だがカガリは死んではいるが身体はあった

魂が強すぎて肉体を形成するのだ


本来なら天国行きが赦された者が肉体をもらうシステムになっている

なのでカガリのような絶対強者級は直接ラインの所に送られる


「あれ?世界を壊すモノは?」


建物が綺麗な状態であることに疑問がわいたカガリ


「あぁ…それ」


ラインはペンで世界を壊すモノだったものを指差す

そこには身体中が破裂している何かがあり、判断ができなかったカガリ


「全て無傷って…ほんっとにチートだよ!!」


恐らく文字通りに瞬殺だったのだろう

それに殺されたカガリは怨めしそうにラインを見る


「はい、一段落!!」


仕事が一段落ついたラインが軽くのびをする


「それで…どこいきたいの?」


カガリは基本的にどこでも行ける


生まれ変わること以外は

生まれ変わりは天国で満足したら生まれ変わることができるため、一度は天国に行くしかない


「ん~とね~一度は天界に来た生者と面会できるところ」


ニコニコと笑うカガリ


「んじゃあ天国だね…なんで面会?」


「愛しい愛しいちょっぴりだけど弟子と約束したから!!生まれ変わったら記憶が無くなっちゃうでしょ?」


少しだけ頬を赤く染めながら最上の笑みを浮かべるカガリ


「へぇ…君の弟子か、面白そうだ。了解」


カガリと飛影が天界で再会するのはまだ先となる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る