第25話。篝火の教え

その後、カガリはとりあえず面白そうだからと飛影を家に招き入れた


「あ~あ~久しぶりの客だと思ったのになぁ」


溜め息を吐くカガリ

二つの湯呑みにお茶を注ぎ入れて一つを飛影の前に置いて自分も座る


「客?…そういえばさっきも願いを叶えるとか言っていたな」

「そう…私を見つけ出すことができたら何でもは実際問題無理なんだけど可能な限りの願いを叶えるよ。っていう感じで噂を広めてたんだけど…最近お客さん来ないんだよ。君がお客さんだと思ったのになぁ…」


溜め息を吐きながら果物を乾燥させたお茶菓子を取り出すカガリ

旨いと内心で思いながら飛影はお茶菓子を食べる


「…飛影だ」

「ん?」

「名前をまだ言ってなかった」


かれこれこのように座りながら対面で人と話すのは実に10年ぶりの飛影

名前は大事と静紅に言われていたので、名乗ろうとしたコミュ障の頑張りである


「あぁ~名前か~忘れてた…飛影ね、私はカガリ・テスラ…カガリで良いよ。家に招き入れて話すのが久しぶりだからな~最後に話したのは500年くらい前だっけな?」


そして飛影のその遥か上をいくカガリ


「?…口調が変わったな…さっきまでクク…とか言っていたが」

「ギャァァァァア!!止めてぇ!!それ仕事用!!」


飛影の一撃に顔を真っ赤にさせて手をつきだすカガリ


「仕事用?」

「…私は願いを叶える魔女って言われてるからその方が格好いいかな~って」


飛影には理解ができなかったがカガリ的にはククと笑うと格好がつくと思っているらしい


「とりあえず自己紹介をしよう!!私はカガリ、趣味は栽培に料理♪歳は8000歳くらいかな…実力は絶対強者級、魔法は羽を創るクリエ」


絶対強者級という単語に飛影は反応する

飛影は集中してカガリの魔力を測ろうとするが、魔力の隠蔽が上手すぎるカガリの魔力を測ることはできなかった

そしてそれはカガリが絶対強者級という証明でもあった


「俺は飛影だ、趣味は魔法使い殺しとトレーニング、歳は17歳くらい…実力は反則級だと思う。魔法は炎を創る炎舞と他の魔法を使用するヘリオトロープ」


ヘリオトロープは飛影がここ10年で修得した魔法である

他の魔法を使いたいため覚えたが、一度使用して副作用を体験し二度と使うことは無いだろうと決めている魔法である


「へ~魔法二つ持ちかぁ17歳にしてそれは凄いね!」


ニコニコと笑う8000歳の外見だけは少女

感情豊かで飛影は一瞬だけ椿を思い出した


「あれ?…けど飛影はつまり私の知識が正しければ魔王だよね?」


何故知っているのか

飛影は少し疑問を抱いたが、肯定の意味で頷く


「なのに、反則級?」


魔王が反則級だということに納得できていないカガリ


「悪いか…?」


鼻で笑われたように感じられた飛影は、殺意を込めて立ち上がろうとするが


「違う違う!!悪いとかじゃなくて、よくアギトに勝てたねって話よ」


飛影の雰囲気が変化したことを感じ取って慌てて補足する


「…あいつ死んでたから弱体化していた」


飛影の言葉にカガリは納得する

恐らく生きていたころに挑んでいれば、飛影は当たり前で静紅も死んでいた


「なるほどね~…あれ?他の魔王とは顔合わせしたの?」


大体現状と同等の実力でアギトを一人で倒したと認識したカガリ。それなら特に違和感はなかった


「人間界とは顔合わせした」


憎たらしそうな表情に変化する飛影は今でもあの敗北は心に刻み付けてある

思い出して腹が立って周囲に魔力が放出される。それは常人なら軽く死ねる程度だが飛影の目の前にいる絶対強者級にとっては特に気にすることではない


「ダドマとギルギアだね…その表情を見る限りボコボコにされたっぽいけど…まぁしょうがないんじゃないの?あいつら別格だから」


同じ絶対強者級として面識があるカガリはあっはっはーと笑いながらこめかみに欠陥が浮き出ていた。カガリも一度戦ったことがあるが格が違っていた


「うるさい、あいつらは叩き潰す」


格が違うことは重々その身に体験した飛影だが諦める気はない

とにかく勝ってやると考えていた


「じゃあ、ラインとは顔合わせしてないんだ」

「ライン?」


初めて聞く名前に飛影は反応する

飛影が聞き返すと同時に先ほどの笑顔の怒りではなくカガリは苦虫を噛み潰したような表情へと変化する


「ド腐れ反則馬鹿野郎な天界の魔王、あいつとは戦いにすらならない。殺し合い最強の名は伊達じゃない…今思い出してもムカつくぅ!!」


嫌なことを思い出したのかミシミシと木製のテーブルが悲鳴をあげる


「どんなやつだ?」

「もう何でもありなやつ、ダドマとギルギアでも勝てないと思う。今の飛影じゃ戦いにすらならないね…五秒で死ぬよ」


一刀両断


「ぬ…」


言葉でバッサリ斬られて少し呻く飛影だが、目の前のカガリの実力を薄っすらと感じている飛影としては否定が出来ない


「そんな強いのか…」

「もはやチートね」

「チート?」


知らない単語に反応する


「んと、簡単に言えばバグ?ラインとダドマとギルギアは基本的にバグキャラなのよ…どこかブッ飛んでる絶対強者級の中でも強すぎる存在、私やアギトは普通の絶対強者級」


気まぐれで世界を滅ぼせる絶対強者級に普通も何もあるのかと思った飛影だが、それは確かな事実であろう


「飛影はいろいろと知らなそうだから、教えてあげるよ。カガリ先生と呼びなさい」


決して豊かとは言えぬ胸を張る上機嫌なカガリであるが


「面倒だ…拒否…だが世界のことは教えてほしいな…知らないことが多すぎる」


若いこともあるのだが飛影は他の魔王や世界のことをあまりにも知らなさすぎる

カガリの申し出は実のところかなり嬉しい提案である


「じゃあまず世界のことを話そうか…この次元には三つと一つの世界があるわ…科学の発展している人間界…死者や天使、悪魔が巣くう天界…まぁ一般的な天国かな…そして私達がいる魔法が発展している魔界…まぁ皮肉なもんだね…魔法が発展している魔界の魔王が一番弱いんだから…あとわざわざ区切ったけともう一つの世界は神界…その名の通り神が住世界…まぁ私は神に会ったことなんて一度しか無いけど

「次は魔王についてだね…無限のダドマ、飛影も会ったことがある人間界の魔王で種族は神龍、特徴は無限の魔力、いくら使っても尽きることない魔力、魔法は水を統べる天変地異と万物を移動させる方舟で長期戦最強

「重力のギルギア…飛影も会ったことがある人間界の魔王補佐、種族は鎧龍、特徴は堅すぎる鱗、まぁ本人は鎧って言ってたね、魔法は重力を統べるグラビティで接近戦最強

「幻惑のライン…天界の魔王、飛影は会ったことがないね、種族は天使、特徴はド腐れチート、魔法は雷を統べるナルカミと、殺し合い最強の魔法である幻想魔境でくどいようだけど殺し合い最強

「一気に説明したけど何か質問は?」


長い長い説明を終えて一息つくカガリ


「大体理解したが…神界には魔王はいないのか?あとアギトの生前はどのランクにいた?」


飛影の質問にカガリは嬉しそうに頬を緩ませる


「神界には魔王はいないんだよ…最強の神ならいるけどね…噂だけなら一対一ならラインにだって勝てる神、シャル・レーン、私が会ったことがある神は名前を教えてくれなかったけど、可愛らしい子で飛影よりも外見は幼いかな…常時眠そうにしてた単語しか喋らない子だったよ」

「なるほどな…神ってどんなやつだ?」


飛影は一度も会ったことがない神という存在

未知のモノに興味を示すのは男の子として人間でも災厄でも共通である


「私が会ったことがあるのは、本当にただの女の子っぽい感じ魔力が清らかすぎるのが印象に残ったかな」

「ふーん」


もっと凄いのを想像していた飛影としては拍子抜けである。お茶菓子が無くなり一度席を離れるカガリは再びお茶菓子をもってきた


「それでアギトのランクだっけ?さっきも言った通り魔界の魔王は最弱…アギトは他の魔王と比べて飛び抜けて弱かったのよ…」


アギトも魔王として充分な実力はあったのだが、格が違う


「あいつが最弱だったのか…」


死後で弱体化してるとはいえ飛影からすれば充分に強かったアギトが最弱

信じられなかったが、実際にダドマとギルギアと戦いと呼べるかは別として一戦交えた飛影は納得できてしまった


「他に聞きたいことは?」

「無い」


充分すぎるほどの情報をもらった飛影としては満足である


「それじゃあ、私からは三つかな…まず飛影にこれをあげる…」


カガリがいつの間にか手に持っていたのは魔剣であった

黒く黒い刀

飛影にとっては四本目の魔剣である


「三刀流とかそんなイカしたものじゃないんでしょ?…それは融性だから一本に集約できるわよ」

「やり方は?」


少なくともカガリは飛影よりも魔剣の力を知っていた

だが、カガリもそこまで詳しくは無い


「え?多分、魔力込めればいいと思うけど」


飛影は言われた通りに融性の魔剣に魔力を込めると、変化はすぐに起きた

飛影の腰に差していた魔剣が光に包まれ融性の魔剣に重なり、一瞬後には合計四種類の魔剣が一本に融合した


「おぉ」


飛影としても荷物が少なくなって楽になった

3本もぶら下げるのは面倒だったし、使える武器だからポケットに入れておくのも躊躇われていた


「もう一つは…飛影と戦いたいってことと~ラストに世界を壊すモノについての教授しよう」


にっこりと笑うカガリ

何を考えているかはわからないが滅多に無い絶対強者級との戦いである

飛影も笑みがこぼれた

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