第24話。篝火

椿がアイステンペストを旅立ってから二日経った時のことである


「…ん?」


飛影は目覚めた

フカフカの布団の感覚にすぐに起き上がる飛影


そこはイニシアチブ国の医務室である

部屋の中に誰もいないことを確認してから、ふかふかのベットに寝ていたことを認識して飛影は持ち物を確認する


魔剣三刀無し、黒のコート無し、上半身包帯だらけ、下半身ズボン


「…」


何もなかった

唯一ミサンガだけはあることが救いだろうか

餌場に到着して餌を片側だけ食い殺してもう片側に行けうとして倒れたことを思い出す


(…追いはぎ?とりあえず取り返す)


飛影はベットから降りて怪我を確認すると、あらかた治っていた

イニシアチブ国には治療ができる魔法使いがおらず、手のつけられないほどの傷であり止血だけされていただけだったが飛影の災厄としての自然治癒により治っていた


(魔力は…満タン)


飛影はコンディションが最高の状態であることを確認して、魔力探知の感覚を拡げる

飛影は魔王だが、盗賊でもある


自分の物は自分の物、盗った物も自分の物

というジャイアニズムを持っている


そのため盗難防止のために自分の物には全て魔力を付けているため、魔力探知で自分の魔力を探せばそこに自分の物があるのだ


(誰のモノを盗ったのか思い知らす…殺す)


魔力満タンの飛影による魔力探知

半径10キロ程度


一般人にとっては妙な胸騒ぎがする程度

魔力が高いもの…特に魔法使いにとっては恐怖で腰を抜かす


飛影は自覚していないが、魔力量は絶対強者級に届いている

実力的にはまだまだ、絶対強者級と呼べるほどではないが魔力量は充分だった

反則級である魔法使いならそれだけで恐怖を覚える


飛影がただ無感情に魔力探知を行えば話は別だが飛影は今自分の物が盗られていると考えているため明確ではないにしろ殺意を持って探知している


そして飛影は発見した

飛影にとっては都合が良くコートも魔剣も同じ場所にあった


何故イニシアチブ国の城の者が飛影の持ち物を飛影から離しているか、それには理由がある

飛影が魔王だということはその強さと10年前のトーナメントを観戦していた者がいてすぐに発覚した


魔王である飛影の特徴として自由気ままという噂が流れていた。魔法使い殺しである飛影だが被害者は全て例外無く殺されている

さらに目撃者も助けられたという者が多く感謝をしようとしてもすぐに姿を消す

そのため、悪い噂が流れることはなかった


イニシアチブ国の王はそれを聞いてどうにかこの国に止まらせないか考えた結果、飛影の物を確保することを思い付いたのだ

と言っても飛影が目覚めた時のために誤解を招かぬよう従者を待機させて預かっていることにして宴を行い気に入ってもらうことが目的だ


ただ偶然にも従者が席を離れたタイミングで飛影が起きてしまった

王としては魔王という巨大な戦力が欲しかっただけであり、特にそういった飛影を害することは無かった。だが、そんな些細なタイミングのずれがこの国が滅んでしまう原因となった


「…っ!?」


王は妙な胸騒ぎを感じたと同時に側近の魔法使い二人が腰を抜かし地べたに座り込む

その顔には恐怖が貼り付いていて、冷や汗も掻いていた

そして執務室の扉が吹き飛ばされる


『!!?』

「あった」


魔力を頼りに飛影は執務室にたどり着いた視界には魔剣とコート。そして泥棒が三人である

飛影は一直線に歩いて魔剣とコートを手に取り身に付ける。

執務室にいる王と側近の合計三人は何も言えない


「ひっ…」


執務室の外

廊下にある血溜まりを発見してしまった王は悲鳴をあげても側近の魔法使いは反応できない。強大な魔力に何もできない。何をする気持ちにならない

装備し終えた飛影が三人を視界に入れた


《バインド・縛》

《移動砲台・最大出力》


側近の二人は跳び跳ねるように起き上がり、魔法を発動する。明確な殺意を感じ取り反射的に発動したのだ


「遅いよ」


だが発動する前に飛影は魔剣の一刀を抜刀し接近し、魔法使い二人の首を跳ねる

泥棒は排除する


相手が王だろうが関係はない、飛影の考えはそれだけだった


「たすけ」


命乞いをしようとした王の身体が二つに裂かれる


「さて…さてはてさてはて…皆殺しだ」


飛影はニヤリと笑うと城の者を全て殺すために動き出す同じ建物にいるのだから全員共犯だ

ゆっくりと一時間程時間をかけて飛影は城の者を皆殺しにして、宝物庫から宝物を全て盗み終えてから城下町に降りる飛影


返り血は全て燃やし尽くしたため、ただ上の服を着ずにコートを着ている刀を三本持っている少年という奇人にしか見えない

飛影は城下町に住む者を殺そうとは考えていない

理由としては城は城、城下町は城下町だからである


飛影の行き先は決まっており、図書館だった

この10年でアイステンペストの図書館一館分の大体は読み終えており、本の重大さを知ったので知識の補充である

しかし…


「ダメか…」


飛影は図書館に入ると溜め息を吐いた。イニシアチブ国の図書館は魔法図書館

魔法についての本が揃っている

飛影は大体のジャンルは網羅したが魔法関係の本は見ていない

理由としては、内容が理解できないからである


基本的な内容は魔法使いがどうやって魔法を修得したかを記述したものになる


しかし魔法は十人十色

修得方法も違う


魔法ほど誰かの意見が参考にならないものは無く、感覚で理解するものだと飛影は理解している

なので飛影はとりあえず目ぼしい本を全て盗ってから図書館をあとにする


(どうしようか)


目的が無くなった飛影は国を出て、飛影は魔剣を一本取り出して上に投げる

定番になった行き先を決める手段である


魔剣が示した方向は森であった

飛影は地図を確認すると、広大な森であることを確認する

そして、森から奇妙な魔力を感じ取り飛影は森へと進んでいった


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数日後


椿がイニシアチブ国にたどり着いた時には国中がパニックになっていた

国を歩きながら聞き耳をたてていた椿

内容は城の者が皆殺しにされていて宝物庫の宝が全て盗られていたとのことである


(…飛影君…)


椿は誰が殺ったのかなど推理するまでもなく察した


(…探さなきゃ)


そして休むことなくもう既にいない飛影を捜すために椿は聞き込みを開始する


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同時刻


宝物庫の宝の鑑定をしつつ進んでいたためゆっくりとだが、飛影は森の奥深くまでたどり着いた


本来であれば光の届かないそして景色も変わらない森の中で真っ直ぐに進むことはできず、同じとこを回り続けたり、森から出ることかあったりする

この森にはそのように迷うように意識を誘導させるような魔法がかけられているのだが、飛影は意識せず強引に魔力量で跳ねのけて森の中心部までたどり着いた


目の前に一軒家が建っていた


近くに澄んだ川が通っていて

太陽が当たるように森が切り取られ光がさしていて洗濯物が干してあり

自家栽培をしているのか、畑が作られていて作物が育てられていた


誰かが住んでいる様子が感じ取れる

生活臭溢れる森の中心部であった


バンと扉が開かれる


洗濯物を取り込もうとしたのか、木で作られた籠を持ち可愛らしい寝間着に身を包んでいる外見は同じ年ほどの少女


「ん!?」


少女は飛影の姿を確認すると、今の自分の格好を確認し、わたわたと慌てながら扉を閉める


数十秒後


再び扉が開かれて少女が現れたのは黒のローブを身につけた少女

不敵にニヤリと笑い突っ立っている飛影の方を向く


「よくきたな…よく私を見つけ出すことができたな…クク…貴様は何を望む?なんでも叶えてやろう」


少女はまるで別人のように振る舞っている。身長は155㎝程で細身の身体に整った容姿。肩まで伸びている金の髪に二重の金目が特徴で

腰に手を当てて格好つけようとしている可愛いがどこか妖艶な表情

先程の可愛らしい寝間着を着た少女と同一人物である


飛影の回答を待つニヤニヤと不敵に妖艶に笑っている少女


「クク…どうした?望みがあるのだから来たのだろう?…恥ずかしがらずに言えば良いじゃないか…」

「いや、別に無いが」


飛影の回答、特に望みは無い

精々が強くなることだが、自分で叶えるものだと思っているので誰かに叶えてもらう願いは持っていなかった


「え!!?無いの!!?」


妖艶な笑みが崩れ、驚きの表情に変わる


「無い」

「えぇ!!?けど私を捜しに来たってことは願いがあるんじゃないの!!?」


「…何を言ってるんだお前は?」

「えぇぇ!!?意味がわからないよ!!…私の噂を聞いて来たんじゃないの!?」


「まずお前誰だ?」

「知らないの!!?」


あまりにも予想外な飛影の反応にその場に崩れ落ちる少女


この少女は『願いを叶える魔女』、『道先を照らす篝火』、『古参の絶対強者級』

テスラ・カガリ


このカガリと出合い飛影は世界を救い、同時に絶対強者級に引き上げられることになる

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