魔王

第22話。成長

10年後


「眠い…」


つい先程山賊に滅ぼされた村に飛影はいた

身長は160cm程に延びており、成長が止まっていた


歳を考えれば平均よりかは小さい

ツンツンした黒髪は変わらずそれのおかげで少し身長を誤魔化されている


顔立ちは整っていて子供の頃の面影はまだあった

黒いブーツに黒いズボンに灰色のタンクトップに黒のコートを着ている

腰には三本の刀が差されていた


魔剣である


飛影は10年の中で十全の魔剣を三刀集めていた


熱に強い熱性の剣

強固な硬性の剣

そして刀の長さを自由に変えることができる伸性の剣


飛影は三刀を使うのではなく、ただ単にてきとうに刀を抜いてそれを使用しているだけである


そして欠伸をする飛影の周りには死体の山が築かれていた

それはつい先程この村を滅ぼした山賊達である


屍の上に座って読書をしている飛影

ズボンに血がつくことも気にせず座って欠伸をしている


(次はどこに行こうか…)


飛影は腰に差している魔剣を上に投げる


「西か…」


鞘に納まった魔剣は西の方角を差していた


《狂戦士》


飛影は魔法の気配と同時に屍の山から降りる


瞬間


屍の山が吹き飛んだ


「オマエハコロス!!」


屍の山を吹き飛ばしたのは山賊達のリーダーであった

特に問題なく村を滅ぼして、子分たちに任せてリーダーは付近を詮索していた。時間にして10分程度

その時間で子分たちが全員屍になっていた


眼が真っ赤に充血している

だがそれ以上に肥大化した筋肉が印象に残る


「肉体強化の魔法使いか…」


飛影は冷静に相手を観察する

発されている魔力は明らかに反則級の上位に位置する

今まで気配も感じなかったことが不思議であった


「アアァァ!!」


山賊のリーダーは怒りのままに地面を思いきり殴り付ける

それによって生まれた衝撃が飛影に襲いかかる


「…」


飛影はその場で跳躍

リーダーの拳一つで巨大なクレーターができあがり、小さな村そのものが崩壊した


「あれか…」


飛影はそのことにも驚かずただ観察を続けていた

そうして発見したのはリーダーの腕輪


「クロイツじゃないな…魔力隠蔽のサキノトか…とりあえず貰う」


飛影は落下しながら見定める


現在、飛影は跳躍しており現在は自由落下中である


「コロスコロスコロスゥゥゥ!!」


身動きがとれる態勢ではない飛影へリーダーは狂化され強化された脚力で地面を蹴った

地面が衝撃で爆発すると同時に飛影まで一瞬で接近し勢いと強化された腕力で飛影を全力で殴り飛ばす


「っ…」


飛影が片手でリーダーの拳を防いだ瞬間にロケットのような速度で吹き飛ばされた

生身の人間なら爆散している一撃を食らった飛影は300メートル程吹き飛ばされ地面にバウンドしてから態勢を整えて着地する


その身には傷一つついていなかった


(…狂化されて理性を無くすことを対価に大幅に強化されてるのか…)


傷はついていないが痺れた手を軽く振る飛影の逆の手には開きっぱなしの本がある

強化された脚力は一瞬で飛影に接近することが可能で両手が使えない飛影に追い討ちをかける


速度と力に任せたフルスイング

飛影は本をしまい今度は両手で受け止める

しかし飛影の小柄な身体は地面に叩きつけられる


「っ…」


地面に沈み動きが鈍った飛影の顔面にリーダーは拳を降り下ろす

自身の怒りを象徴するように何度も何度も殴り付ける


《炎舞・炎乱》


15発ほど殴られてからようやく飛影は魔法を発動

炎の塊がリーダーを押し返し吹き飛ばす


「さすがに…死ぬ」


額から血が溢れて飛影の顔が血でまみれていた


「10トンじゃこのレベルはまだ無理か…はぁ0」


飛影は諦めたように溜め息を吐く

飛影の四肢にはミサンガが取り付けられている


重さを自由に変えることができる代物であり先程までは一つ10トンあった

しかし飛影が0と言葉にすることで重さが無くなった


「…死ね」

「ッァア?」


飛影の魔力が解放されリーダーが構えた瞬間姿が消えた


「終わり」


気付けば飛影は背後に立っていた

そして背後にいると認識した時にはすでに決着がついていた

身体が細切れになっていくリーダー


「うん…お前意外と楽しかった」


《炎舞・清浄》


飛影の身体が火に包まれる

次の瞬間には血が綺麗に取り除かれた飛影がいた


「おおう」


しかし傷口が再生されておらず再び血が溢れる


「はぁ…絶対強者級まではまだ遠いな…」


傷が再生されるまで放置することにした飛影

一つ溜め息を吐いた


「ん?」


そして飛影は気付いた

呼吸を止め眼を閉じて耳を澄ます


(騒がしいな…)


飛影の耳に集団と集団が争っている音が届いた

眼を開ける


(血の匂いもするな…)


飛影の嗅覚はこの村以外にも風に乗ってやってきた血の匂いを嗅ぎとる

魔力探知の感覚を拡げ、50キロほど先に大量に人がいた

強い魔力もチラホラと感じとる


その時点で飛影の進む方向が決まる

そして重さを10トンに戻し、サキノトをしっかりと回収してから飛影は走って向かう


飛影がそこにたどり着いたのは30分後である


炎舞の炎で空に浮いて見下ろす

万を越える人と人が殺しあっていた


(…なんだこれ?)


初めての光景に驚いてしまう飛影

それは戦争であった

大国と大国が戦争している光景だ


戦争の理由はある大国が飢餓になる危険性があることに気付き他の国から食料と畑を耕すための領地を奪うためであった


戦争の理由などそんなものである

この世界のこの時代の戦争は一般兵が槍や剣や弓を用いて戦う

そして、魔法使いという切り札を使って敵の数を減らすことが一番の戦略である


人の身でありながら人を越える人外

それが魔法使いである


大国同士の戦争はいかに強力な魔法使いがいるかで勝負は決まると言っても過言ではない


「…いた」


そんなことに興味も無い飛影は強いやつを上から捜し見つける

もう一度炎を身体に包み血を取り除く

血はすでに止まった

休憩など取る気も無く飛影は跳躍


「さぁ…」


飛影はこの戦争に参加している魔法使いの中で一番強い者の傍に着地する

人が集まって勝負の邪魔であると判断した飛影は伸性の魔剣を抜き全力で刀を薙ぐ

同時に刀を50メートル程に伸ばす


人や鎧という壁をもろともせずに飛影は振りきる

剣速で衝撃波が発生し半径300メートルにいた人間は全て消し飛ばされる


残ったのは飛影が敢えて狙わなかった魔法使いただ一人


「狩りの始まりだ…」


一瞬で1000人程度の命が摘み取られた


「こいつ…!!」


一人死体の中に取り残された生者一匹

魔法使いの男は魔力を解放する。それは先程の盗賊よりも強力な魔力


《泡渦・展開》


魔法を発動する

泡が飛影の周りを取り囲み漂う


「…?」


よくわからないが強者であることを認識し飛影はニヤリと笑い魔力を解放


静紅に言われた通り、相手と実力を合わせ男と同じ魔力の大きさで魔力を解放した

今度は男が笑う


魔力が解放された際に衝撃が発生し、その小さな衝撃で泡が破裂する


「っ!?」


一個あたり僅か一センチほどの泡が無数に飛影を取り囲んでいた

泡の一つの破裂は衝撃で半径三メートル以内の人間を木っ端微塵にする威力


その泡が破裂しその衝撃で他の泡が誘爆する

その中心には飛影がいた。死体すら残らない必殺技


《炎舞・火柱》


確実に殺したと男が判断した瞬間

火柱が空高く立ち昇る


「…危なかった」


その中には飛影がいた

炎と熱による空気で衝撃を逃がしてギリギリ逃れた飛影


しかし咄嗟に発動したため完全に殺しきれておらず、右足が120度に折れ曲がり、腹に穴が開いて内臓が破裂しており、塞がってきた頭の怪我も再び出血が始まっていた


飛影はボロボロの身体であるが全く気にせずに魔剣を杖代わりに片足で立っていた


「生き残ったやつは初めてだな…」


思わず戸惑ってしまい追撃の手が止まる


「本気で死ぬかと思った。誇っていいぞ」


痛みを感じていないのか飛影はニヤリと笑う


「俺はカリスだ…サニブル王国魔法騎士団団長…王国最強の魔法使いだ…それがお前を殺すやつの名だ」


カリスの装備は立派な鎧に大剣である。泡渦で相手の動きを奪い剣で切り裂く

泡の威力はそれだけで死ぬ危険性があり、掻い潜っても人を超越した剣技で殺される


王国最強は伊達ではない

歳は28と若いが実力は折り紙つきである


「飛影だ…この魔界の魔法使いの王の魔王だ…それがお前を殺すやつの名だ。魂に刻み付けろ」


対する飛影も負けじと名乗り返す


「…魔王…だと…あの大陸最強のヤラン国を三日で滅ぼし大陸最強の実力者であるルインに勝利した魔王か…相手にとって不足は無い!!」


剣を構えて気を鎮める


「楽しませてくれ」


杖代わりにしていた魔剣をしまう


《泡渦・包囲》

《炎舞・解放》


カリスの泡が飛影を包囲する前に飛影の両手に緑色の炎が作成される

炎を噴射して宙に浮く

片足が折れたことによる機動力の低下を補う


泡が飛影を包囲する前に抜け出した


《炎舞・狂喜乱舞》

《泡渦・ウォール》


「はは!!」


飛影は笑いながら、緑色の炎を全身に纏い右手には矛の形をした炎が顕在している

全身の炎がブーストのように噴射され飛影は高速でカリスに突撃する


「バカめ!!」


飛影とカリスの間に巨大な泡が壁を作る


カリスの泡は大きければ大きいほど威力が大きい

単純な威力なら展開よりも強い


「あはははは!!」


飛影は臆することなく泡に突っ込む


僅かな衝撃で破裂する泡は一瞬で弾ける

魔法の使用者であるカリスは無傷だがその衝撃は半径500メートルを弾き飛ばす


敵味方は関係がない

今ここで殺さなければならない存在である


「はは…お前…面白かったぞ!!」


《炎舞・絶刀》


粉塵の中から炎に包まれた刀が伸びていた

避ける暇も無く腹に突き刺さるカリス

確実に殺したはずであったが飛影は泡の壁に突っ込んだ際のダメージは無かった


「な…ぜ…」


強力な一撃だったはずであり、見事に飛影に直撃したはずである

カリスには現状が理解できていない


「俺の魔法は防御に不向きだからな…」


炎は実体が無い

だから衝撃のような物理的で実体を持たない攻撃を防ぐには向いていない


「だから、衝撃を攻撃して相殺させた」


飛影がやったことは単純明快


防げないなら攻撃して相殺しただけである

攻撃は最大の防御を体現させたのだ


「まぁそんなわけで死ね」


飛影は刀に包ませていた炎の指向性を解除

一瞬にしてカリスの身体が焼失する


「ゴホっ!!」


飛影は溜まっていた血を吐き出す


人間であれば死んでいる程の怪我

災厄の身体であるためまだ生きているに過ぎない


「次に強いのは…」


しかし飛影は休むことはせずに周囲の人間を殺しながら進む

死ぬことなどどうでもいいように

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