第19話。決勝戦
準々決勝が終わり、飛影と静紅は治療され次の日には完全回復していた
しかしながら準決勝は飛影と静紅は不戦勝である
優勝候補であるライトとニングを相手に圧倒的な勝利をした二人には勝てないと判断したのだ。その判断は極めて正しい
空いた時間を飛影はトレーニングと読書をする
静紅の暴走を止めた際に、実力の差を感じた飛影はせっせと身体を鍛えていた
静紅は城の宝物庫に侵入しにいって、いくつか良い宝を盗んでいた
途中で椿とスノウが飛影を街に誘い遊びにいったくらいで平和に過ごしていた
椿とスノウを見て、飛影は一つ頷いて決心する
そして最後の決勝戦
「…」
「…」
「ウハハ!!」
今までとは違い、飛影と静紅は緊張し警戒していた
笑っている男性と無表情な女性
男性の方は、まだ若々しく20代前半にしか見えない イケメンとしか言えない顔
自然界にもっとも相応しい そして髪の色として異質な緑の髪をしている
身長は180cmでいわゆるモデル体型である
女性の方は、身長は178cmで俗にいうモデル体型で誰がどう見ても綺麗と思えるほどの女性
黒くどこまでも黒い髪が腰まで伸びていた
有無を言わせぬ強大すぎる圧力が飛影と静紅にのしかかる
(アギトと同じ…!!?)
(絶対強者級…)
〈さぁ決勝戦です。飛影選手と静紅選手…優勝候補を圧倒的に叩き潰した実力者…それに対するは魔力値平均五千の最弱コンビ…しかし体術で決勝まで勝ち残った…ダドマ選手とギルギア選手の戦いです。それでは試合開始!!〉
「よぉ!!魔界の魔王が代わったって聞いてきたが、まさかこんな子供だとは思わなかったぜ」
ニヤニヤと笑うダドマ
「魔界の…?」
魔界
飛影の知らない単語がでてきて、疑問に感じる
「なんだ?知らないのか?あ~説明は面倒だから…とりあえず主たる世界は三つあって、お前は魔界の魔王…俺は人間界の魔王…理解できたか?」
今までとは立場が逆で、飛影と静紅を相手にするダドマとギルギアは緊張感が0だった
「んで、今回は顔合わせ…アギトが殺られたからどんな奴か気になったからな…しっかしこんなガキとは…実力も絶対強者級に届いて無いんじゃないか?」
「そうじゃな…補佐はすでに見つけておるのが驚きじゃが、補佐の方が強いの」
魔王の説明書を見ていない飛影にはさっぱりな会話でついていけていない
「私は補佐じゃないわ…しいて言うなら同属ってところかしら」
一応はまるまる読んだ静紅がギルギアの言葉を否定する
「ふむ…同属かの…まぁ良い」
「さてはて…楽しませてくれよ」
笑うダドマとギルギア
飛影は刀を抜き静紅は手刀を構えて
四人同時に魔力を解放する
今までの手加減とは違う本気の全力
そして相対する二人の絶対強者級とそれに近い実力者の飛影と静紅が魔力を解放する
それだけで付近への影響は計り知れない
「おっと…」
ダドマがそれに気付き結界を観客との間に張る
張らなければ周囲が吹き飛んでいた
「…ああぁ!!」
《炎舞・焔刀》
飛影は刀に緑色の炎を纏わせて全力で投げつける
踏み込んだ足だけでリングが崩壊する周りもルールも無視した一撃
空気を引き裂いてダドマに向けて放たれる
魔力を解放しただけではっきりと勝てないと理解したが飛影には関係無い
「良いね~そういうの」
しかし余裕の笑みを浮かべるダドマ
《天変地異・水壁》
飛影の全力の一撃はダドマの目の前に水でできた壁が現れる
厚さは一メートルほど
激突
攻撃力だけなら静紅以上の飛影の全力の一撃は圧縮されていた水を弾き飛ばし雨のように爆散させる
だが
「残念」
あまりにも格が違っていた。飛影が散らしたのは上部の水だけ
鎮火された刀が水の中に浮いていた
《グラビティ・圧》
そしてギルギアが手を飛影達に向ける
(まずい!!)
本能でその危険性を理解した静紅
《完全領域》
防御壁を展開し、飛影と自分をその領域内におく
少なくとも飛影と静紅の中で一番強力な防御
アギトの一撃にもギリギリ耐えることができた完全領域
「甘いの…」
一瞬で粉砕された
「!!?」
避ける防ぐを考える前に飛影と静紅は上から降り注ぐ見えない何かの力によりその場で押し潰される
「ぐっ…」
「…重力…ぅ」
飛影の最初の一撃でリングは粉砕され全員がリングアウトの状況なのだが、誰も気にはしない
もがくことも何もできない
圧倒的な実力差がそこにはあった
「まぁまだこの歳なら仕方ないかね…」
どこかつまらなそうなダドマとギルギアも何か不満そうであった
「喧嘩相手ができたと思ったが…あのド腐れは喧嘩にならないし…はぁ…世知辛い世の中だ」
「そうじゃの」
《完全領域》
再度、その隙をつき静紅は完全領域の防御壁を展開
一瞬で破壊されるが、一瞬だけ重力の檻から解放される
《炎舞・昇揚》
その一瞬に飛影は対応し、炎をジェット噴射
《炎舞・拳》
一瞬でギルギアに接近しながら一回転
「死ね!!!」
緑色の炎を纏わせてギルギアの顔面を殴り付けた。アギトの攻撃すらも焼き払った一撃である
しかし、現実はあまりにも無情だ。ギルギアは吹き飛ばされることも無く身動ぎ一つ無い
魔法を使われたわけでも無く
ゴキィ!と飛影の腕の骨が砕けた
「な…?」
ギルギアの頬には黒い鱗が現れていた
一瞬で黒い鱗は見えなくなったが、ただそれだけで防がれたことは理解できた飛影
《グラビティ・天地変化》
ギルギアが飛影に手を向けた
再び重力が飛影の正面から叩きつけられる
その効果範囲に入っていた静紅もろともダドマが張った結界に激突し押し潰される
「カーテンコールだ…悪いがアンコールはないぜ」
《天変地異・水袋》
ダドマは指先から拳大の水の球を造りだし飛影と静紅に放ち、その球はギルギアの重力により加速する
「くっ…!!」
《完全領域》
なんとかして防ごうとする静紅だが重力だけでも壊れる上に追加で水の球が追加されている
完全領域の維持は一瞬すら存在しなかった
「くっ…そ…」
「ぅ…」
水の球は飛影と静紅の腹に直撃する
意識を刈り取るだけの一撃は飛影と静紅の内臓を破裂させて意識を刈り取った
ギルギアが魔法を解除すると力無く地面に落下する飛影と静紅
(…まだ…だ!)
ギリギリ意識を保った飛影は空中で態勢を整えて着地する
《炎舞・槍》
魔力全開
飛影は今ある魔力全てを使って魔法を構築
圧縮された緑色の炎の槍は一メートル程の長さ
圧縮しすぎで緑色の炎の色が黒ずんでいた
「あぁぁぁぁあ!!」
飛影はありったけの力を込めて放った
正真正銘の飛影の全力の一撃は結果を見る前に飛影は意識を失って倒れる
「悪あがきか…悪くないな」
《天変地異・水爪》
ダドマは指先から水の爪を構築
人差し指だけから延びている水を見ながら軽く腕を振る
爪が延びて槍を両断する
「…おっ」
しかしその槍は二段構えで何かが触れて発動する条件付き
ダドマの一撃で両断されたが触れられた。両断された槍は圧縮された炎の塊
本当に周囲を考えない攻撃の炎が爆発した
「ちっ…」
《グラビティ・黒穴》
ギルギアは舌打ちしながら魔法を構築
槍の付近にポツンと黒い穴が出来上がる
それは全てを吸い込むブラックホールが発生する
飛影の全力の炎だろうが関係無く全てを呑み込んでいく
ギルギアはすぐに魔法を解除した
僅か三秒だけ展開。飛影の炎は綺麗さっぱりと消え去っていた
〈…決着!!なんと優勝したのはダドマ選手とギルギア選手です!!圧倒的な実力差をつけ、優勝です!!〉
それは、飛影にとって初めての圧倒的な実力差で敗北した瞬間であった
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