第18話。準々決勝

第三戦。残り7組

準々決勝であった


そして準々決勝最初の試合に飛影と静紅はリングにいた

飛影は器用に逆立ちで片手腕立て伏せをしながら本を見ていた


〈さぁいよいよ準々決勝!!驚異の強さを誇るキッズ飛影と静紅!!対するは…一切苦戦せず…圧勝を観客に魅せたペア!!優勝候補ライトとニングの電撃コンビ!!〉


魔力値は今大会最高の10万のコンビ

槍をもつライトとニング。ライトが男でニングが女である


歳は16歳前後で若き天才とされている


「あぁ飛影君…この試合は私にくれる?」

「いいぞ、この本見たいし」


対して飛影と静紅は相変わらず緊張感ゼロ

構えもしない


〈試合…開始!!〉


《槍創・槍》

《雷来・纏》


ライトが巨大な槍を造りだしニングが雷を纏わせて放つ

二人の必勝パターン

今までの対戦相手はこの一撃で沈んだ


「ふふ…」


《完全領域》


静紅は微笑みながら魔法を発動する。防御壁が静紅と飛影を包む

静紅の完全領域は槍を逆に砕き二人とも無傷である


『なっ!?』


ライトとニングは完全に防ぎきられ同様が走る

静紅はそれを当然の結果として笑っている


〈なんと防ぎきったぁ!!?さすがは準々決勝といったところか!!しかし恐るべき子供たちです〉


若き天才達。しかし若き化物の足下にも及びはしない。今はまだ遊んでいるが、本気になれば秒で殺される程度の実力差がある

飛影はトレーニングしながら読書の態勢は全く崩さない

静紅はその場に座り込みお茶と煎餅を取り出し和み状態に入る


「あっ…終わったら教えてね」


余裕の笑みは完全に舐めていた

そして若き天才達にとっては初めての屈辱であり、許されないことであった


「ふ…ざけるな!!」


《槍創・巨槍》

《雷来・落雷》


先程の攻撃より一回りの二回りもでかい槍を構築し空へと投げる

落雷が槍を包み雷と同じ速度で完全領域へと落ちる


「飛影君、煎餅いる?」

「いらん」


静紅の完全領域はやりようによってはアギトという絶対強者級の攻撃を防げるほどのモノであるため、たかが反則級の攻撃を防げない通りは無い

飛影と静紅は無傷だ

それはライトとニングの二人にとって今まで培ってきたプライドが消し飛ばされた瞬間である


「くっそ…!!」


ライトとニングが無意識に一歩引いてしまう


「あら?もう終わり?」


それに目敏く気付いた静紅。完全に小馬鹿にしていた


「っ!!?」

「ふざけないで!!」


《雷来・地雷》


ニングは地に手をつけて雷を流し、ライトは巻き込まれないように上に跳躍する

ニングの読みでは静紅の完全領域は地面を伝う雷は防げない

だが、そんな簡単にはいくはずがない

地を伝う雷は完全領域に防ぎきられた


「くぅ!!」


悔しそうに唇を噛み締めるニング


「槍創、役は騎士、用途は貫通…」


《槍創・突貫槍》


ライトは槍を手にして突撃するために腰を落とす


「何やってんだ…?」


飛影はライトの言葉に疑問が浮かぶ

魔法なら言葉にする必要はないというのが飛影の中の知識だ


「あれは瞑想みたいなものよ…想像して創造する魔法は想像の質が良ければそれに見合った創造ができる。だから彼は自分の魔法はこういうものだ!って再認識したの…それで貫通力を重視した槍を創造できたってことね」


その貫通力を重視した槍を構えているライトを見ても静紅の態度は変わることがない


「へー、そんなんもあるのか…」

「まぁ、ぶっちゃけて言えば瞑想なんてもの使用するのは実力が無い人間がやるものよ…だって言葉にしなくても自分の魔法くらい理解できてない方がおかしいもの」


微笑む静紅。自分だけの魔法でわざわざ自分の魔法はこういうものだと再認識するのは意味がない

意味が理解できない

そんなライトの突撃もむなしく完全領域によって防がれ槍が折れる

全くもって相手にされていない状況


「くそっ!!」


強すぎる静紅。ライトも噂には聞いていた悪戯遊戯

国を滅ぼしたとも聞いていたが話しに尾ひれが付いただけだと思っていた

そんな天才の慢心がある言葉を放ってしまった


「化物め!!」


《槍創・破砕槍》

《雷来・雷槍》


ライトは貫通力ではなく、とにかく丈夫な槍を創造。ニングも雷でできた槍を造りだす

だが、彼等は絶対に言ってはいけない言葉を放ってしまった


「…今の…誰に行ったのかしら?」


静紅はゆらりと立ち上がった。俯いているその表情は髪で見えない

飛影は態勢を整えて本をしまい全魔力を解放

リングにヒビが入る


「死ね」


静紅が完全領域を解除する前に、静紅が魔力を解放する前に飛影は動いた


「あなた達…ころ」


飛影は後のことなど考えず、静紅の後頭部を全力で殴り付ける


「っ!!」


地面に叩きつけられバウンドする静紅だがまだ殺気は放たれていた

静紅の肩が僅かに動いた


「っ!!?」


そのプレッシャーを受けた飛影の考えは殺られる前に殺る

完全領域内にいて破れないならば、飛影に逃げ道はない


反撃される前に

戦いになる前に

殺し合いになる前に

殺る


静紅の腕が振られる前に飛影はその腹を拳で叩き落とす


「くっ…!!」


完全領域が解除され、飛影は静紅を蹴り飛ばす。ミサイルのように吹き飛ばされ、壁に激突

壁が粉砕され観客に危険が生じるが、飛影は止まらない

いや止められない

静紅の殺気が消えるまでは、静紅の意識が失うまでは


《炎舞・炎弾》


飛影の背後に緑色の炎の弾が無数に出現する

そして容赦なく放つ

完全領域が展開される前に、完全領域が展開された瞬間飛影に勝ち目は無くなる

一息でも猶予を与えてはならない


もともと自力では静紅に勝てないと自覚しているのだ

負けない方法はただ一つ。化物と戦えるのは災厄である

暴走時にはまるで鏡写しのように似た二人

攻撃する箇所が理解できているため、引き分けにすることは可能である

しかしそれは同時にこの国の崩壊を意味する


「あぁぁぁ!!」


《炎舞・大玉》


緑色の巨大な炎の塊を構築し静紅に放つ


(…椿の居場所ができた…なら!!)


飛影と椿には居場所が無い


それは飛影が本を読んで気付いたことであった。しかし椿には友人という居場所ができた

飛影はそれを守りたいと思った


何かを守る

それは飛影にとって初めての感情だ

攻撃が直撃しているのにも関わらず静紅の殺気は収まらない


《炎舞・昇揚》


飛影は追撃せんと魔法を構築し、炎の勢いを利用し静紅に突撃

勢いのまま、静紅に拳を放つ


「がっ…!!?」


しかしやられたのは飛影の方であった

腹を手刀で串刺しにされ飛影の拳は僅かに届いていない


「寝てろぉ!!!」


しかし飛影は怯まずに更に手刀に食い込みに行く

そして届く距離まで接近し全力で殴り付けた

腕は抜け地面にクレーターができあがり飛影はクレーターの中心にいる静紅を睨み付ける


「はぁ…はぁ…!!」


静紅の状態は酷いもので全身の骨が折れて虫の息というのが、正しい


「飛影君…ありがと」


殺気は収まり、静紅は微笑んで飛影に礼を言う


〈一体どうしたというのか!!仲間割れかわからないが飛影選手と静紅選手が激しいバトルを繰り広げたぁ!!静紅選手はリングアウト!!飛影選手はリングに脚は着いていないので続行だぁ!!しかし果たして飛影選手は勝負ができるか不安になる傷を負ってます〉


「…はぁ…静紅…契約は守ってやる」


飛影は大きな溜め息と同時に口の中に溜まった血を吐き出すと、ふらふらと飛んでリングに戻る

それはライトとニングにとっては好機以外の何者でもない。勝手に戦って虫の息なのだ


「雨は…嫌いだ」


飛影が呟く


しかし空は雲一つ無い青空

ライトとニングは飛影に向けて槍を放つ

一番硬い槍と雷でできた槍の二つが同時に襲い掛かり真っ二つとなった


「は…?」


驚きの声を上げたのはライトである。真っ二つになったのは二つの槍


きん、と軽い音

刀を抜いてから刀を納めるまで、目視は不可能であった

元飛影が使用していた技

居合い斬り


「雨は嫌いなんだ」


本当に不愉快そうな表情の飛影。姿が消えて気が付くとニングは吹き飛ばされていた

リングアウト


ビクビクと痙攣しているが生きてはいた

飛影は殴り飛ばした拳を降ろさない


「この…」


《槍そ》


「遅い」


飛影は裏拳をライトの腕に当てる。ただそれだけ

それだけでライトの腕が吹き飛んだ


「あっ…?」


腕が無くなったことに気付き痛みが走る


「ぁぁぁぁあ!!!!?腕がぁ!!?」

「気にすんな腕くらいで…こっちは風穴空いてんだよ」


飛影は倒れて腕を抑えて苦痛の悲鳴をあげるライトをドリブルのように蹴り飛ばしながらリングの外までもっていこうとする


「な…なんで…」

「雨が降った」


最後に一発と大きく蹴り落としてリングアウト


〈ライト選手とニング選手リングアウト!!飛影選手と静紅選手の勝利です!!〉


飛影は勝利の宣言を聞いてから、静紅の元へとふらふらとした足取りで歩く

気絶している静紅の首根っこを掴む


「おい…行くぞ静紅…」


歩き出そうとした飛影だが、現在お腹に風穴が空いている状態である

いかに災厄といえどお腹に人の腕ほどの太さの穴が空いていれば結構な重傷

当然ながら、ぶっ倒れた


〈救護班!!今すぐに!!四人全員危険です!!〉

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