第17話。名前


初日の試合が全て終わり飛影と静紅をはじめ勝ち残ったメンバーは城に招かれていた

これは毎年恒例なことで城で静養して万全のコンディションで試合を行うためでもある

そのために治療系の魔法使いもいるほどである


静紅は無傷

飛影は皮膚が焼けただれていたが災厄の再生力ですでに生活には支障がないほどに回復しているため、使用はしなかったが、あらかた参加者は治療してもらっていた

大ホールに集められていてやはり注目されるのは飛影と静紅である


子供二人

そして強力な魔法使いは注目されるのも当然である

二人共にどうでもいいように大ホールの床に座り込んで暇そうにしている


「飛影君…お城の宝でも盗る?」

「いいのがあったらな」


物騒な会話もしていた


「さて…今年は去年に比べて豊作でな…強者が集まっている」


国王の話が始まるが、二人は特に気にせず、静紅は目当てのナイフは無いが金目のものはあると力説している


「中には娘と変わらぬ年頃の者がおってな個人的には頑張って欲しいとは願っておる」


視線が飛影と静紅に集中するが、飛影達はそれを受け流しながら静紅は盗賊とはどういったものかを力説している


「まぁ…ゆっくり静養して明後日の試合に備えてくれ…では…乾杯」


グラスをやっくりと掲げる

飛影と静紅はもちろんジュースであり、もちろん乾杯など一名は知らず一名はやる気がない。そして毎年恒例なものは自己紹介に質疑応答である

参加者にとってもうまく情報が聞き出せれば特なためわりと活気付くイベントである

他の参加者が名前と特技を言い、少しでも情報を得たいものは質問をしている中、飛影は読書をして静紅は旨そうに料理を食べていた


我関せずを地で通していた

そしていよいよといった感じでトリとして飛影と静紅の番が回る


「静紅よ…職業は盗賊…狙いはデスパラ…気を付けて欲しいのは子供だからって舐めないでね、殺したら反則になっちゃうし…ちなみにこの子は私より弱いわよ」


不敵な笑み。静紅は会場中の敵意を集めるが気にはならない

そして飛影の番である


「飛影…称号は…」

「はい、復唱。称号は魔王」

「称号は魔王」


とりあえず、復唱したが気に入らない言葉があった


「…おい静紅…誰が弱いだ…殺すぞ…」


売り言葉に買い言葉

確かに静紅は強いと思っている飛影だがそんなことはわからないと反論する

軽い殺気すら込めた視線だが、静紅の眼は輝いて満面の笑みで1㎝程度の距離に詰められていた


「飛影君飛影君!!もう一度今の台詞言って!」


なにやら興奮している静紅。かかわるのは面倒だと思ったので良すぎる記憶を再現


「…おい静紅…誰が弱いだ…殺すぞ…」


一言一句違わずに殺気も含めて再現した飛影

しかし静紅の眼は輝きを増すばかり


「初めて名前で呼んでくれたわぁ!!」


静紅の攻撃。飛影が勝てないレベルの魔力と筋力で抱き付く


「何する!!?死ね!!」


飛影の攻撃は純粋に殴るだけ、常人が食らったら骨すら残らず吹き飛ばされる一撃を静紅はやすやすと止めていた


「長かったわぁ!!初めて会った時から呼んでくれなかったものっ!!」


静紅の攻撃

良い子良い子(頭なでなで)


「こ…殺す!!」


完全に舐められたと判断した飛影は魔力を解放し、殺意ある一撃を放つ

しかし静紅に軽々と止められた


「…」


肩を落とす飛影。完全に諦めていた

これは災厄として生まれた飛影にとって最初の挫折であった


「さて…質疑応答かしら?」


飛影から離れて再び不敵な笑みを浮かべる


「魔王とは本当か?」


すぐさま質問がとぶが、その相手は静紅からすると塵芥である


「飛影君のことね…飛影君は魔王よ、魔法使いの王…まぁまだまだ実力は不安なのだけど」


もはや反論する気すら起こらない飛影は借りてきた猫のように大人しく座り込んで頬を膨らませている

だが、周囲は騒然とする

魔王というのは魔法使いの王のことである。それはあまりにも強すぎる者の称号である


「お二人の御職業は?」


スノウからの質問


「私は盗賊…飛影君は…」

「盗賊でいい」


簡潔に答える飛影はまだ不機嫌そうに頬を膨らませていた

そして今度の回答にも場内はざわめく


「もしや…悪戯遊戯か?」


参加者からの質問


「悪戯遊戯?」


静紅はその言葉を知らず首を傾げる。本人は知らない情報であったが質問者からの問いを纏めると


いわく、名前は静紅

いわく、子供

いわく、着物を着ている

いわく、盗賊

いわく、宝を盗るためには国を滅ぼすのも珍しくない

こめかみを指で叩き、今までの事を思い出し、ポンと手を叩いた


「あ…それ私ね」

「何やってんだ馬鹿」


飛影の的確なツッコミ


「欲しい宝があっただけよ!!」


懸命に弁解しようとするが、飛影は冷めた目で見る。自分自身も滅ぼしたことは棚に置いてだ


「はい、終わり!!」


これ以上は何を掘り下げられるかわからない。出して良いのはここまでである

化物や災厄の単語が出ない内に切り上げる静紅

これで一通り質疑応答は終わり、あとは食事会である


「そう言えば飛影君…どうして名前で呼んでくれたの?」


静紅の疑問はそれ一つである

嬉しいか嬉しくないかでいえば取り乱すほどの嬉しさがあったがそれとこれとは話が少し違う


「区別がつけにくいから」


飛影がジュースを口に含んだ瞬間


「死ねやコラァ!!」


物騒な掛け声と共にドロップキックが飛影に突き刺さるが、相変わらずダメージは無い


「あら?」

「つ…椿落ち着いて!!」


もはやいつものことだと飛影は気にしない。静紅もいきなりの乱入者で攻撃したものが死んでいないので疑問に首を傾げる

スノウが椿を止めようとするがそんな制止では止まらない


「どうした椿」

「どうしたもこうしたも!!?…えっ?あれ?今…」


怒り沸騰中だった椿が一気に平常心に戻る。飛影の名前呼び、効果は絶大であった


「飛影君の知り合い?」

「連れ」


「ってそういえば飛影くんの知り合い?」

「馬鹿」

「私の扱い!!?」


嘆きたくなる静紅


「あの…お初にお目にかかります…スノウです」


同年代の子供。スノウとしては物凄く話したい


「あら…?よろしくね~」

「…」


静紅はにこやかに笑いながら微笑み返し、飛影は黙って欠伸を噛み殺している。一応スノウの全身を確認して唯の人間ではないことは確認していた


「飛影くん!!私の友達のスノウ!!挨拶!!」

「ん…」


わずかに頭を下げただけである


「!!?」


飛影が頭を下げただけでも驚きではあるが、それ以上にその飛影の顔面に椿のハイキックが炸裂していた


「言葉は無いんかい!!」

「つ…椿!!?落ち着いて!!」

「お前…さすがに酷いぞ」


相変わらず無傷だが、さすがにポンポンと蹴られると飛影は納得いかないものがある

スノウは必死で椿をなだめる


「まぁ飛影君…ここはキチンと挨拶するものよ」


ニコニコと笑う静紅。飛影に知り合いができるのは良いことである

自分がお姉さんっぽい対応できているので、いつも以上にニコニコしていた


「…飛影だ」


すっかり椿の存在を忘れていたが、なにやらスノウの世話になっているらしいと認識した飛影は本で見たお世話になっているやつにはモノを渡すという風習があることを思い出す

ポケットから何かテキトウなものを取り出すと、スノウに手渡す


「?」

「!?」

「!!!!!!!!?」


スノウは渡されたものが何かわからず首を傾げ、飛影がモノを渡すということに椿が驚き、飛影が渡したモノの価値に静紅が驚愕した


「貴方…えっと、それ肌身離さず持ってなさい…それ一つで国が買えるわ…」

「!!!?」


飛影はテキトウに効果もわからず渡した髪飾り

魔法具である。効果は理解していないので、どうでも良かったのであるが、効果を理解している静紅はボソリとスノウにその価値を説明してあげる


挨拶は済んだと判断した飛影は座り込み、パクった本を読み始める

完全に人見知りの反応である


「椿…椿…飛影さんって人見知りなの?」


さすがの反応にスノウは不安になってしまう


「はっ!!」


スノウが椿の袖を引っ張ることでようやく意識が戻る

静紅はまだ思考停止していた


「ひ…飛影くん変わったね」


感想はそれしか浮かばない


「ふ~ん…」


すでに読書に集中してしまい、対応が雑になる


「まぁいいや…」


怒る気にならない椿

呆れてふらふらと飯を取りに行く椿とその横を歩くスノウ


「静紅」

「…なにかしら?」


飛影は本から視線を離し、椿とスノウに向ける


「友達ってなんだ?」

「それなりに親しい者…かしら?私もよくはわからないわ」


静紅も飛影よりはモノを知っているが友という意味が理解できない

知っているが、理解できない


飛影も同じである。辞書で意味は知っているが、理解できない


「私と飛影君は言うなれば、同族だと思うし…まぁゆっくり捜せばいいと思うわ」

「そうか…わかった」


それで話しは終了

飛影は読書に集中し、静紅はふらりとどこかに行った

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