第15話。魔術


〈さぁ始まります!!全28組のコンビたち、この中で一番強いのはどのコンビか!!?〉


出場者である28組

総勢56名の参加者達が大きなリングの上に集まっている


とりわけ目立つのが、10歳もいかない子供二人である

一人は微笑みながら余裕の表情。一人は暇そうに突っ立っていた


〈優勝したコンビには賞品としてデスパラシリーズのナイフと賞金として5,000万Gが授与されます。皆さん頑張ってください!初戦はオト国のレミとソラVS最年少コンビの飛影と静紅です。他の参加者は控え室にお戻りください〉


平均魔力値は

飛影と静紅は二万八千

レミとソラは三万


ほぼ互角の魔力値

初戦からレベルが高いと観客の熱気もでてくる


飛影達の相手は男女の双子であり、歳は20歳程

レミが女でソラが男である。二人は飛影と静紅の外見に少し余裕の表情を見せる

だが二人が浮かべる余裕以上に飛影と静紅の二人には緊張感が無かった


「飛影君殺しちゃダメよ」

「俺はお前のが心配だ」


この大会は殺すのは違反となる。殺せば即敗北となり罰せられる


「やぁねぇ…私は節度あるわよ」

「節度ねぇ…信じられないな」


冷ややかな視線を向ける飛影


「それより饒舌になったわね…」


いつもより饒舌に話す飛影


「今まで言葉を知らなかったからな…」


飛影の今までの言葉の覚えかたは全て盗賊が話していたことを覚えていただけである

この三日間で辞書を丸々一冊に小説や図鑑など大体のジャンルは総なめした飛影

必然的に使える言葉が増えたのだ


〈それでは…第一戦開始!!〉


そんなこんなで開始された第一戦

レミは杖をソラは根を構える


「あ~心配だわ…飛影君殺しちゃほんとにダメよ!!飛影君すぐ暴走するんだから」

「その心配は皆無だ」


飛影も静紅も構えようとはしない

それどころか飛影はそのまま普通に歩いて接近する

あまりにも警戒の色を見せない飛影にレミとソラは逆に警戒する


「なんか二年前から、楽しくなくなった」


《風よ…彼のモノを吹き飛ばせ、エアロショット》


ソラが詠唱という式を紡ぐ。魔法ではなく魔術

風が球状に固まり飛影へと放たれる。それは殺意は無いが明確な敵意を持っての攻撃に飛影は反射で全力で殺そうと腕を振るってしまった


《完全領域》

「ほら言ったじゃない!!!!」


ソラの魔術ではなく飛影の攻撃を防ぐために魔法を発動

反射で放たれた全力の拳を防ぎきる


「…なんだこれ?」


防がれてることではなく、初めて見る攻撃とは言えないような稚拙な魔力に飛影は戸惑っていた

飛影の攻撃のついでに放たれた風の球が破裂し静紅の魔法で完全に無効化される


〈ソラ選手の魔術が炸裂するも無傷!!!?〉


ソラが放った魔術のエアロショットはまともに食らえば大の男でも気絶する代物である。だが完全に防がれていた。様子見とは言え完璧に防がれたソラは軽く舌打ち


「…魔術?」


言葉の勉強で様々な図書を読破した飛影は該当する攻撃を判別して理解する

ただ、言葉だけで理解しているので何故このようなモノを放つかの理解が出来ていない


「え~と簡単に言えば…魔術は魔法の劣化品で、式を紡ぐことで誰でも努力すれば使える魔法もどきね。誰でも手が出せるから種類はかなり多いわ」

「当たったらダメージは食らうのか?」


首を横に振る静紅

飛影や静紅レベルであれば当たっても、垂れ流しの魔力で全て防ぎきれる

試しに食らってみるかと、飛影は無防備に前進するのを見守る静紅。色々な経験が必要だと判断しているので、微笑み自身は座ってそれを眺めることにした


「飛影君…このリングからでても敗けだから気を付けてね」

「わかった…三分だけ遊んでくるから手を出すなよ…」


飛影は静紅の返答を聞く前にコートを脱いで静紅に渡すとそのまま無警戒に接近。

今度は先程と違い武器を持っている飛影にソラとレミは同時に接近する

双子だけに息のあったコンビネーションで杖と根で飛影に乱れ付きを放つ

手数的に防ぐこともできず180度の壁である

後ろに逃げることしかできず逃げたら魔術攻撃が放たれるレミとソラの必勝パターン


「なぁ魔術使えよ」


しかし飛影は消えていてレミとソラの背後に悠々と立っていた

ただの物理攻撃に興味は無いので、受けても良かったが何となくこの程度の攻撃を食らうのが嫌だったので回避していた


「!!?」

「この子!!?《…焼けろ…世界を焼け…フレイムタワー!!》」


ソラは反転しながら根を振り回し飛影へと攻撃し、後ろに跳躍させる

その着地先

レミは式を紡ぎ大きな炎の球を放つ


炎の球は飛影が着地するより早く地面に直撃

飛影が着地すると同時に巨大な炎柱が発生して飛影を包み込む


《風よ…全てを貫く矛となれ…ジャベリン!!》


一切の手加減はない

ソラとレミの二人ともに狙われながら、その攻撃を食らうことなく背後に現れた飛影を相手に手加減は無用であった

ソラは手に竜巻を作り出し槍のように飛影へと放つ


避ける気は無い飛影は炎柱の中で攻撃の気配を感じるが再びまともに食らう

炎柱の炎を取り込み炎の竜巻が飛影に直撃し、その幼い身体を吹き飛ばす

勢い的に確実にリングアウトである


(あ、リング外は負けか)

《炎舞》


飛影の両手と両足に炎が作り出され空中で制止する


「おぉ…できた」


ふわふわとその場に浮く

確認するかのように両手足の炎の出力を調整して空中を移動する


「魔法…使い…だと!!?」

「あんな子供が!!?」


ソラとレミの動揺は大きい

魔術と魔法には絶対的な壁がある

決められたことしかできない魔術では、無限の可能性を秘める魔法に勝てる見込みは無い。そのまま色々と確かめるように炎を噴射しながら飛影は静紅の元まで移動する


「三分じゃないけど飽きた」

「じゃあ終わりにしましょうか」


飛影の我儘が終了して静紅が戦える時間になった


「どうやって倒しましょうか?」

「普通に殺さないように」


ニヤリと笑う飛影。先ほど反射で殺そうとした記憶はどうやら既に失せているらしい


「じゃあさっきの魔術使いましょうか。あれなら死なないわ」

「問題ない」


『風よ…全てを貫く矛となれ…ジャベリン』

『焼けろ…世界を焼け…フレイムタワー』


飛影とソラ

静紅とレミが同時に式を紡ぎ炎と炎、風と風がぶつかり合う

威力は互角

定められた威力しか発揮できない魔術なら当たり前のことだが、何よりも式を真似られたことがソラとレミには驚愕すべきことであった


式は十人十色


各々の感覚で自分だけがイメージしやすいようにと式を紡ぐ

それが一度聞いただけの自分たちよりも二分の一も生きていない子供に完璧に真似られたのだ


「やっぱり弱いな」

「しょぼいわね」


二人が見て聞いただけの魔術を発動した感想

魔法使いの二人にとって魔術はそれほど面白いものではない。掛け算ができるのに足し算を行っているような気分である


つまりは無駄が多い


次の瞬間二人はレミとソラを囲むように移動していた。その移動を目視できたのは会場内でも1割を切る


「圧殺!!」

「殺しちゃまずいんじゃないのか?」


既に魔術に興味が失せた飛影は意識的に手加減して攻撃をする


二人が行ったことは簡単で手を突き出すだけ

ただそれだけの動作で衝撃波が生まれ二人を押し潰す


「やはりつまらんな…」


あまりにも弱すぎる

アギトや静紅と殺しあった飛影にとって高揚感はまるでない


「良いこと思い付いたわ…飛影君技名とか考えて、魔法使ってみたら?魔法の発動速度が向上するわよ?」

「技名?」


二人して

飛影君が殺しちゃいそう

馬鹿が馬鹿をやる

と恐ろしく手加減しあった結果、気絶まではいかず打ち身程度の怪我でありまだまだやれる


「そう…技名…今のジャベリンとかフレイムタワーとかそんな感じの技名」


しかし怯んだのは事実でその間に攻撃すればすぐに飛影と静紅の勝ちは決定していた

だが二人は緊張感が無い

次元が違うことをようやく認識したソラとレミは全魔力を開放

温存など次の試合のことなど考えていなかった


「じゃあやってみるか」


だが二人は気にも止めない


《炎舞・狐火》


飛影の初めての技名

即興で本当にてきとうに思い付いた図鑑で見た狐の姿を炎で顕現する

大きさは子狐程度の大きさだが、威力は折り紙つき


『!!?』


それを感じとることができた二人。後ろに跳躍して手を繋いで式を紡ぐ


『始まりの風、終わりの炎…風の役は切断、炎の役は炎上…全てを断ち切る刃となれ…ソウルエッジ』


レミとソラ

二人が繋いでいる手に巨大な炎の刃が形成される


「走れ…」


炎であるが四足獣のように身体を縮め弾丸以上の速度で突進

同時にレミとソラは炎の刃を射出


ぶつかり合うのは一瞬

一瞬で狐火が炎の刃を弾き飛ばしレミとソラの間に着地


「そいつ自爆用」


なんとか迎撃しようとソラが根を構えた瞬間

狐火が爆発した

圧縮されていた炎が解除され炎が爆発的に拡がった

殺さないように熱を持たないその炎は身体を硬直させるだけで実害はない


『風よ…彼のモノを吹き飛ばせ、エアロショット』


飛影と静紅は同時に式を紡ぐ

やり過ぎて殺してしまう二人にとって威力が定められている魔術はつまらないが、手加減する意味では都合が良かった

風の球がレミとソラに放たれ身体に当たると同時に風の球が破裂し二人を吹き飛ばす


「がっ!!?」

「うっ!!」


成す術も無く吹き飛ばされリングアウト


「手加減するには便利だな」

「そうねぇ…殺してしまわないようにするにはちょうどいいわね」


〈圧勝ぉ!!この子供二人、蓋を開けると全く相手を寄せ付けず圧勝しましたぁ!!末恐ろしい子供達だぁ!!〉


「はい、飛影君」


静紅は片手を揚げる。ハイタッチである


「?」


しかし少しは言葉がわかるようになった飛影だがハイタッチは知らなかった


「これはね…勝利した時に行う儀式よ」

「意味がわからない」


図鑑でそんなものを見たことは無い


「手を合わせるだけよ、えい」


静紅は飛影の手を掴むと無理矢理ハイタッチする


「とりあえず理解した」


場内が湧いてるがあくまでもマイペースな飛影と静紅


「今日中にもう一試合あるそうだから、そこら辺ぶらぶらしましょう」

「面倒…本を読んでるから勝手にしてろ」

「ひどい!!?」

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