第14話。友人

「…あの野郎…どこ行ったぁぁぁ!!!!?」


椿は一人叫んだ

周りから妙な目で見られるが椿は叫ばずにはいられなかった


現在大絶賛迷子中だ

人並みに流されて飛影と別れてしまったのだ


「う~探しに来る気配なんて無いし…飛影くん私がいなきゃトーナメント参加できないのに~」


そんな椿の心配をよそに同刻

飛影は静紅と再会していた


「とりあえず…金は持ってるから飢えることはないけど」


飛影から事前に金の粒と女将さんからもらったお金をもらっているため、宿の心配もない

しかしそれ以上に一人ぼっちという状況が精神衛生上辛いものがある

とりあえず広場に行けば合流できるだろうと椿は再び歩き出す


(飛影くんがよくやってる魔力探知とか教えてもらえば良かった)


そんなことを考えながら歩いていた椿


「あぃた!!」

「きゃっ」


人とぶつかってしまった

同じ背丈のものがぶつかり椿は飛影との森生活で逞しくなっており、軽く頭を抑えただけだが、相手は踞って痛そうに頭を抑えていた

よく見ると同じ位の女の子であった


「ごめんなさい!!大丈夫?」


同じように屈んで女の子の頭を擦ってあげた椿


「うぅ…だ…大丈夫です。こちろこそ不注意でし」

「貴様ぁ!!この方を誰と心得る!!?」


少女が涙目ながら微笑んだが、それを遮って後ろにいた男が剣を抜き椿に向ける


「ほぇ!!?」


驚きながらも両手を上げて精一杯害がないことを示す


「止めなさいシュガー!!相手は私と同じ年くらいの子よ!!」


涙目の少女の一喝

先程までの弱々しい気配は消えていた。


「はっ!!申し訳ありません!!」


シュガーと呼ばれた男はすぐさま剣をしまい後ろに仕える


「…部下が失礼をしました…怖くありませんでしたか!?」


女の子に剣を向けるなど恐怖を与えてしまう

焦りながら少女は椿の眼を見るが


「ん?全然大丈夫♪あれぐらいは慣れちゃった」


その笑顔は心配してくれてる少女を安心させる笑顔で無理をしていないことは一目瞭然であった


「慣れちゃった…?」


あまりにも自然にさらっと凄いことを言った椿に少女は眼を丸くする


「いや~いろいろあってね~」


あははと笑う椿

数自体は少ないが二年間も盗賊に飛影のついでで狙われてきたり、動物に狙われたりした椿はもうあれぐらいのことは慣れてしまった

一番の恐怖だった飛影に首根っこを掴まれて投げられた時の恐怖に比べれば大したことは無い


「うふふ…面白いです」


上品に笑う少女

格好はわざとらしいほど質素な格好


「あはは…王女様に褒められると照れちゃうよ」

「っ!!?なぜそれを?えっと…私の変装完璧だと思うんですけど」


本人的には少し貧しい街の少女にしか見られないと思っていたのだ

格好もかなり汚れた外套に少しボロボロな服


「えっとね…まず、髪が綺麗」


外套で頭も隠していたが、椿とぶつかってしまい綺麗な手入れが行き届いた銀に近い白色の長い髪が露になっていた


「あ…」


椿からの指摘で今気付いた少女は慌てて外套で頭を隠す


「次に顔とか手とか肌が綺麗」


わざとらしいほど質素な格好に反比例して絹のように白い肌、汚れていない可愛い顔に綺麗なブルーアイを指摘する


「う…」

「それと服がわざとらしすぎる…年代的な使い込んだ感がない」


椿は自分の服を見せる

所々破れていて、土が染み付いたかなり年季の入った服

手足には森を歩いた時に出来た傷などが薄っすらとだが、多々存在する


「だめ押しは後ろの騎士さん…この方を誰と心得る~とか剣が綺麗だし、態度もなんかイメージ的に騎士っぽい」

「…」


椿の指摘に少女は恨めしそうにシュガーを見る


「…」


必死に眼を逸らすシュガー


「…私はスノウ・アイステンペストです。この国の第二王女です」


どこか諦めたようなスノウ

お忍びで城下町に来ている理由は友達を作りたいからである

王女という称号は同じ子供相手でも遠慮がちになってしまう


「私は椿、名字は無いの!!だから椿って呼んでね!!よろしくスノウ」


しかし椿の態度は何一つ変わらない。もともと飛影よりかはまだ常識がある程度の椿は礼儀など最小限にしか無い

人によっては無礼とか失礼とか言うことかもしれないがスノウにとってはそれが嬉しい


「つ…椿?」


緊張した面持ちでスノウは椿の名を呼ぶ

初めて同年代の者を呼び捨てにした瞬間である


しかしなかなか返事がこない

何か失礼なことをしたかと慌てるスノウだが椿は記憶を読み返しているだけである


(私…名前で呼ばれたの…初めてだ!!?)


ジソフ滅亡時に飛影が呼んだのだが気絶していたため、椿の意識がある中で名前を呼ばれたのは初めてである


「なにスノウ!!?」


一種の感動である


「椿…私とお茶をしませんか?」


初めてのお誘いをするスノウ


「喜んで!!!!」


初めてのお誘いを受ける椿

後ろにいた護衛のシュガーは目頭を抑えて感動にうちひしがれていた

これが椿にとっての初めての友達である


(…飛影くんは…いっか!!)


あまりの感動に飛影を探すという選択肢は消えていた

こうして椿は城に案内された

この国がおおらかなのか椿は普通に城に入ることができた


「うまっ!!?なにこれ!!?」


お茶といってもミルクティにクッキーだが全てが椿にとって初めての物である

普通に川の水を飲んだらお腹を壊した記憶は忘れない。もう身体が馴れたのか水程度なら泥水ですら飲める


「うふふ…クッキーっていうの」


その様子を嬉しそうに笑いながら説明していくスノウ


「椿は見ない服だけど旅人かしら?」

「旅人っていうかなんだろ?放浪人?」


とりあえず目的を世界一周と決めてるだけでただブラブラしてるだけである


「この国の滞在はとりあえず大会が終わるまでは確定してる…と思う」

「大会が終わるまで…ですか…」


思ったよりも短い滞在時間だが、アイステンペストでは珍しくない


「お父上は商人か戦士の方ですか?」


少女を連れて放浪し大会の時期に来るなら、人が集まるので商売が繁盛する商人か大会参加者の戦士しか思い浮かばないスノウ


「ううん…残念ながら馬鹿と旅してる」

「馬鹿?」


その物言いに思考がどうトチ狂ったかは不明だが護衛を連れての旅をしている高貴な生まれのものだと解釈したスノウ


「そう馬鹿…トーナメントに参加したいって感じだけど私がいなきゃトーナメント参加できないのに私のことを捜そうともしないの」

「…トーナメントに参加するの?」

「そのつもり~だった」


あくまでも過去形である

もう知らんぷりを決め通すと椿の意思は固い。困れば良いんだと拗ねている


「姫様…大会参加者の情報です」


シュガーが紙の束をスノウに渡す。毎年恒例だがスノウはこの大会が好きだった

色んな者が色んな力を使い実力を見せる

それはスノウの世界を拡げる良い機会なのだ


「ありがとう」


スノウは紙束を受け取り椿に渡そうとするが椿は首を振る


「私文字わからないの」

「そうなの?それじゃあ椿と共に行動している方の名前は?」

「飛影」


参加できてるとは思っていない椿は今まで食べてきた中でも一番美味い食べ物のクッキーを食べる。ジゾフ国で食べてた料理も美味しかったが、サバイバル生活が長く既に忘れている


「…飛影さん…ですね、いました」


しかしすぐに発見するスノウ


「うそぉ!!?」


思わず身を乗り出してしまう椿


「七歳?…ごめんなさい同名な人でした」


スノウの椿の付き人の飛影は30歳ぐらいの強面なガタイが凄くて髭が凄いイメージである


「ちょっとその飛影の情報を聞かせて!!?」


七歳という幼さならば確実に椿の知っている飛影である


「飛影…七歳…男の子…称号…魔王?…魔力値二万六千…タッグを組むのは静紅…九歳…女の子…魔力値三万…」

「あの野郎ぉ!!ちゃっかり参加してるよぉぉ!!静紅って誰よぉぉ!!」


何故かいきなり暴れだす椿


「このコンビ…かなり強いよ!魔力値が万を越えてるなんて…」


スノウが受け取った紙束

魔力値が高い順に重なってありかなり上位のランクにいたため、すぐに発見できたのだ


「魔力値って?」


その強いの基準がわからない椿。そもそも魔力などよくわかっていない

とりあえず、盗賊達を瞬殺する飛影は物凄く強そうという認識だ


「魔力値はトーナメントに参加する資格があるかを測るもので、5000以上で参加できるの、5000ならこの国の隊長になれるわ…三万は普通に部隊長以上」


椿は飛影が垂れ流しの魔力で測ったことは知らず、国を滅ぼした飛影が二万六千で部隊長は三万ってどれだけ強いんだろうと軽く想像してしまう


「ちなみに私は一万、シュガーは五万よ」

「強っ!!?」


飛影の二倍である

あの飛影の二倍の強さなんだと椿はシュガーを軽く尊敬する


「今回の大会の…最高が…十万!!?」


スノウは一番上に記載されている魔力値を見て驚愕してしまう

過去最高である


「そういえば…飛影という方の称号の魔王ってなに?」


今度はスノウの疑問だった。何か強そうな称号のため気になったのだ


「私もわからないよ?」


飛影から魔王という言葉を聞いたことがない椿

それも当然で、本人は全く理解してない。


「…」


椿とスノウはわからないがシュガーだけは知っていた

魔法使いの王

魔法使いの頂点

それが魔王


(…まさかな)


たったの魔力値二万六千の七歳の子供にできる称号ではない


「椿…一緒にトーナメントを観戦しましょう!?」

「いいよ!!」


スノウとしては初めての友達との記念であり、椿としても飛影が無茶しないように見張っていたいし、初めての友達からの誘いを断るなどの選択肢はない


「じゃあ…私、お父様を説得して椿が城に入れるようにしてくるね!!」


一分一秒が勿体無いとスノウは意気揚々と父親の説得をするために走り去る


「…」


あまりの行動力にポカンとしてしまう椿


「スノウ姫は椿様のようなご友人ができて嬉しいのですよ」

「私も嬉しい!!」


柔らかに微笑むシュガーと椿


二分後

説得というよりも

お父様!!私に友達ができました!!城に滞在させてください

なに!!?それは良いことだ許す!!


と一言二言のの会話で終了した

アイステンペストは国も王族もおおらかであった

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