第11話。災厄
二人は外に出ていた
「あっ!!飛影くんあれ美味しそう!!」
「…」
はしゃぐ椿を先頭に飛影はついていく
飛影としても目新しいものばかりで視界は一点に集中することがない
周りからは微笑ましい光景であったが、見るものが見ればそれは獲物を選ぶ肉食獣の眼である。
それと比べて平和な椿が指差したのはホットドッグのようにパンに肉を挟んだもの
「おじさん二つ頂戴!!」
幸せそうな笑顔の椿
「はいよお嬢ちゃん…300Gだ!!」
「これで!!」
たった300G
それを椿は金の粒で払う
「…」
目を丸くして時が止まる屋台の主人
さすがに貰えないと時が動いた時にはすでにいなかった
「どうだ!!飛影くんこれが料理だよ!!」
人肉では無い食べ物
ファーストフードのようなものを料理と呼ぶかは不明だがまともな食べ物であることは確かである。自分が作ったわけではないが、胸を張って飛影が食べるのを待つ
「ん…」
どうやら飛影の口にあったようで、すぐに一つ平らげる
「どう?」
「うまい」
指についたタレを舐めとる飛影。行儀は悪いが気にする者はいない
「やったー!!私の勝ち!!」
万歳して再びはしゃぐ椿
勝負事になった記憶は無い飛影だがどうやら負けたらしい
「これ作れる!!?」
「わからない…」
飛影としても気に入ったため作れるなら作ろうと考えるが調理方法がわからない
そもそも人肉でも食う飛影に対して味の細かさなどわかるわけではない
「う~残念…あっ!!?飛影くんあれ食べよ!!」
次に椿が発見したのは水飴である
椿は聞いてはいるが疑問系ではなく飛影の返事を聞く前に屋台に突撃する
「…」
本心から渋々といった様子で飛影はそれに追従する
「おじさん二つ頂戴!!」
そして再び椿は金の粒で支払う。水飴売りのおじさんが思考停止しているのは気付いていない
「買ってきたよ!!食べよ?」
「ん」
一つを飛影に渡す椿
木の串が二本水飴に突き刺さっている
「どうやって食べるんだろ?」
色々な角度で観察する椿を横目に飛影は水飴を一口で頬張る。もともと水飴は少量を口に含むものである
「脳みたいな食感」
ネチャネチャと口の中に残り食べづらそうな飛影
ヌチャヌチャと口に残る感触は脳を食べているようなもの。少し甘いが飛影にとっては無価値であった。
「…食べる前にそういうこと言わないでよ!!?」
まだ食べていなかった椿にとってひどく食べるのが億劫になる感想である
舐めるように少量を恐る恐ると含む
「甘くて美味しい!!これ少しずつ食べるんじゃないの?」
すぐに口で溶けて飛影の言う脳みたいな食感は無い
「やった勝った!!飛影くん罰ゲ~ム!!」
「?」
勝負になったことも初めて聞いたことでありしかも罰ゲーム性であった
「じゃあ私のことを名前で呼ぶこと!!」
飛影と会ってから少し経つが一度もまだ名前で呼ばれていない椿
名前で呼ばせよう名前で呼ばせようと内心ずっと考えていたことである。大体はおい、お前で呼ばれていた
「…意味がわからない」
一蹴
「…うぅ」
その場で崩れ落ちる椿
椿が勘違いしたことだが飛影の意味がわからないは名前を呼ぶことではなく罰ゲ~ムの意味がわからないということである
「もういいもん!!服屋行こ!!服屋!」
頬を膨らませてかなり不機嫌である
飛影は何に怒っているのか意味がわからないがそれについていく
(獲物?)
盗賊に似た殺意の視線を感じ取る
手加減ができるようになった飛影は我慢することが出来ていた。実害があれば殺そうと。
「いらっしゃいませ…あら可愛らしいお客さんね」
優しい笑顔で迎える女性店員
「凄い!!服がいっぱい!!」
様々な服があり椿の眼が輝いているが、しかし飛影は興味無さげにそれを眺める
「こちらなんてお似合いですよ?」
子供用の服もあり店員は椿に似合いそうなものを見繕う
「ふわぁぁ!!?」
さすがに子供二人のためお客さんだとは思っていない女性店員
しかし暇なのもあり可愛らしい少女が来たため色々と見繕うとしている
30分後
「ねぇねぇ飛影くん!!これどうかな!!?」
試着させてもらった服を飛影に見せびらかす椿
くるりと回って御機嫌である
「知らん」
一蹴
再び崩れ落ちる椿
「くっそ~!!お姉さん!!」
しかしすぐに復活して再び女性店員と服を考える
一時間後
「これどう!!?」
「知らん」
悩みに悩んだ一品を一蹴された椿
完全に崩れ落ち、一緒に選んでいた女性店員も励ましていた
しかし飛影も一時間待たされて文句も言わないのは立派である
「ひらひらしたのじゃなくて動きやすいのにしろ」
ついに一時間も突っ立っていた飛影が動いた
てきとうに無造作に選び椿が最後に着た服と同じものを選んで椿の頭に乗せる
「ありがとう飛影くん!!」
すぐに復活して太陽のような笑顔を見せる
「お姉さんこれ買います!!」
再び金の粒でお会計する椿。偽物かと思いながら持ち上げた時も重さで女性店員の時が止まった
「ありがとう飛影くん!!」
店から出て再び礼を言う椿。ここまでは順調であった
国も飛影と椿も
少し歩いた時に五人の男に囲まれた飛影と椿
「坊主たちいっぱいお金あるんだって?お兄ちゃん達に恵んでくれないかなぁ!?」
ジソフは遺跡の森に一番近い国であるため、当然盗賊も多い
椿は金で支払いをしすぎたのだ
子供二人が大金を持っている。それだけで盗賊が狙う理由になる
盗賊に囲まれた子供を街の者は見てみぬ振りをする
誰だって蜂の巣は突っつきたくない
「えっと…」
先頭を歩いていた椿は当然男達から近い位置にいて一歩下がる
「いいだろ?いっぱい持ってるんだから」
そんな椿を見て更に一歩近付く男
それを服屋の女性店員が出てきていたのを発見した椿は必死に助けてと懇願するが、眼を見られて巻き込まれたくないと店へ戻っていった
「…」
ゆっくりと飛影の手が背の刀に向かう
「駄目!!!!…飛影くんそれは駄目!!」
飛影のその行動が何を意味するか…椿には理解できた
盗賊ではなく飛影を制止させる
「なんで?」
飛影には椿が止める理由がわからない。殺意を抑える理由が無い
「なんだ坊っちゃん?戦おうってか?」
その椿の言うことを聞こうと手は刀を掴んで止まった。盗賊が嘗めているように笑った瞬間
「…殺す」
飛影の感情が鎮まる。それは嵐の前の静けさのようであった
言葉で言ったのは椿への許可だ
「駄目!!」
飛影の身体を抑えて無理矢理止めようとする椿はポケットに入れてた金の粒一握りし全てを盗賊に投げつける
「それで全部!!だから放っておいてよ!!」
このままじゃ不味い、それは理解できたことで椿には盗賊達を離すことしか考えていない。
しかし、盗賊達はその椿の態度にムカついたようで地面にばら蒔かれた金の粒を拾おうとはしない
「おいおい嬢ちゃん…ちゃんと手渡してくれよ」
「…っ」
逃げてくれない盗賊に椿は舌打ちをしながらも飛影を抑えている。飛影は今ぎりぎりのラインで踏みとどまっている
椿がいることで抑止力になっているということは無いが、離したら大変なことになると感じていた
「ほら早くしろよ!!」
いつまでも動かない椿に一人の盗賊が腕を伸ばす
「駄目!!近付かないで!!」
椿の必死の呼び掛けも意味がなく、盗賊は接近した
我慢してと椿から言われた領域に
「あは…」
狂気の笑い声が発せられた
「ひえ」
椿が名前を呼ぶ前に飛影は刀を抜いて腕を切り落としていた
「あっ?」
盗賊の男が腕を切り落とされたことに気付いて痛覚が痛みを訴える前に
「あはは!!」
首が吹き飛んでいた
「このガ」
逸早く飛影が何をやったのか理解した盗賊が動く前に
「キ」
身体は両断されていた
「…このガキ災厄だ!!?」
「なんだぁぐ!!?」
喋りかけた盗賊の顔が飛影に掴まれる
「あはははは!!!!」
握り潰す。脳漿と血液が周囲に拡散する
「災厄だ!!このガキは災厄だぁ!!」
「なんでこの街に来やがっ!!」
騒ぎ立てる盗賊達。ここは遺跡の森に一番近い国。つまり災厄の子である飛影の噂も一番拡がっている国だ
逃げようとした盗賊二人が無造作に殴り付けられて爆散する
一瞬の静寂
「あはは!!」
飛影が笑うと同時
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』
複数人が恐怖の叫び声を上げて逃げ惑う。周囲はパニックになった
間近で行われた人殺し、それが圧倒的な力で惨殺され、災厄という言葉を吐いて死んでいく盗賊という戦力が瞬時に無効化されたこと
中には石を飛影に投げつけるものや、鍛冶屋から武器を持ち出すもの、城に報告するものがいた
女子供は逃げ惑い、腕っぷしに自信がある者や盗賊は武器を構える
その者達から発せられるのは敵意や殺意、恐怖に憎悪である
「飛影くん止めて!!」
一歩前進した飛影を椿は背中から掴んで何とか止めようとする
「死ね災厄!!」
「来るなガキ!!」
「早く殺してくれよ!!」
「生きてるんじゃねぇよ!!」
近付くのは恐いのか物を投げていく。それらは飛影には全く通じないものである
ある程度は直撃するが垂れ流ししている魔力で飛影の身体には当たらない
「なんでそんなこと言うの!!?盗賊が襲ってきたのに助けてくれなかったのはあなた達じゃない!!」
椿としてもこの対応には納得がいかない
最初から助けてくれればこんなことにならなかった。盗賊を殺したからといって責められる理由がない
「そいつが災厄だからだ!!」
「生きてるだけで災厄を呼び込むガキは殺すのが当然だろ!!」
「俺の息子が火事でなくなったのもテメェのせいだろうが!!」
集団心理
どうしようもなく捌け口がない場合、人は捌け口を探す
台風で畑が駄目になった
落雷で動物が死んだ
謎の病気で死んだ
恋人と別れたなどと軽いものまで、災厄という存在は全ての負の感情の捌け口になる
そして噂が一人歩きして、一人が言った瞬間にダムに塞き止められていたように人々の口からおぞましい程責められていた
「…」
それらをただ見ている。通報を受け城からの兵士や騎士も飛影を取り囲み殺気しかない。目の前に広がるのはただの有象無象
「…なんで?…飛影くん悪いことしてないのに…」
椿には信じられなかった
人間というものが理解できなくなった
「ぁう!!」
そして誰かの投石が椿の頭に直撃して頭から地を流しながら気絶する
「つばき?」
飛影は刀をしまい、護るように椿を抱き寄せる
「…」
あらゆる意味での笑いしか感情が無かった飛影にある感情が芽生えつつあった
それは怒り
何故こんな目にあわなければいけないのか
何故ただの人間ごときにここまで言われなければならないのか
何故災厄でも魔王でもないただの少女である椿が傷つかなければならないのか
「…ふざけるなよ」
《炎舞》
ポツリと飛影は呟いた時、変化は一瞬だった
同時に空が緑色に光り、緑色の炎が空を覆っていた
「骨も残さない…あはは!!…お前ら全員死ねよ!!!!」
初めて出す叫びに似た大声と、それを合図に空が落下した
正確には空を覆っていた緑色の炎
城の兵の中には遺産持ちの魔法使いがいて空に魔法を放つが一瞬で消えていった
相殺でもなんでもない、ただ無意味な行動である
「あははははははは!!」
そして飛影の笑い声と国中の絶叫の中魔王の一撃はジソフ国の全てを焼き付くした
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