第3話。初めての恐怖
災厄と化物の壮絶な殺し合いから三日間、ずっと気絶していた災厄と化物
誰からも襲われなかったのは奇跡に近いのではなく、二人の周囲には殺した盗賊団以外の血と肉体が巻き散っていた
襲ってきたが寝ていても充分殺せるレベルしかいなかったためである
幸いにも二人とも腕がちぎれることもなく
内臓破裂や複雑骨折程度の怪我ですんでいて、三日寝れば代々身体は動くようになった
災厄と化物としての再生力の賜物である
「ん~よく寝たわ~」
大きく伸びをする静紅
「…」
災厄は身体を軽く動かし状態を確認する。その様子にどうしても笑みがこぼれる
「ふふ…私の予想通り死ななかったわね」
微笑みを浮かべる静紅
災厄にとっても自分より強い存在は初めてで、静紅にとっても互角に戦える存在は初めてである
静紅の場合は孤独が癒えた
同属を見つけて内心も表情も喜びを隠せない
「殺すできないはじめて」
どうしても災厄の話し言葉は盗賊達のを聞いたりして覚えているためおかしい
「うーん、ちょっと会話力あげましょう?」
「ころす?」
「お喋りしましょう!」
意思疎通が不可能だと判断した静紅は災厄とのコミュニケーションを取ることを決めた
96時間後
「行くわよ~」
「うん」
最低限の会話ができるようになった災厄
「…遺跡~」
スキップでもしそうな静紅
本来であれば全治4か月程度の傷であったが、災厄と化物であれば傷も大体が癒えたため、目的の遺跡に向かう
「逆」
災厄はこの遺跡の森で五年間過ごしてきた
遺跡の大体の箇所はわかっている
24時間の会話練習により、静紅が向かおうとした方向と目的の遺跡がある方向は真逆であった
「…」
ピタリと足が止まる静紅
「や…や~ね~試したのよ~」
歳上のお姉さんとして不甲斐ないところは見せたくない静紅、少しの冷や汗と強がりを言って反転し
「あら…?」
着物の裾を踏んづけ、ぐらりと揺れる静紅
簡単にいえばずっこける静紅
「へぶ!!?」
そのまま木に頭から激突し、鈍い音が響く
若木とはいえ20年は経っているものを、ちょっとしたずっこけでへし折る
ゆっくりと倒れる若木
「…」
それを見て、興味が無くなったかのように遺跡に向かう災厄
「…や…ちょっとしか触っていないのに折れるなんて…この木が弱いのよ!!」
歳上のお姉さんとして威厳が崩れた
もともと災厄は感じていなかったが静紅はなんとか誤魔化そうとする
ドン、と8歳児の地団駄のように木に拳を打ち付け扇状に100m程が吹き飛ばされる
「いやほら…あれよあれ!!こんなところに罠があるとは思ってなかったのよ!!」
罠も何も自分で自分の裾を踏んづけただけである
「ほらあなたもそう思わ…いないわ!!」
災厄は静紅が転けても言い訳を連発しても気にせずに遺跡へ進んでいた
静紅は急いで追い付こうとする。距離は100mも無い。幸いにも災厄は普通に歩いていたのですぐ一足で追い付いた
「先に行くなんてひど」
追い付けた途端に凄まじい勢いで転ける
「ぶ!!!」
災厄にぶつかる勢いだが災厄は背後からの足下に目掛けて放たれた突進を少しだけ跳躍して避ける。敵意が無くても脅威を感じることができれば、察知できる
「…」
進行方向を塞がれた災厄は顔面からスライディングして倒れている静紅を避けて進もうとする
「ふわぁぁぁん!!もういやぁぁ!!」
起き上がり泣き始めた静紅。その姿は8歳児そのものである。しかし災厄は無反応
「ちょっとは気にかけてよぉ!!」
駄々をこねる子供のように静紅は腕を振り回す
衝撃波が発生する。駄々をこねるような腕の振りで衝撃波が生まれ森が破壊される
「!!?」
当然ただの子供とは次元が違う静紅のそれは災厄にとってもダメージとなる衝撃波となって襲い掛かる
転がるように避ける災厄
「殺る気…か?」
身体が自然と臨戦態勢へと移行する。魔法の準備は既に完了している
「殺る殺らないじゃなくて気にかけてよぉ!!」
衝撃波が災厄に襲い掛かる。魔法を展開し炎が衝撃を相殺する
理不尽であった
「…」
殺意が全く無いので災厄が臨戦態勢を解く
「お前を気にかける意味が…ある…か?」
理不尽に対して災厄がとった行動は正論を言うことである
災厄よりも強い実力を持つ静紅が転けてもダメージは無い
何度もアホのようにずっこけるという精神的なダメージはあるが災厄には理解ができない
しかし、災厄の言い方では、「お前程度気にかける存在ではないわ!!このゴミ虫が」
と静紅には捉えられた
「ふ…ふわぁぁぁん!!」
更に精神的なダメージを受けた静紅
そして静紅の思考は
無視されて先に進まれるのは嫌
↓
両足を折って動けないようにしようと変わった
泣きながら立ち上がり静紅はゆらゆらと災厄に近づく
「!!?」
今まで感じたことの無い嫌な気配。絶対的な恐怖に災厄は動物のように身体を屈めて臨戦態勢へと移行する
その構図はまるでライオンVSシマウマであった
シマウマはどちらか
ライオンはどちらかなど聞くまでもない
静紅はゆらゆらと接近
「…」
後退りする災厄
初めて恐怖を感じた瞬間であった
「殺す!!」
しかし謝罪も知らない、恐怖も知らない災厄にとっては理解できないものである
《炎舞》
殺らなきゃ殺られる
災厄はそのことは理解した
そして再び殺し合いが始まる
「遺跡まで…長そう…だ」
ポツリと感想を洩らす災厄
Sランクの遺跡を攻略して餌を増やすためだったが、目の前の化物はそれを順調に進めるつもりがないと判断していた
「あら?そうよ遺跡よ…両足を折ったら時間かかっちゃう」
思い出した化物
静紅はポンと手を打って一瞬で殺意が消えたことで、災厄も警戒を解く
災厄を包んでいた初めての恐怖が消える
「殺し合い…か?」
災厄としても殺し合いは楽しいが目的まで逸れるのは面倒らしくすぐに矛を納める
「いえ遺跡に行きましょ~」
元気よく逆方向に歩き出す静紅を放置して災厄は遺跡に向かう
遺跡には二種類あり上に進む塔のような遺跡と、下に進む穴のような遺跡である
今回の遺跡は後者の下に進む遺跡であり、森のなかで見つけにくい遺跡になる
しかし、すでに遺跡の森は庭のようなものである災厄は迷うことなく入口に向かう
深い森の中で方向がわからなくなるのは当然だが、静紅のアホは災厄の予想を超えている
「着いた…ぞ」
「あら…ここがそうなの?」
着いたところは大木であった。恐らく樹齢1000年は超えるだろう大樹
静紅は周囲を見渡すが入口のようなものは見つけられない
「上」
災厄は大樹の上を指差す
「あらあら…」
200m先、そこには下からは見えないが穴があった、大樹の中が入口。巧妙に隠されていて、言われなければ気付かない
「よく知ってるわね…」
「魔力が強い…だからわかる」
大樹が息を吐いているかのように穴から魔力が漏れ出ている
意識しなければ静紅にはわからなかった
災厄は少しでも魔力を探知すると向かい、人間なら殺す、他の物なら放置を繰り返していて見つけたものだ
災厄は跳躍して器用に穴へと入り込む
「…」
それを追おうとした静紅は頭をぶつける予感がした、自分が入ろうとした瞬間に枝が折れ大樹に頭をぶつける。そんなイメージができてしまった
静紅というお姉さんとしてそんなドジな真似は出来ない
「…どうしよう…」
少し考えたのち静紅が行った行動
「…そうだわ♪」
それは穴を拡げようと手に力を込めることである
手刀の形を作り全力で薙ぐ
樹齢1000年を超える大樹は静紅の頭をぶつけたくないからという理由で消し飛ばされた
「ふふ…これでよし」
入口の樹が消し飛ばされて底が見えないほどの大きな穴が現れた
「さぁ…Sランクの遺跡…楽しめそうだわ~」
鼻唄混じりに楽しそうに穴に入ろうとして
「あら!!?」
静紅は再び裾を踏んづけて頭から穴にダイブした
「ひぃやぁぁあ!!?」
絶叫をあげながらSランクの遺跡に突入
「…?」
災厄の真上に落下コースだったが気配を感じていたため、受け止めずに避けた
「へぶ!?」
顔面から着地する静紅
しかしダメージはあまりない
災厄と静紅がいる場所は岩や土で舗装された穴蔵ではなく木々が茂げ、光も地上のように明るかい場所であった
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