第2話。災厄と化物
災厄の子が生まれて5年
災厄の少年は元気に育っていた
「あは…あはははは!!」
元気に笑いながら、殺意を振りまき
「ぶち殺してやる!」
元気に殺し合いをしていた
5歳児の小さな体と対立するのは13人の大の大人
有り体に言えば盗賊に位置する者達
しかし、殺し合いという表現には語弊があった
それは蹂躙であった
僅か5歳の災厄に盗賊の一人が武器を構えて突撃
その前にその首は胴体と分かれて血が噴き出していた
ただ、突撃した盗賊の首を腕力で木の実でも摘み取るようにもぎ取った
これで犠牲者は18人目
この盗賊グループは元々30人の大盗賊団であった。それなりの知名度があり、恐れられてもいた
だが、ただの五歳の子供に手も足もでずにただ虐殺されていた
「あはははは!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
災厄は掴んでいた生首を強引に縦に割る
当然卵のように脳が現れ災厄はそれを千切り口に入れる
災厄として食事をとる必要は無いが、こうすることで獲物が増えることを理解していた
「狂ってやがる…」
一人の盗賊がそれを見て1歩後ずさる
ニィ…とその言葉に反応するように狂ったような笑みを浮かべる
「あは…ははは!!」
《炎舞》
災厄の手から炎が吹き出る
災厄の存在として生まれた時から使える炎の魔法
「魔法…使い…!!」
盗賊達に焦りが生まれる。
魔法使いは人間としての器に納まらない。魔法使いが一人いれば一騎当千と言われるほどの超越した存在である
30人の大盗賊団でも、魔法使いは一人しかいない
「狼狽えんじゃねぇ!!」
《アイアンブレス》
一際身体が大きい盗賊でこの盗賊団のボスである存在
ボスである彼も魔法使いである
怒号と共に口から鉄の破片が幾重にも現れて災厄に襲い掛かる
一つ一つが直撃すれば一撃で五歳の小さな身体を粉々にするであろう大きさ
ブレスとして広範囲に拡がり逃げるスペースは無い
身長以上の鉄骨が高速で災厄に向かう
「あははは!!」
《炎舞》
笑い声と共に巨大な赤い火柱が災厄を表すように目の前に現れる
「な…!!?」
本来であればその一撃は、100人程度を粉々に粉砕する災害のような威力だったが
ボスの放った鉄骨は全て火柱に溶けて消える
あまりにも違いすぎる魔法の威力
「逃げるぞ!!こいつただのガキじゃねぇ!!災厄だ!!」
ボスもここに来るときに噂として聞いていた
災厄がここにはいると
大盗賊団として、そんな噂如きに躍らせるわけにはいかない
たかが1匹、数で封殺できると思っていた
「あはははは!!」
火柱の中から狂ったような笑い声
そんな慢心を盗賊達は吹き飛ばされ、一瞬で恐怖に包まれた
背中を向けて不格好でも無様でも関係なく全力で逃げようとした瞬間
《炎舞》
火柱が崩れ炎の雪崩となって盗賊達に襲い掛かる
「くそがぁ!!」
《アイアンブレス》
ボスである盗賊は全魔力を開放
打ち勝たなくとも逃げるために相殺すればいいと考えた一撃
巨大な鉄の塊を放つ
巨大な鉄の塊ならば自身の身体も隠せて、炎からも守る壁として最良だった
「あはぁ!!!!」
だが災厄には通じない
鉄の塊が一瞬で消え去った
相殺なんて自惚れを完全に打ち砕いたと同時に炎が盗賊達全員を包み込み鉄は消え去り焼け野原のみが残った
災厄を産んでしまった一族は遺跡の守人と呼ばれて盗賊達に恐れられていた
一族は実力者の集まりで1000人しかいないが、数十人は魔法使い、それ以外も反則的な実力者だったという
この広大な森の中に100を越える遺跡がある
それは過去の魔法使い達が作ったと言われる遺跡
金銀財宝は勿論のこと、魔法の道具や遺産と呼ばれる魔法が使えるようになる道具等が眠っている
しかし災厄を産んだ一族はそれを守るために遺跡を囲むように暮らしていて盗賊達は近づくことができなかった
その一族は五年前一人の生き残りすらおらず滅びを迎えた
それを数年の情報を集めた盗賊達によって安全だと確立され遺跡の宝を目指すことになった
そして災厄は五年間ずっと餌がやってくるその森に住んでいた
災厄の趣味は遺跡攻略
遺跡を攻略して宝を入手することで盗賊達はその宝を入手しようとやってくる
餌が向こうからやって来るのだ
遺跡には幾重もの人為的な罠や自然的な罠があり侵入を拒む
災厄は知ることないが規模と罠と宝によってランクで分けられていて、Sが最高、Cが最低のランクで四つある
見分け方は簡単であり、自然的な罠があればAクラス以上、自然的な罠が無ければBクラス以下、自然的な罠は宝に宿る魔力が漏れでて長い時間をかけて存在が変質したものである
それだけ大きな魔力をもつ宝が眠っている
災厄が狙っているのはAクラス以上
理由はお宝が希少価値があるため狙われやすい
災厄の首には盗賊達の中で懸賞金がかけられている
賞金は10億
一生遊んで暮らせる額である。ただの5歳児にかける金額ではない
「ひま…だ」
殺し尽くすと暇になってしまい災厄はその場に倒れるように寝る
ついでに、自身の腹を抉り血を出そうとする
これは普通に寝るよりも餌がやってくるためだ
災厄は知恵をつけていた
「あら?こんなところに子供がいるわね」
背後
というよりも倒れているので足の先
気配が現れた
「!!?」
声をかけられるまで気付かなかった災厄
反転しながら飛び起きる
「くそやろう…?」
災厄の覚えている言葉は全て盗賊から聞いた言葉を真似しているため、正常な会話ができない
災厄と対峙しているのは少女だった
黒髪の着物を着た少女、外見は災厄より少し歳上の八歳程の少女
「ふふ…私?…私は静紅よ。あなたは?」
少女が災厄に声をかける
「あは!!」
それは災厄にとっての殺し合いの合図
《炎舞》
災厄は笑うと静紅に向かって炎の槍を投げつける
「ひぇ…!!?」
《完全領域》
しかし災厄が放った槍は静紅が魔法で展開した薄透明色の防御壁に防ぎきられた
「あはははは!!」
防ぎきられた
初めて攻撃を止められた
それは災厄の中で初めての経験で心の底から笑いが込み上げる
「びびびビックリしたわぁぁ!!?」
獣のような笑みを浮かべ、殺意を振りまく災厄、それと相対する静紅はその場に座り込んでいた
いきなりの攻撃に腰が抜けただけだ
「私は名前を尋ねてるのだけど…聞く耳持ってくれないし…」
次々と放たれる赤い槍。8歳程度の外見の静紅が災厄の攻撃を防ぎきる
「あは!!」
災厄が浮かべる狂ったような笑み
静紅は腰を抜かしながらもへらへらと笑みを浮かべながら、現状を整理する
静紅の魔法を災厄は突破できない、その余裕からゆっくりと思考する
「まぁ…こんなところに子供がいるってことは災厄で最悪の子供よね…」
「あは!!」
頷くように笑う
「たの…しい!!」
「えっと、会話フェイズ入ったの?」
手を休める災厄
ギラギラと刺すような殺気は変わらない
むしろ魔力が集結しつつあるので、もっと強力な威力の攻撃の準備がされている
「私は静紅、盗賊よ、この近くにあるSランクの遺跡のお宝が欲しいのだけど手伝ってくれないかしら?」
「…ころしあえ」
「…」
会話が通じない。災厄は言葉を理解しているが、正しい意味で理解できていない
「それで名前は…?」
「なまえ?」
会話は繋がったが首をかしげる災厄
その仕草こそ5歳児のようであるが、その身から湧き出る殺意は到底5歳児には出せないものだ
「名前を持ってないの?呼び名よ、え~個人を特定する記号みたいな」
「ころしあえ」
二言目にはそればかり
頭が少し痛くなり頭を抱えながら溜め息を吐く静紅
「じゃああなたって勝手に呼ぶわ、あなたは災厄の子よね?」
「?…災厄…よばれるそれでいい」
災厄は自身の意識を殺意にしかもっていないので、有効なコミュニケーションが取れていない
余裕ながらに災厄の攻撃を防いでいた静紅も戸惑っていた
「名前は大事なものよ?もっとよく考えて決めなさい」
笑顔の静紅、何だか満足気である
「…」
災厄は生れ落ちて5年でようやく初めてのまともな会話
敵意も殺意も感じない会話に戸惑う。今までは殺意が最初に出迎えていたため、殺すだけで良かった
微笑む静紅を見ると、今までと違った感覚になるので少し混乱していた
『!?』
瞬間、同時に静紅と災厄はある一点を見る
「おい…」
「わかってるわ…」
凡そ500メートル先
災厄が哀れな餌を検知してしまった。森で視界には捉えていないが気配は感じている
「遺跡の攻略一緒に手伝ってくれないかしら?」
「…?」
遺跡という単語を聞いたことある災厄だが、意味を理解してない。餌がある場所としか認識していないためである
「あー、あなた的には餌が食いつくお宝がある場所ってとこかしら?」
「…ん」
会話をしたことがない災厄
少したどたどしいがはっきりと肯定した
それを聞いて満面の笑みを浮かべる静紅
「いいわ…契約成立ね、相手の数はわかるかしら?」
「殺すぞ…20」
500メートルの範囲
災厄にとっては見ているのと同じである
「私がね。あなたに期待してるのは…あなたなら巻き込まれても死なないからよ…死なないでね」
妖艶に微笑む静紅。魔力が解放される
「殺す…か?」
同じように魔力を高める災厄から僅かに殺気が放たれる
噴き出す魔力は災厄よりも静紅の方が大きい
「あらあら…」
静紅は微笑みながら同じように僅かに殺気を放つ
そして、同時に動き500メートルの距離を一瞬で詰める
『な…!!』
盗賊達にとってはいきなり現れたように見えて
「あはははは!!」
その瞬間には一人が災厄によって真っ二つに身体がちぎられた
「ふふ…」
そして違う一人も上半身が手刀で爆散された
「あは…あはは…あはははは!!」
血を浴びて
身体をちぎった感覚を感じて
声にならない悲鳴を聞いて
絶望した表情を見て
そして気持ちよい程の殺意と敵意を向けられ災厄は心の底から楽しくなってくる
笑いが止まらない
「あは!!殺す殺す殺す殺す殺す!!全員殺す!!あはははは!!」
「あらあら…楽しそうね…ふふ」
盗賊達は構えるまでに身体を紙のようにちぎられ
身体が爆散し、構えた時には残るは二人だけとなった
「この化物がぁ!!?」
既に魔法使いのボスは最初の一撃で死んでいた
だが、恐怖で顔を歪ませながら盗賊は叫びながら玉砕覚悟で突撃する
しかしその叫んだ言葉は
「あはははは!!」
災厄が笑いながら殺そうとした瞬間
「‼」
災厄に初めての感情が襲い、背筋が凍った
本能のままに全力で空に跳躍
「ふふ…ふふふ…ふふふふ…今、何て言ったの…」
魔力が爆発したように解放される
同時にそれだけで殺せるような膨大な殺気が放たれる
ただの魔力の解放により二人の盗賊は吹き飛ばされ木に激突
「私は静紅…化物なんかじゃ…ない!!」
力が込められた手刀一線
巨大な衝撃波が放たれて木々と共に盗賊二人を跡形もなく消し飛ばす
「あは…あははははは!!!」
それを上空から見た災厄は笑う
自分よりも強い存在、同じように魔力を全解放
向けられた殺気に静紅は反応
「…ふふ」
冷たい目、そして強大な殺気
災厄として望まれず生まれた災厄と
化物として望まれず生まれた化物
似たような境遇に生まれ育った二人の殺し合いは二人が力尽きて倒れるまで続いた
この出会いはこれからの災厄にはとても重要で原点であった
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