代償


「やっぱり。あれは魔術なんかじゃ無いわ。もっとこう、なんというか、超常的なもの」


とある噂を聞きつけた栗花落燈華は、今目の前に広がった光景を見て、確信した。しかし彼女は、


「だとしても、次は私が勝つ」


決して心折れることはなかった。否、彼女だけは、彼と対等なライバルとして、その光景を目に焼き付けた。




次の日


「あ、神無月くん。おはよう」


「おはよう」


「おはよう。昨日は凄かったね」


クラスメイト達は、まるでこれまでのことが嘘のように挨拶するようになった。

わだかまりは解消され、ようやくクラスの1人として認められ……………………た訳では無いのは分かっている。いや、俺は、これの正体について察していた。


(これは、恐怖だ)


今まで直接罵倒してきた者、陰でヒソヒソ言っていた者、何もしない、自分は何も見ていないと不干渉を決めていた者。多かれ少なかれ、このクラスメイトらは、彼に罪悪感を抱いている。


そこに、昨日の一件。彼らがそれを恐怖へと昇華させるには十分すぎるものだった。


予感はあった。この力を隠そうと決めたあの日からずっと。けど、なんとかなると思っていた。上手くやれたつもりだった。

俺の目の前には、丸刈りになった高校1年生の時も同じクラスメイトで、その時から俺への嫌がらせを率先して行なっていた男子生徒らがいた。そしてそんな彼らを意図的に避ける他のクラスメイト達。まさか俺にイジメ返されると思ったのだろうか? 関わると自分が標的にされると、そう思われたのだろうか。



……そんなに怖がるのなら……初めからイジメなんかするなよ。


(こんな平穏を、俺は望んでいたのだろうか?)


決してクラスの雰囲気をこんな風にしたかったわけじゃ無いはず。こんなの、ただいじめっ子といじめられっ子の立場が入れ替わっただけで、何も変わっていない。俺は間違えてしまったようだ。


今ここで俺がいますぐこんなことを辞めろと命令すれば、きっとこれは収まる。しかし、同時に、このクラスは崩壊する。



その日の放課後。


「冬也はどうしたいの?」


美優が語りかけてくる。


「なんだか辛そうな顔をしてる。でも、それはきっと冬也の優しさからくるもの」


「優しさ?」


「そう。今まであれだけ揶揄されて、陰口を言われて、厄介な仕事を押し付けられた」


「………」


「私はそんな人達のことを何とも思わない。けど冬也は、そんな彼らを見て、辛そうな表情を浮かべてる」


「……そう、なのかもな」


自分を苦しめてきた人達なのに、いざその彼らが苦しんでいる姿を見るとこっちも苦しくなる。


「なぁ美優。俺はどうするのが正解だと思う?」


「さっきから冬也、間違ってる」


「……そうだよな。俺はいつも

「違う! 間違ってるのはそこじゃ無い。どうすればいいのかじゃなくて、どうしたいかを考えなきゃ」


「どうしたいか?」


「どうすればいいかを実行するだけじゃ、冬也が救われない。だから冬也がしたいようにすればいい。他人の痛みが分かる冬也なら、それだけで万事解決」


何かがひらけたような気がした。


(まさか、彼女に励まされるなんて)


「ありがとう。俺やりたいようにやってみるよ。そして、今度こそ楽しい学校生活にしてみせる」


「うん。頑張れ」




次の日


相変わらずクラスの雰囲気は冷たかった。

それでも、

「皆んなに聞いてほしいことがある」


クラスメイトの息を呑む音が聞こえた。


「正直みんなが俺にしてきた事を簡単に許せるとは思ってない。実際2年になって、初対面の人には、仲良くなれるかもって最初の頃は話しかけにいったよね?

だけど殆どの人が無視した。ぶっちゃけ当人からすれば、それは直接悪口を言われる時くらい辛かったよ。それに、今クラスがこんな雰囲気なったのは、俺に力があったからこうなった訳で、もし本当になんの力もない奴だったら、きっとまだ辛い目に遭い続けてた。

本当に、許せない。

……けど、そんな気持ちを持ったままでいても、良いことなんか一つもない。それは俺にとってもだし、みんなにとっても。だから俺は、皆のこと、許すよ。だってやっぱり俺は皆んなと仲良くなりたいから。だからもう別に一々俺に謝ってこなくてもいい。今俺はこのクラスメイト全員を許した。だからこれからは罪悪感のこもった挨拶じゃなくて、友情を持った挨拶をして欲しい。どうかな?」



冬也が話している間、誰1人として余計なことは話さなかった。ただじっと、彼の話を真剣に聞いていた。そして、彼が話し終えた後、


「喜んで」


前髪を上げた可憐な少女の声に続く形で、


『喜んで!』


クラスはようやく一つになった。




__________________________________


あれ? なんのジャンルの小説書いてたっけ?


嘘ですごめんなさい。これにて一章終わりです。2章からは学校祭が始まり、ここからやっと、魔術を用いた熱い戦いが始まっていきます。


なので、もし続きが気になるという方は、この小説にフォローをつけていただいて、2章が上がるまで気長にお待ちいただけると幸いです。。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺だけ魔力が無い代わりに全く世界感の違う力があるのは何故 フラット @akaneko0326

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ