中間テスト〈2〉


「お前どうだった?」


「9分の3」


「お前スゲェな。俺は6個も赤点あったわ」


「追試確定やろ」


「乙」


「まぁでもなんとかなるやろ」


(うるさい)


さっきからどれだけ赤点があるかという会話ばかり耳に入ってくる。


別に他人がどれだけ悪い点数を取ろうがどうだっていいが、せめて音量を下げろよ。先生ももはや言っても無駄だろうと諦めた表情をしている。


それにしても、


(今回も2位か)


俺には820/900 2/500と書かれた成績表が返ってきていた。


いつもはそこまで勉強を頑張っていなかったが、今回は2年で初めてだし、気分を切り替えて全力で取り組んだんだが、結局結果は変わらず2位。


そこで不意に俺は隣の席の茅原さんに聞いてみることにした。


「美優はテストどうだった?」

実はここ最近話すような仲になって、俺は自然と美優と呼ぶようになった。美優も別に嫌じゃないらしいし、それにこっちの方がなんだかしっくりくる。


「えっと……」


「あっ悪かったんなら別に言わなくてもいいよ」


「……別に悪くはないんだけど」


そこから美優は俺の方に寄ってきて、


「……誰にも言わないでね」


俺の右耳に、ささやくように言った彼女の

成績表を見る。


900/900 1/500


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


俺は夢でもみているのだろうか


「あっ声大きいよ」


いやいやおかしい。だってまぁ数学、理科、社会は満点が取れてもおかしくはないが、国語、英語も満点って……


「カンニング?」


「してないよ!」


そう言って俺の背中をグーの手でこ突く。


「ごめんって。でも凄いね」


「うん。私魔術はあんまり得意じゃないんだけど、覚えるのは得意みたいで、いつも一回覚えたことは忘れないんだよね」


「それってなんとか記憶って奴か」


身近にこんな天才がいるなんて誰が想像できるだろう。これは流石に……勝てない。


「でも冬也も凄いね」


「美優に言われてもなぁ」


「うぅ。ごめんなさい」


「いやいや冗談だよ。普通に嬉しいよ。ありがとう」


「それなら、良かった」


美優は他人に迷惑をかけないようにとか、嫌な気持ちにさせてないかとかを常に気にしているような気がする。まぁ本人が内向的っていうのもあるんだろうけど。


「そんなに頭がいいんだから、きっと凄い大物になるんだろうなぁ」


「そんなことない。私は……」


「……」

美優は褒められてもすぐに否定してしまう。自分なんかたいしたことない人間なんだと自分で自分を刷り込んでいる様な。だけど、それは多分美優だけの問題ではない気がする。


(でも、自信を持ってほしい)


俺も変われたんだ。ならば彼女が変われないはずはない。


「今度俺にも勉強教えてよ。なんならうち来る? あんまり広くないけどね」


「……うん」



「ただいま」


「おかえり冬也君」


「俺またテスト二位だったよ」


「そうなんだ。私はねぇ一位だったよ」


「春はすごいなぁ」


「そうでしょ。もっと褒めて」


「凄い凄い。自慢の妹だ」


「そう言えばさ」


「なんだ?」


「この前仲良くなったって言ってた図書館委員の女とはどうなの?」


「凄かったよ」


「!?」


「本当に何度やってもアレには勝てそうにないよ」


「何度ヤッテもって……それってなんのこと言ってるの? まさかその女ともう」


「え、何のことだ?」


「お兄ちゃんのバカぁぁぁぁ!! 私を差し置いて別の女となんて」


「中間テストの話だぞ? 分かってる?」


「へ?」


「又なんか勘違いしてただろ。美優が中間テストでAll満点だったから凄いっていう話な」


「なんだそんなこと……って今なんて」


「そんなことって、凄くない「今その女のことなんて呼んだ?」


「美優のこ「お兄ちゃん!」


「……なんだ?」


「その人はきっと馴れ馴れしく呼ばれるのは好きじゃないから呼び方は変えた方がいいよ」


「あぁそれなら心配ない。本人がそう呼んでいいよって言ったんだから」


「チッ」


「なんだその舌打ちは」


「そ、そ、そそ、それより、お兄ちゃんはその女のことどう思ってるの?」


「どうって……そうだなぁ__________妹?」


「…私……死ぬ」


「え? なんで!」


「お兄ちゃんにとって私なんて所詮その程度の人間だったんだって分かったから。もう生きてる意味ないしだったらせめて死んで少しでもお兄ちゃんの中に私を残しておき…ッン


暴走する春を俺は背中から包み込む。


「そんな事ない。春は俺にとってこの世で何よりも1番大切だ。だから絶対に死なないでくれ」


「そっか……ごめんね。疑ったりして。でも……そうならないようにお兄ちゃんはしっかり私のことみてなきゃダメだよ。私もお兄ちゃんがこの世で1番大切だよ」


そう言い終えた後春は俺の右耳にキスをした。


流石の俺も相手は妹とは言え動揺してしまう。


「へ?」


「なんかそこから他の女の気配を感じたの」


何を言っているのかよく分からなかったが、取り敢えず今日はもう寝よう。




__________________________________


「あれ?燈華どこいった」


__もう少ししたら出てくるので……

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