妹と買い物
「冬也君! 買い物行きたい!」
「どうした急に」
「私も遂に高校生になったんだから少しは可愛い洋服とか着てみたいし、せっかくだから冬也君に選んでほしいなぁ〜と思って」
「良いよ。それでどこに行く?」
「ちょっと遠いけど隣町のショッピングモールに行きたいかな」
「まぁあそこなら電車使えばそんなに遠くないか」
「うん。それじゃあ」
「じゃあコレは!」
「かわいい」
「コレは!」
「かわいい」
「コレ!」
「かわいい」
「……ねぇ、本当にそう思ってる?」
「思ってるよ。全部似合ってて全部かわいい。やっぱり俺の妹は最高だぜ!」
「ふざけてない?」
「本心だ」
「……褒められるのは嬉しいんだけど……じゃあ、この中で一番似合ってたのは?」
「この中で1番か〜」
俺は頭をフル回転させながら最適解を導き出そうとする。
(この中のどっちかだな)
・白のドロップショルダーのカーディガンで、中に白いTシャツズボンは藍色のデニム
・半袖のグレーのカーディガンに黒のスカート
・濃い青のシャツに水色のロングスカート
(他はなんかスケスケだったり露出が多すぎる)
俺は素直にこの3択だと告げる。
「……冬也君はあんまり露出多い系は嫌?」
「嫌じゃないけど、それ着て友達と外に遊びに行くってなると、ちょっと不安になるかな」
少し過保護かもしれない。でも春は可愛いしそんな服で外を歩いていたら変な輩につけ込まれる可能性がある。そこでこの3択だ。春の可愛い服を着たいという気持ちも尊重出来ているはず。俺はベストな回答ができたのではないだろうか?
「分かった。じゃあコレとコレ」
そう言って春は白のドロップショルダーのカーディガンと、水色のロングスカートを選んだ。
「デニムとかはもう持ってるから要らないかな」
「分かった。良しじゃあお会計か」
「………5、万だと!?」
( コレ高いよな? でも女子の服代は高いっていうし案外普通なのか?)
「あ、お会計は私が払うから大丈夫」
「……俺が、払うよ」
一応現金で5万円は持っていた。まさか全部使うとは思っていなかったが、
「え、でも私の服だし」
「大丈夫だ。俺だいぶ前のバイトのお金まだ全然余ってるから。春はバイトとかしてないだろ? そのお金は父さんと母さんが春の将来の為に貯めていた分だ。だからもっと大事な時に使いなさい」
両親亡き後俺たちは母の実家に引き取られることになったが、俺が高校生になった時に祖父が病で倒れてしまった。
当時は本当にどうなってしまうか不安だったが、祖父が俺に家の相続をしてくれていたことと、両親が残してくれたお金によって、なんとか生活できていた。
このままでは駄目だと、俺は現在とあるツテから偶に連絡を受け、仕事をもらってお金を得ることがあった。まだ数回ほどしか参加していないけど、かなり羽振りが良い。お陰で両親の残したお金は全て春に渡したが、俺の通帳にはかなりの余裕がある。しかし、この先どうなるかわからないので、なるべく質素倹約な生活を続けて、春にも無駄な買い物をするなと厳命している。
だが、今日は特別だ。今までずっと年頃の女子に我慢させていたのだからここは兄がカッコよくお金を払うべきだろう。
「お兄ちゃん……ごめん」
「何回も謝るな。良いって言ってるだろ」
「でも、せっかく貯めたバイトのお金を……私なんかに」
「……分かった。じゃあ返してもらう」
「え?」
「その代わりお金じゃなくて、その服を着て元気に笑ってくれることで返してくれ」
「……うん。分かった!」
妹の満面の笑みを見て、改めて買ってよかったと心の底から思った。
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