決闘 〘2〙
「選手を発表します」
高らかに響き渡るアナウンス。もう引き返せないんだなと、まるで死にに行くかのような悲しさをまといながら、俺は今歩みを始める。
「神無月冬也VS栗花落燈華」
「あの女の子確か」
「そう」
「え! 本当に? すっごく美人」
「才色兼備って奴ね」
「それに比べて…………」
「なんだか縮こまっちゃっているわね」
「何か先輩たちの話だと魔力を持っていないんだって」
「え! そんな奴いるの? 」
「可哀想」
おうおう。言ってくれるじゃねぇーか!
(的確すぎてグーの音も出ない)
心に湧き上がった気持ちは一旦飲み込もう。
会場には多くの生徒が集まっていた。割合で言うと、恐らく一年生の方がやや多い。しかし、これ程の三年の先輩達が下級生の試合を見に来ているのを見るのは初めてだ。
(まぁお目当ては彼女だろうけど)
入学前から豊富な魔力を持っており、加えてあの容姿。
特に彼女は応用の効きやすい熱を発生させる魔術を得意としていて、どんな戦いをするのかを自分の目で見たいと思う人がいるのは当然だろう。
「それでは、始め!」
合図とともに周りから音が消える、っとすぐに彼女は早速魔術の行使を始めた。
彼女が持っているのは魔術の補佐をするもの。正式名称はマジックアクセラレーターツール。しかしMATと呼ぶ人は殆どいなくて、大体の人はデバイスと呼んでいる。
高校入学と同時に全生徒に配布されるが、配布時は基本的なプログラムしか施されておらず、殆どの人は、その人その人で個性を出すために、各自プログラムする、又はそういったことを専門とする店に出す。
人間はデバイスの補助無しで魔術を行使することはできない。詳しい理由は割愛するが、簡単に説明するとしたら、車はガソリンなしでは動かない。ガソリンを燃焼させて、さらにその力をモーターを動かす力にに変換させて人を運ぶ。こんな感じ。つまり、魔力がガソリンで、車がデバイス。
そして先程から彼女が連続して放っている炎が、車が人を運ぶという事象を引き起こしている要素。つまり魔術。
俺はそれを避ける。避けて避けて避けまくる。だって……当たったらめちゃくちゃ熱そうだから。それに、
(あの炎って何度くらいなんだろ? 死にはしないのかもしれないけど、あれ食らったら火傷の跡とかできないのかな?)
恐らく火傷の傷を負っても、治してくれるのだろうが、
最悪のケースにならないように、俺は細心の注意を払い避け続ける。
3分後
「どうして私の攻撃が当たらないの!!」
彼女はじっとこちらの様子を見ている。
正直避けるだけなら簡単だ。
彼女の炎の玉が四方から飛んでくるものの、速度的には大したことは無い。目と足に力を集中させれば、動体視力の向上+避けるだけの脚力を得られる。
これ以上目立ちたくはないから、このまま彼女の魔力切れでドロー……ていうのがが理想的なんだけど…………
彼女は一年時、実技試験の結果から実力は学内でトップ3に入るだろうと言われているほど魔術の扱いが上手い。
(試合はしていないためあくまで推測の域)
加えて自分の失敗から次に繋げるだけの頭を持っている。闇雲に通用しない攻撃を続けてくれるほど甘い相手ではないだろう。
「避けられないぐらい大きければどうかしら。私の最大火力を食らいなさい」
会場が閉鎖された空間であることを上手く利用し、更に球体ではなく迫り来る壁として俺に向かってくる。やはり只者ではない。魔術の形態をここまで自由に変化させられるとは。流石にこれは避けられそうにない。
だが、
「…………あれ、? なんともない?」
「どうして!」
どうしてかは俺の方が聞きたいのだが、何故か俺の体には傷一つ付いてはいなかった。
「完全に捉えてた。しかも今までで1番の火力だったはず。―あなた、一体何をしたの?」
「……」
成程。今の今まで気づかなかったが、どうやら俺の体は魔術に対しても有効のようだ。
さっきの栗花落さんの炎を受ける際に、咄嗟に全身にあの力を使ってみた。物理攻撃では無いので、効果はないと思っていたのだが……
つまり、この力は、物理的外傷と魔術による外傷、そのどちらに対しても自分を守ってくれるらしい。
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