始めての決闘


2年生へと進級してから、早1ヶ月が過ぎようとしていた。正直俺の日常に今までとさほど変化は無かった。

馬鹿にされたり見下されたりするくらいなら、既に慣れきってしまっている。

(だからと言って辛くない訳では無い)


だが、今日を境にそれは徐々に変化していくことになるかもしれない。そうなれば、はや1ヶ月ではなく、1、と感じるようになるだろう。何故なら、





俺は今日、戦わなければならないからだ!


何故戦わなければならないのかって?

そんなのコッチが聞きたい。しかし、授業の範疇と言われてしまえば一生徒として断ることは難しい。それに、救護班らが万全の準備をしており、多少の怪我はあれど、大事には至らないよう配慮されている為、死ぬ危険も無い。しかし………………………


…………唐突すぎて今も尚実感がわかない。

いや、湧かないのではなく、俺がそう認識することを拒んでいるのかもしれない。


―困ったなぁ。


さっきから自分の脳みそが如何に現実逃避するかという方向にシフトしている気がする。

しかしこの状況を真剣に考えれば考えるほど、押し寄せてくるのは心配と不安。 あぁお腹が痛くなってきたかも………



遡ること3日前。俺はこの日ほど自分のことを呪ったことは無いだろう。


去年も魔術の授業はあった。だが、座学の割合の方が多かったし、戦闘は先輩達や先生方の見学しかしていなかった。

故にこうして実際に魔術を使って戦う授業______試合は今日が初めてだ。



言い忘れていたが、試合とは、お互いが魔術をどの程度理解出来ているのかを図る、加えて魔術に対しての自衛手段を実践の中で学ぶ。というのが主な目的として、それ以外だと…………っと言うか、ぶっちゃけただのカーストの順位付けだ。

魔術の理解、自衛手段だなんだと大義名分をかざしてはいるが、生徒は勿論、幾らかの教師達だって、それに応じて生徒に対する態度があからさまに変わっている。


幸い1年の間は、実技があまり無かった分、陰口や些細ないじめしかなかったが、今年からはそうもいかないだろう。学校の帰り道、目の前でパシられている先輩を見る度に、これが俺の未来か、となんとも言い難い気持ちになる。


まぁ、それの配慮があってなのか、

はたまたそんなものは関係ないのかは知らないが、高校1年の間はこの試合という理不尽なカリキュラムは存在しない。


とは言っても、2年生からはどの学校でも絶対に行われるもので、これらの成績の良し悪しが進路へ影響を及ぼすこともある。正直進路にまで影響するというのは理不尽だと思う。


(だって俺だけ魔力が無いから)


とまぁ、そんな感じでごねていたらあっという間に当日。しかも、相手は学内で知らない者はまずいない、栗花落つゆり燈華だ。


どうやら、世界に魔術は存在していても、神は存在しないらしい。いたらこんな理不尽な人間が存在するわけが無い。そもそも魔力の無い奴を魔術の戦闘の場に駆り出すこと自体正気の沙汰とは思えない。一応リタイアすることもできるが、成績がかかっているからなるべくしたくない。はぁ、ほんとに困った。




「第3試合の結果、勝者○○」


とまぁしょうもない独り言をしているうちに、前の試合が終わってしまったらしい。


生徒たちの試合は、学校関係者であれば、誰でも見ることが出来る。普通は各学期初め、学期末の系6回。

1年生の初めは3年生の試合を見てから各自気になる試合を見ることとなっているが、他は最初からどこを見に行ってもOK。試合会場はA〜Eの5つで、2年生はA、B、Cで行われ、3年生はD、Eで行われる。


俺は、今回Bの4試合目だ。


「続いて第四試合に参ります」


はぁ、呼ばれてしまった。



俺たちが戦うのは特別な無機質の空間内。生徒たちは、その中にあるカメラが映し出す映像を別の場所からモニターごしに見ているだけ。臨場感はないが、これは主な目的を生徒の魔術力の測定と定めているからであろう。便宜上、何かの祭りでもなければ、誰かのために戦う訳でもない。しかし、モニター越しにもかかわらず、生徒たちは大いに盛り上がりを見せる。



戦闘が始まれば、まるで外界から隔絶された世界にいるかのように、外部からは一切の影響を受けない。本当に自分と相手の音のみしか聞こえないようになる。


何故わざわざそんな面倒臭いことをしているのかと言うと、一つは不正が起こらないようにするため。この決闘方式になる前に外部から魔術の影響を受けたことがあったらしい。


もう一つの理由として、安全を確保するため。一つ目の理由では外から中への影響を防ぐのが目的に対して、これは中から外への影響を防ぐためである。

よくある力が強すぎて自分の力だけで結界を壊しちゃいましたとか、原理不明の能力を使い始めたりとか、


「何故このような年端も行かない小僧がこれ程の…………」


「ん? これはただのファイアーボールなんだけどな」


……ということは生憎

そもそもそんな馬鹿げた魔術等が無い。厳密に言うと大規模な魔術行使にはそれ相応のコスト、魔力、それと政府の許可を要する。


それに、言い出したらキリがないテンプレートの数々だが、よく考えても見てくれ。


この国はつい最近まではエネルギー問題に頭を悩まされていた国だ。というかまだ解決した訳ではない。その研究が最近魔術というものに昇華されたばかり。それが急に、


「俺は時を止められる」


「フッ、その力がお前だけだとでも思ったのか」


「!?」


とか、仮にでも出てきてみろ? 笑える。いやむしろ笑えないレベルでカオスだろ。


おっと、話が脱線してしまった。

話を戻すと、そのようなことを考えるのは杞憂だということ。


しかし学校のカリキュラムとして国が組み込んだもの。安全には特に慎重な判断がなされているのだろう。


魔術は、地球上でのを除く一般的な化学や物理法則に逆らうことは出来ないとされている。例えば、火を出す魔術を使いたいとする。だが、酸素のない場所では火は燃えない。故に魔術を行使してもその場に酸素がなければ火は出せない。


自身のスピードを光速にしたいとする。

しかしながら、それは物理的に不可能である。故に私達は魔術を行使したとしても、光速にはなれない。質量保存は例外とされる理由は、魔術によって、魔力が物質の質量に変換されることがあるため。魔力は魔力として存在している時は視覚出来ず、質量など持たない。故にこの法則だけが当てはまらなくなる。ただ、これも本当に正しいのかどうかは分からない。


それなら魔術ってなんだろう、魔力ってなんだろうと思う人もいるはず。結論から言うと詳しくは俺もわからん。多くの教授や学者達もそれぞれいろんな説を持っている。ただ、物理法則に当てはまること、そもそもの見つかった過程から推測すると、魔力=電気のように視認はできないが、電気と同じように利用出来る未知のエネルギーと考えている。


そうなったらかの有名な物理学者の公式に似て非なる公式が生まれそうではあるが……


実際これからの時代のエネルギーとして期待されているのだから全くの見当違いという訳でもないだろう。


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