魔術…………ではない何か

「今日のニュースです。昨日もまた、夕方6時ごろ大きな爆発音が発生。音が聞こえた山には深さ約10メートルほどの穴が空いており、原因はまたしても不明です。幸い近くに人は全く居らず、怪我人はいないとのことです。

しかし度重なる原因不明の現象に近隣住民からの不安の声が高まり、市役所は今日原因について本格的に調査するとのこと。尚……


「………」


「なにその顔」


「えっ。あぁ。なんでもないよ。それより早く食べないと今日日直なんでしょ」


「あー本当だ」


「そろそろ違うやり方探さないとな……

でもどうすればいいんだ……」


「大丈夫? もしかして学校のこと? まだ冬也君の悪口言う人いるの? だとしたら私が


「違う違う。ただ考え事してただけだよ。それに学校も大丈夫だから。春は心配しないでくれ」


「…分かった」



「さて……」


(春には強がっているけど、実際憂鬱なんだよなぁ。それについに俺も高校2年生になってしまった。つまり……はぁ)









「皆さん席に着いてください」


学校の担任が教室に入ってきた。


立っている生徒たちは急いで自分の席に座る。


「みなさんも知っているとは思いますが、今年度からは週一だった魔術の授業は毎日になります。 それに 1年生の頃にはなかった実践授業もあります。みなさん張りきっていきましょう!」


「え! まじかよ。やったぜ!」


「楽しくなってきたぁぁ」


「遂に俺の力を見せる時が来た!」


「俺も勉強するよりも早くかっけぇ魔術使えるようになりてぇー」


「コラ! あなた達はまだ高校生なんだから、勉強もしっかりしなきゃダメです」


「チェ」


一見アットホームみたいな雰囲気である。


しかし、


「え〜じゃあアイツどうするの?」


「魔術使えないんじゃ意味無いもんね」


「ずっと見学?」


「うわダッサ、ってかまじアイツなんなんだろうね」


こういうことがヒソヒソと聞こえる。

先生がいるから、皆直接俺に言うことは

無いけど、こうやってコソコソしゃべられている方が辛い。あ〜明日から学校行きたくねぇ。ってか ずっと行きたくなかったんだよ。


(毎日こんな目で見られるし、コイツらはただ面白がってるだけかもしれないけど、言われてる当人は凄い傷つくって分かって無いんだろうな。)


とはいえ、それは出来ない。

妹を心配させる訳にはいかないからだ。


もうかなり昔の話だから、当時何があったかは殆ど思い出せないけど、俺達は両親を交通事故で失った。そして去年育ててくれていた母方の祖父が亡くなり、今では家族と呼べるのはもう妹の春しかいない。春はこんな俺でもいつも優しく察してくれるし、お互いもう高校生になるが、会話しない日なんてないぐらい仲は良い。幸い妹には豊富な魔力とそれを扱う才能があった。俺のせいで虐められるようなことがなくて本当によかったのだが、


「お兄ちゃんは凄いんだから!」


と周りに言っていて、周囲からは


「可哀想」


とか、


「アイツには勿体ない妹だろ。めっちゃ美少女でしかも優しいとか」


「ほんとに血が繋がってるのか疑いたくなるわwww」


など。


俺が不甲斐ないばっかりに…………


(ほんとダメな兄貴だな)


 



学校が終わり、俺はそそくさと学校から帰る。その前に、俺はいつも少しだけ寄り道をしている。

向かう場所は人気のない山の中


「よし、じゃあやるか、いつもの」


俺は深く深呼吸をし、直ぐに右手のみに力をぎゅっと集中させる.すると、


「ほんと、なんだろうなぁこれ」


俺の右手は淡い光をを放つ。そして、


「よっ!」


高さ10メートル程の巨大な岩石を俺は右手だけで頭の高さまで持ち上げる。


「よし! 次は足だな」


俺は今度は両足に力を込める。これは色々と実験していて気づいたことなのだが、力を込める場所を足にすれば、今の光が今度は足に現れる。また、その威力は、ある程度操れるもので、本気で、それこそ一点に全集中力を注げば、これより威力は上がる。


「うぉ。今日はめっちゃ調子いいな」


上空から見たこの町の景色に、あまり映えるものはない。

と言うより、どの町も機械化が進み、夜景が異様に輝く所ばかりだ。田舎と呼べる場所は、意図的に残された場所を除けば、日本にはもう存在しないのかも知れない。

なぜこんな感想を俺が述べているのかと言うと、勿論


俺は力を込めた両足で思いっきりジャンプしたのだ。だいたい落ちるのに10秒かかったから、飛べたのは300メートルくらいだろうか? 加えて俺が55キロだから、時速165キロぐらいで落ちた訳なので、そのくらいの耐久力を持っていると考えられる。


勿論足には光を維持しながら落ちた。光無しの生身で落下したら、俺は当然死んでしまっただろう。


「今日は大きな音も出してないし大丈夫だよな。それにしても……結局なんだろうなぁこの力」


俺に魔力はない。だが、俺は魔力ではない

を持っている。気づいたのは高校入学から半年程経った頃の事だ。


それ以前は力むと体が丈夫になる感覚を覚えるくらいだったのだが、それから光を伴うようになり、流石に自分の身に異変が起きているのを感じた。そして現在に至り、こうして人外の動きを可能としている。


周りに話そうかはかなり悩んだ。しかし、ただでさえ魔力を持たないと気味悪がられている身。加えてそいつが急にわけも分からない力に目覚めたら…………最悪人間扱いすらされなくなるのかもしれない。それに


そういう訳で、今まで誰にも話したことは無い。春にも伝えていないので、このことを知っているのは多分俺だけ。


なぜ春にも伝えていないのかと言えば、俺が嫌われたくないと思うのは勿論だが、心配をかけたくないというのが1番の理由だ。


こうしてこっそりと自分の力について定期的にチェックしているのも、分からない力だからこそ。他の人に迷惑がかからないようにしなければならないし、自身で制御できねばならないと思っている。


もしも朝起きた時に勝手に力が発動していて家が吹き飛んでいるなんてことが起きたら大変だし……


__________特になんにもしてやれない俺が、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。


「まぁもう既に近隣住民の方には迷惑かけちゃってたけど……あぁまじですいません。これからは絶対迷惑かけないようにするので許してください」


俺は空に向かって深々と謝罪をした。

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