#017 塗りかえられる国境③
「おい、(リアス)砦が獣人に占拠されたって本当かよ!?」
「信じられない、砦が落ちるなんて……。このままじゃ、獣人たちが(リアスの)
「街は、生活は、どうなっちまうんだ……」
"リアスの街"。この場所は敷地こそ繋がっていないが、高い建物に登ればリアス砦が見えるほど近い場所にあり、街としての規模こそ小さいものの、周辺の農村でとれた作物の取りまとめと、リアス砦を支える軍事産業で生計をたてる重要な街となる。
「落ち着け。砦が落ちたのは手薄なタイミングをつかれたからで、街には確り兵士や装備は残っているから、大丈夫だって!」
「つか、なんで手薄にしてんだよ!? 兵力があるなら直ぐにとりもでしてくれよ!!」
「ほら、この前の招集だよ。なんでも、お
重要拠点が占拠されるなどのネガティブな情報は、本来ならなかなか平民にまで下りてこないのだが……流石に今回は違った。三角州の砦に向かった部隊は、最終的に三角州を放棄して、リアスの街に戻され、そこで街に新たな防衛ラインを構築した。街に暮らす人々が事情を知り、怯えているのはこのためだ。
軍が恐れているのは、守りに硬いリアス砦に侵攻するさい、同じ手を使われて、今度は街を落とされる展開だ。三角州の砦は、街からの補給が無ければ維持できない。それはリアス砦も同じであり、もし街が落ちるようなことになれば……地の利を完全に失い、周辺地域を丸ごと奪われる展開になる。
「それじゃあこのまま、街の防衛に専念しろってか? たしかに、ココなら補給には困らないだろうが……」
「いや、街の中は大丈夫でも、周辺の村はダメだろ!? 街だって完全に分断されれば時間の問題だ!!」
「いやいや、当然街道の防衛も強化するだろ? それも含めての専守防衛なんだって」
「まぁ、街としては、あくまで時間稼ぎなんだろうな。補給に関しては相手の方がツラいだろうし、時間をかけて"得"が多いのはコッチだ」
リアスの街は、街だけあって最低限の防衛設備を備えており、食糧や装備品も潤沢だ。砦に比べれば防衛能力は落ちるが、それでも守りに徹すれば易々とは落ちる事はない。
「情報が入ったぞ! 街長はしばらく守りに徹して、攻めるのは冒険者に任せるみたいだ! かなりの賞金がかけられていたから、お前も挑戦してみたらどうだ?」
「賞金が高いって事は、それだけ危険ってことだ。俺はパス!」
「俺は、状況次第かな~」
加えて、人族には冒険者を活用する手段もある。徴兵を利用すると、勝ち負けに関わらず何らかの報酬や補償が必要になるが、冒険者に関しては基本的に出来高払いで、街の防御を崩さずに攻める事は可能だ。
*
「野郎ども! 不整地での獣人の身体能力を甘く見るな! 確実に1匹ずつ始末していくぞ!!」
「ハハッ、誰に言っているんだ? 百戦錬磨、無敵のマグ……」
「おい! アレなんだ?」
物々しい雰囲気に包まれる門を抜け、1組の冒険者が砦へ向かう山道にやってきた。
「おい、名乗りを妨げるんじゃないって、何度言ったら……」
「はぁ~ぃ、"アドベンチャークエスト・リアス砦12宮"の参加受付はコチラになりま~す。"スタンプカード"をお持ちでない方は、コチラで購入できま~す」
「おい、なんだアレは」
「いや、俺に聞かれても……」
山道の入り口。そこには机と椅子が置かれ、麦わら帽子をかぶる少女が、何かの受付をする姿があった。
「あ、はじめての方ですね。コッチです、説明するので、まずはコチラに」
「「え、あ、はい……」」
和やかな雰囲気に毒気を抜かれ、冒険者が言われるがままに少女のもとに集まる。
「皆さんは、リアス砦の奪還クエストに参加した冒険者さんですよね?」
「あ、あぁ……」
「よかった。それじゃあ、リアス砦攻略の手順を説明します!」
「え? あぁ、頼む」
クエストの説明は、すでに冒険者ギルドで受けているが……それでも流されるままに説明を聞く面々。
「え~、こほん。リアス砦は丘の上にあり、最短ルートは舗装された山道となります。しかし! その道中は12の上位獣人が守護する宮殿があり……! ……!!」
①、山道には12のアトラクション(12宮)に分かれており、それぞれにテーマに合わせて守護者と競い合い、頂上の砦を目指す形になる。
②、12のうち、11宮まで殺生禁止。脚力や反射神経などを競い合い、基準をクリアすると最初に買ったスタンプカードにクリアを証明する判が捺される。
③、クリアに失敗した場合は、スタートに戻る事になるが、追加料金を払えば再挑戦可能。(これを拒否すれば、命の保証は無くなる)
「ちょっと待ってくれ! なんで、わざわざ料金を払って試練に挑戦しないといけないんだ? 普通に、獣人と戦っちゃいけないのか??」
「別に、それでもいいですが……」
「「??」」
「その場合、不整地で上位獣人と遭遇戦をすることになりますよ?」
「「あぁ……」」
足場や見通しの悪い山道で、身体能力のみならず、嗅覚などの五感が発達した獣人と戦うのは、人族にとっては明確な不利となる。そして、山道を避け獣道を選んだ場合は、"不可能"と言って差し支えないほどの不利となる。
「まぁ、試練にそって行動すれば、無傷で砦の入り口まで行けるんだから、いいじゃないですか。エントリー料も、回復薬などの必要経費と考えれば、安いものです」
「た、確かに……」
「それで、最後の試練は上位獣人と戦う事になります。ココでの戦いは、普通に命がけなので注意してくださいね」
「お、おぅ……」
思っていた流れと違う展開に、困惑する冒険者たち。文句を言いたい気持ちも無いと言えば嘘になるが、それでも話は冒険者たちにとって優位な部分が多く、反論するタイミングが掴めずにいた。
「最終試練をクリアすると!」
「「!!?」」
「砦を治めるボス、"亜神"ニア様と戦う権利を得ます!!」
「はぁ!? ちょっと待ってくれ! 相手が亜神だなんて、聞いてねぇぞ!!」
「そうだ! 相手は上位の獣人集団じゃなかったのかよ!!?」
国にとって『冒険者は敵戦力をはかるための捨て駒』であり、上位獣人を束ねる上位存在について明言はされていない。
「あぁ、なんか(冒険者)ギルドでは、そういう風に説明しているみたいですね。まぁ、安心してください。ニア様は気まぐれなので、強い方相手だと直ぐに降伏してくれます」
「「はぁ??」」
「降伏でもいいので、ニア様を倒せば、砦の指揮官がこっそり横領して溜め込んだ"秘密資産"が景品として進呈されます」
「「はぁぁぁあ!!??」」
指揮官が私腹を肥やしていた事については、全く不思議は無いが……それが振舞われるのは冒険者の想像を遥かに超えていた。それがどれほどの金額かは分からないが、それでも指揮官なら貴族であり、その秘密資産となれば一生遊んで暮らせる額でも何ら不思議はない。
「ちょっと待ってくれ! 秘密資産って、どれくらいあるんだよ!!?」
「あぁ、秘密資産は貴金属が多かったので、具体的に幾らかは、ちょっと判断付かないですね」
「つか、砦はいいのかよ!? クエストの内容が、丸っきり変わってるぞ!!」
「そっちは更に話が続きます」
「「えっ!?」」
「ニア様に勝つと"裏ボス"に挑戦する権利を得ます。裏ボスに勝つと……」
「「勝つと??」」
「はい、リアスの砦が賞品として授与されます。これで、完全にクエストクリアですね」
「あぁ、なんだ、ソコは普通なんだな」
「はい。でも……」
「「??」」
「挑めば確実に死ぬので、お金だけ貰って、街に戻らず雲隠れする事をお勧めします」
無言で顔を見合わせる冒険者たち。彼らも少なからず国のやり口は知っており、何が賢い選択なのかは熟知している。
こうしてリアス砦は、訳の分からないアトラクション施設になった。
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