#011 継がれない王の血①

「シロナさんは、同年代のお友達とか、その、居るのでしょうか?」

「そうですね。居ましたよ」

「あ、その、すいません」


 反射的に謝るリザに対し、シロナは優しく問いかける。


「そう言えば、共同体の本来の目的と成立しなかった理由は、分かりましたか?」

「いえ、それは……出先では公式に発表されている以上の情報は得られず……」


 嘘は言っていないものの、そもそも共同体の話は、部隊内では全く相手にもされなかった事実に後ろめたい思いを感じるリザ。


「共同体とは、そもそも前国王が主導した、異種族のハーフや共存を望む者を受け入れる組織、あるいは第5の国として計画されたものでした」

「なっ!?」


 驚きを露にするリザ。共同体の、組織としての方向性は間違っていないものの、それはあくまで魔王対策であり『情報をやり取りする関係にすぎない』との認識であった。しかし、種族差別が色濃い人族、それもその王が、そんな組織を設立しようと動いていたことはにわかには信じられないものであった。


「もちろん、魔王を軽視したとは思いませんが、あくまで魔王ウンヌンの話は建て前です。前国王は"亜人友好派"であり……」

「それはありえない!!」


 声を荒らげるリザ。それもそのはず、人族は大陸全土の主権を主張し、亜人の差別と奴隷化を推進している。仮に、本当に前国王が友好派だったとして、それを階級社会のトップが隠す必要はない。


「ではお伺いしますが、アナタは前国王に会い、その主張や、周りに仕えている者を見たことがありますか?」

「え? いや、私程度の身分では……」


 公には知られていないが、実のところ前国王は亜人好きで、獣人やエルフの女性を奴隷の形で何人も抱え込んでいた。しかし、その実態は"側室"同然のものであり、待遇は側近の貴族と同等かそれ以上であった。もちろん世間体を考え、正室は人族を選び、公に混血の子供は居ない事になっていたが……王のハーレムには、ハーフの子供が何人も生活していた。


「では、前国王が"処刑"された理由と、その時同時に処刑された者を知っていますか?」

「なっ!? 処刑とは何のことだ!!?」

「あぁ、処刑された事さえ、公には発表されていないのですね」


 前国王は、表向きは『経済対策を疎かにして自国の財政を悪化させた』と言う理由で、若くして王の席を交代した。その際、よほどの事が無い限りは妻や子供が王位を継ぐところを、特例で元老院に勤めていた親類(分家)が王位につく事となった。


 そして前国王一家は、王位を返上する形で公の場から完全に退き、人里離れた場所で穏やかな生活をおくっている。事になっているのだが、その後、一家を見た者はおらず(経済状態は依然として酷いままだが)話題に上がる事は無い。


「一体、何があったのだ!? それは誠なのか!!?」

「私も当事者ではないので実際に見てきたわけではありません。しかし、どうやら元老院の御歴々が自分たちの都合のいい者に"挿げ替え"をおこなったようですね」


 この事件、一言で言えば単なる"下剋上"なのだ。差別主義であり、共同体設立に反対(情報のやり取り程度なら許せるがそれ以上は容認できない)する元老院は『共同体を設立させるために王が反対派の入れ替え人事を行う』と見て、王と近しい者を全員暗殺または処刑した。そして、他の血縁者を差し置き、元老院に属する遠縁の者を新たな王に挿げ替えたのだ。


「それがもし本当なら大問題だ! すぐに王都に戻り……」

「アナタは、前国王を非難しないのですか?」

「え? いや、共存の話か? それなら、正規の方法で、そう言った主義の人が集まり合う分にはイイのではないのか? それよりも! 問題なのは私欲で……! ……!?」


 シロナの頬が緩む。確かに人族の世界は、地方の子供にまで反亜人自身主義の教育が行き届いており『日々の苦労は全て亜人のせい』だと思いこまされている。しかし、それは事実とは異なるものであり、反亜人教育の網から零れた者や、前国王のように自身の価値観で物事を判断できる者は、少ないながらも存在していた。


「リザさん。アナタの実直さは大変好ましく思いますが、それでは"国"は廻りません」

「はっ? 何の話だ??」

「あと、私が妄想を口走っているだけの可能性も、もう少し考慮してください」

「あっ! すまない、興奮して我を忘れてしまった」


 我にかえり、冷え切ったお茶を一気に喉に通すリザ。


「それでは、少し失礼しますね」


 そう言ってシロナは、胸元を開き、自身の体に爪を突き立てる。


「なっ!!?」

「騎士を名乗るなら、"コレ"が何なのかは、ご存知かと思います」


 シロナが"体内"から取り出したのは、複雑な刻印の刻まれた指輪であった。指輪から放たれる淡い光を目にし、リザは慌てて席を離れ、膝をつき首を垂れる。


「失礼しました!! 知らなかったこととは言え、大変不遜な……」


 この指輪の名前は"王位の指輪"。その名の通り、王族のみに受け継がれる魔道具であり、つまるところ所有者が『王、あるいは王位継承権を持つ事を証明する』指輪だ。


「落ち着いてください。私に、王族の血は流れていませんので」

「いや!? そのはずは!!?」


 当然のことながら、指輪を持っていれば誰でも王になれる訳ではない。この指輪は、刻印(魔術契約)と所有者が"対"となる事で光を放ち、それをもって"王位"を証明する。つまり、指輪だけ奪っても光を放つ事はなく、血縁関係がある親類でも認証をしていなければ、同じく光を放つ事はない。


 そして指輪を所持し、それが光を放つのなら、シロナは正式に王位を継承したことになる。


「私は、確かに王位を継承しています。ですが、それは正式なものでは無く、最後の悪足掻きと言うか……私はあくまで、指輪を正式に託された、それだけなのです」




 そして、シロナの過去が語られる。

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