第2話 忘れ物

 駅から来た道を戻るように軽く駆け足ぎみで学校に戻り、自分が学ぶ教室へ向かった。

 教室に誰も生徒が残って居ないと思っていたが、廊下側の開いた扉から教室内に誰か生徒が残っているようだ。

 見覚えのない女生徒に恐らく午前中に来ていない人物なのだろうと思った。

 とりあえず、声を掛けてみることにする。


「おい、あんた」


 驚いたらしく、背中をはね上がらせてこちらに振り向いた。

 振り向かれるまで気づかなかったが、とても整った顔立ちに茶色がかった黒髪が肩まで伸びており、一目で美人だと分かってしまう。

 だが、そんな第一印象など吹き飛ばしてしまうほど、第一声がこれだ。


「てめぇ、何の用で話しかけてんだ?」


 何ということでしょう。

 言葉遣いの荒さに一瞬目を疑ってしまいました。

 しかし、驚きはしたものの、すぐにいつもの冷静さを取り戻し、元の目的を思い出す。


「いや、何か困ってそうに見えたから、つい話し掛けただけだ。迷惑だったら謝る。すまない」


「……」


 何も返さず、また何かを探しているようにキョロキョロと周りを見渡している。

 再び声を掛けてみたい気もしたが、何を言っていいのか分からないため、自分の席へ向かい、引き出しから定期入れを見付け出す。

 一応定期入れの中も確認し、中身が無くなっていない事にホッとする。

 そして、胸ポケットに仕舞うと、用が無くなった教室を後にしようと歩き出した瞬間、朝の出来事を思い出し、あの言葉遣いの荒い生徒の探しているモノが分かった。


「席を探しているのなら、名前を教えて貰えるか?」


「は? なんで席を探しているなんて知って……いや、席なんか探してもいないが?」


 完全に探していると言ってしまったが、すぐに訂正する辺り、これはかなり面倒だ。

 無理に聞き出そうとした所で埒が明かないだろう。

 そのため、仕方がなくヒントだけ与えて帰る事にする。


「今自分が居た席の窓際の隣が河上咲さんに、廊下側の前から3番目の席に渡辺瑞季さん。そして、最後に真ん中の左側の前から2番目に村瀬唯さん」


 指で次々席を指差し、場所を軽く教える。


「誰も頼んでないんだけど?」


「知っている。ただの独り言だからな」


 そう言って教室を出て行く。

 スマホを見ると、昼はもう過ぎており、次の電車に間に合うか考えるのだった。













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