弐 大理寺日誌(2020年4月 第一季12話)

 七世紀の唐を舞台にした活劇。同タイトルのネット漫画が原作。百妖譜と同じくbilibiliから提供されているが、地域制限が掛けられているので、基本、日本からは視聴できない(VPNを通せば可)


 時代は中国史上唯一の女帝武則天の頃。都、洛陽らくようで起こる怪事件を大理寺少卿である白猫の李餅が部下と共に解決していくというもの。大理寺と言うのは、この時代の司法機関で、最高裁判所の位置付けにある。そのトップは大理寺卿であり、少卿はその補佐役に当たる。


 部下たちは、一癖ある者ばかり。悪ふざけで周囲を掻き回す王七、金持ちのボンボンで胡人(ペルシャ系)のアリババ、大柄で頼りになるが、幽霊が怖い豹孫、文字通り「嵐を呼ぶ男」の崔倍。一見、凡庸で何の取り柄もなく見える陳拾は、芯の強さと誠実さで、時として迷い悩む李餅を支える。


 その他、上司である大理寺卿、李餅と何らかの関わりを持つ丘将軍、郎将軍、徐尚書、女帝、奸臣、謎の盗賊などがからんで、徐々に、大きな波乱の予兆を感じさせる。


 一見、かわいらしい絵柄に反し、ほのぼのアニメではない。大理寺の日常はユーモアに満ちているものの、冒頭の処刑シーンなど、歴史の闇にあたる部分がちらちらと顔を出す。


 本作で「妖后」と呼ばれる武則天は、唐第二代皇帝太宗の後宮の一人(寵妃ではない)で、太宗の死後出家していた。それを息子の高宗が見初めて還俗させ、自らの妃に迎えた。


 道義上、到底許されるはずもなかったが、出家=俗世の因縁と汚れを断つ、という解釈で、強引に実現させた(後世これにならい、玄宗が息子の妻である楊貴妃を娶る際、いったん道観に入れるという体裁ていさいを取った)


 高宗の後宮に入った武則天は、皇后に登りつめ、高宗の死後、女帝として即位するに至る。この過程で、後宮内のライバルや、本来の皇族である李氏や彼らを擁護する廷臣を粛正、処刑、流罪、または左遷した。主人公の李餅も、おそらく皇族出身で、それに巻き込まれたものと思われる。


 李餅は元々は人間だったらしいが、何らかの理由で猫の姿にされ、定期的に薬を飲まないと、精神まで猫化してしまう。彼は、たびたび悪夢に苛まれる。李餅を責め立てるのは、無念の思いで殺された一族と、友人たちだろうか。


 アクションも、よく練られている。

 特に、一季最終話、女帝の御前で繰り広げられる戦いのシーンは圧巻。映画的なカメラワークに、ケレン味のあるアニメならではのアクションが加えられ、緊張感と迫力に満ちた映像になっている。緩急の付け方も効いている。


 考えて見ると、面白いと思う中国アニメは、そんな作りのものが多い。かの国で先に発達した武侠ドラマや映画から、良い意味で影響を与えているのだろう。登場人物たちにも裏があり、二季では、いろいろな謎が明らかになるのか。


 展開の面白さや、動きの良さだけではなく、設定や時代考証にも細かい気配りが見える。

 柔らかなタッチの背景を含め、国際色豊かな唐代の文化や風物、人々の様子が、生き生きと描かれていて、またエピソードにも活かされている。


 各話の末に、人形(クレー?)アニメによる唐文化を、紹介するミニコーナーが設けられていて、これも中々面白い。


 中国アニメは、まだまだ発展途上と思っている人々も多いが、既に隣に立たれている感がある。気がつくと追い抜かれて、大きく引き離されてしまいそうだ。


これは力作、いや傑作。

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