1―3
時は二人が宇宙船で艦橋を通過した場面までさかのぼる。
コードAによって戦闘機能が解放されたジウは自身と宇宙船の演算能力を駆使し、戦艦の目標の位置にアンカーを打ち付けた。
「こっちは準備出来たよ!」
船内の後部ハッチではウェンズデイが宙に向かって合図を送る。その瞳は律儀に船内スピーカーに目を走らせ、船と一体化したジウの姿を捕えようとする愛らしさを感じる。
しかし、ウェンズデイが纏う装備は愛らしさからは程遠いものだった。宇宙服の上に防弾ジャケットを羽織り、それには手榴弾や弾薬、ナイフがどっさりと詰められている。腰には左右にレイガンとヒートガン、後ろに実弾の込められた拳銃がそれぞれホルスターに収められ、一六五センチのウェンズデイは小型の武器庫さながらの姿に。
目を合わせるのであればスピーカーでは無くカメラでは? ジウは彼女の教育係として行動を訂正させたかったが、今は生死を共にする相棒・バックアップである事実が優先事項、余分なリソースを割かずに行動を続ける事にした。
「艦橋を破壊できれば楽だったのにね」
〈この船は惑星開拓時代初期の旧型、やたらと頑丈だから手持ちの武装じゃどこも削れません。まあ、だからこそやりやすい部分もありますが〉
それでは手筈通りに、ジウが指示を出すとウェンズデイは戦艦の装甲に向かって真っすぐに降りる。両足が装甲すれすれにまで近づくと彼女は宇宙服に仕込まれたマグネットシューズのスイッチを入れた。磁力が働く場所であれば無重力空間に流される事も無い。彼女は宇宙船からケーブルを受け取ると、バイザーの内側に表示された目標地点まで移動し、それを戦艦と接続した。
仕事の始まりだ。ジウはケーブルを通して戦艦へとアクセスを開始する。ウェンズデイのためにハッチを開けると、そこを基点に彼女のAIはグングンと戦艦の中枢へと侵入してゆく。
思った通りハード面での防壁が甘い。それに、
何かしらの反撃を予想していたものの、拍子抜けするくらい何も無い。ジウはあっという間に戦艦の中枢コンピューターを掌握しそのリソースを自身へ回した。ジウのAIは戦艦と同化し、ウェンズデイのための舞台を整え始める。
〈後は頼みますよ〉
「うん」
ジウは戦艦の重力制御をオフにし、ウェンズデイはハッチの内側へ磁力を纏いながら駆けてゆく。
科学技術の向上はあらゆる階層の人間に恩恵をもたらすと共に、技術の成り立ちをブラックボックスにしてしまう。宇宙旅行を快適にするためのぜいたく品が当たり前になった現代、これが使えなくなる事を予想する人間は少数だろう。ゆえに船内の海賊たちは肉体がいきなり自由になった事に戸惑い、反応が遅れる。
「うっ!」
「ぎゃっ!」
レイガンから二条の光りが迸り、男たちの頭部を貫く。まずは二人。ウェンズデイは姿を悟られないように目に入った男たちを次々と一撃で仕留めてゆく。
〈船内で海賊と思われる人員は約一二〇名。さらって来た人や略奪品はそれぞれ一カ所にまとめられています。外を歩く、目につく人間は全て処理して構いません〉
ジウの通信と同時に艦内の状況が次々とバイザーに表示される。一二〇名。これだけ巨大な戦艦もコンピューター制御が発達したおかげで少数の人員で運用することが出来る。ウェンズデイは相手が海賊の癖に科学技術の恩恵にべったりの甘ちゃんである事に感謝して、一人しっかりとした足取りで艦内を駆ける。
「一一七……一一六……一一五……」
ある時は正面から、またある時は背後から。通気ダクトに入り込むと、部屋の天井から相手を見下ろしてハチの巣に。バッテリーや弾薬が尽きたら武器庫に侵入して必要な分を拝借する。ウェンズデイの強襲に海賊たちはされるがままだった。
「五十五……飛んで四十……」
「……このクソ女!」
「⁉」
傷が浅かったのか彼女の背後で男が一人よろよろと立ち上がる。決死の表情で拳銃を握りしめ、ウェンズデイが振り向くよりも先に引き金を――
「‼ へぶぅ!」
引くことは出来なかった。男の真上には非常時に艦内通路を封鎖するための隔壁が収められていた。それが起動した事で彼の肉体は腕ごとプレスされたのである。
「三十九。さすがにこれはグロくない?」
〈助けられておいて何を言います。それにスコアで言うならあなたは何人ハチの巣にしたんです?〉
戦艦はジウそのもの。この環境は最早海賊の物では無い。事態は二人の手のひらの上。ウェンズデイは抜群の身体能力と驚異的な命中精度を誇る銃撃で男たちの体に穴をあけてゆく。仕留め損ねや、不意打ちが彼女を襲えばジウが船体を回転させたり防衛装置を動かしたりしてアシストを行う。
「十九……十八……十七……」
端から艦橋へ、二人は海賊がいる箇所をしらみつぶしに攻め落とし、血路を開く。
「十六!」
ウェンズデイは艦橋に突入すると同時に引き金を引き目の前の男の頭部を吹き飛ばした。
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