第2話
「あの…失礼ですけど家…で良いんでしょうか?その…造り方とか教えてもらう訳にはいきませんか?」佐名木はおどろおどろしくオヤジに聞きにくい事を聞いた。
「造り方のノウハウなんてないさ。集められるだけの材料をかき集めて
佐名木にとって、もはや境界線など消えていた。自分には帰る場所も生きていく場所も向こう側にはない。自分が生きていく場所はこの、目も覆いたくなるほど小汚い小屋が建ち並ぶ場所なのだ。
佐名木は缶拾いをして回るゲンさんに同行しながら助言を受けつつ廃材集めを始めた。総理と呼ばれる仲間から借りたリアカーを
元来が生真面目な佐名木は昼夜を問わずに小屋造りに没頭した。共に暮らしていた家族との思い出を追い求めるように、佐名木は懸命に小屋を建てた。
ここはリビングだろうか。ここが食を共にしたダイニングだろうか。のめり込めばのめり込むほどに佐名木は職人の手付きのように作業を進めていった。それを見守るように下弦の月が公園を照らしている頃、佐名木の耳を
夜の静寂を突き破るその悲鳴を佐名木は無視出来なかった。声が聞こえた方へ歩を進めると、公園の中央に鎮座する噴水池の
「アハッ…アハハハ」娘はあまりの突然で呆気ない出来事に、高笑いを始めた。
「な…何が可笑しいんだ」娘を陽菜に当てはめて見ていた佐名木は今にも説教を始めそうな勢いで言った。
「だって…だってさぁ、まるでスパイダーマンか何かじゃん?自分が人生最悪のピンチに現れるってありえる?」娘は笑い過ぎてなのか感動からか、目尻を人差し指で
「私はヒーローでも何者でもない。そんな事よりも君はまだ高校生くらいじゃないのか?そんな年端もいかないような娘がこんな時間まで出歩くなんて感心できないな」佐名木は
「つまんないスパイダーマン。そこは "これからは気をつけるんだよ。じゃあ!" ってな感じでカッコ良く去っていくトコでしょ?」娘は憮然とした態度で口を尖らせた。
佐名木は娘の言葉にかつて陽菜を叱りつけた事を思い出した。仕事ばかりで家族に構わず、妻の理沙子に任せっきりだった。そんなある日、理沙子が陽菜の生活態度に苦言を呈しているところに居合わせた。母親に反抗的な態度を取る娘を見兼ねた佐名木は遂、口を挟んでしまった。
『つまんない親父。そこは "今度からは態度を改めたらそれで良い" なんて感じでアタシを
「まぁ良い。家は近くなのか?何なら送っていこう」陽菜に嫌われてしまった記憶が遠慮した物言いにさせた。しかし娘の返答は意外なものだった。
「ウチなんてないよ。ネットカフェとかに寝泊まりしてっから。そんじゃあね、今日はありがと。お・じ・さん」そう言って
「ちょっと待ってくれ。ネットカフェだか何だか知らないが、そんな事はどうでも良い。そこまで送らせてくれないか?」意外な佐名木の問いかけに、娘は立ち止まりゆっくりと振り返った。
「ふ〜ん。もう説教はしないんだ。アタシの父親よりかは物分りが良いんだね。おじさん」娘は
「ウチがないって、どう言う事だ。家出でもしたのか?」娘は相変わらず物憂げな瞳のまま口を開いた。
「そう。家出だけどおじさんも "家なき子" でしょ?」佐名木は薄汚れた見すぼらしい格好の自分を見た。
「そうだ。私たちは仲間のようなものだ。だから安心してくれ」切れかけそうな娘との絆を繋ぎ止めようと、佐名木は自分でも分かるほどの支離滅裂な理屈を並べ立てた。
「ふ〜ん。仲間か。おじさん面白いね。おじさんの方は何があったか分かんないけどきっと信頼すべき人に裏切られたって感じだよね?」娘の瞳は憂いを増し、同時に優しさを
「そうだとも。君もそうなのか?」佐名木の言葉に僅かな微笑みを浮かべた。
「そうだね。裏切りって呼んで良いのか分かんないけど…で?どうすんの?アタシを送ってくれんの?」佐名木は慌てて首を縦てに振った。そして二人は薄暗い公園から外灯や自動車のヘッドライトに照らされた大通りへ向かった。
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