水仙
しろいくま
第1話
12月、学校の帰り道。私は1人で歩いていた。風が冷たい。思わずマフラーに顔の下半分を埋めたとき、ある光景が私の視界に映った。カラスだ。カラスが何かをつついている。
ゴミが何かが落ちていたのだろうか。
なんか嫌だな、そのまま通り過ぎようとしたとき、
ミャー
か細い声が聞こえた気がした。猫だ。どこにいるんだろう…あたりを見回したが見当たらない。気のせいかな…そう思った時、
ミャー
今度ははっきり聞こえた。私は一つの可能性に思い当たって通り過ぎたはずの光景をもう一度見返す。カラスのつついているものを目を凝らして見る。
それは子猫だった。助けなきゃ!
私はカラスのいる方向に走っていって、手に持っていた鞄を振り回した。カラスがこちらに飛びかかってくる。必死に追い払う。
やがてカラスは諦めたのか飛び去っていった。
私はしゃがんで子猫を抱き上げる。
少し血が滲んでいるが、大した怪我ではなさそうだ。子猫がこちらを見て鳴く。温かい。この温もりは私がいなければ今ここに存在していなかったのかもしれない。
いいことをした。1つの命を助けたのだ。
私は充足感を覚えた。そしてその子猫を抱えたまま帰路についた。
オレはカラスだ。
昔は住みやすかったこの街も、整備が進んで餌となるものが少なくなった。そして今は冬だ。オレはもう1週間何も食べていない。さっき子猫を見つけたが残念ながら邪魔が入り逃してしまった。
視界が霞む。限界だ。意識が薄れていく…
一羽のカラスが空から道路に落下し、トラックに跳ね飛ばされた。即死だった。
水仙 しろいくま @ha_nano
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