第14話 バックヤードにて
「お疲れ様でしたーー!」
「サヤちゃん、今日も完璧だったね!」
「メジャーデビューのオファーも来てるって本当?サヤちゃんなら間違いないと思うけどなー」
終演後、大勢の関係者と思われる人に囲まれながら快活な笑顔を振りまいている銀髪の女性。
ステージ上でも最もアグレッシブで、普段の姿からは考えられもしないような彼女こそが――
「北原沙耶だった……なんて、思わねえわなあ」
「サヤっちがどうかしました?」
!?!?
突然声をかけられた方を振り向くと、そこに居たのは小柄な金髪の少女――ステージではドラムを叩いていた子だった。
「ありゃりゃ、驚かせちゃったのならすみません。サヤっちのお連れさんですよね、見ての通り取り込み中なんでもう少し待ってもらえると――」
途中まで話してた言葉が急に失速したと思いきや、今度は真顔になって俺の顔をまじまじと見つめ始めた。
うーん?とか、おーっ?とか唸っているのだが、俺はそんな面白い顔をしてるのだろうか。
「あっ!」
などと思っていたら、合点がいったと言わんばかりに手を合わせて声を上げた。
「『とりまる』に居たヤンキーのお兄さん!」
…………?
この子は何を言っているのだろう。
そんな近所の居酒屋でこんな未成年みたいな知り合いを作った覚えなど…………
「あっ、北原と一緒に居た金髪の子!」
「そうですそうですー!」
なるほど道理で見たことのある顔だと思った訳だ、と自己解決し、少し砕けた雰囲気になった気がした……最後の一言さえ無ければ。
「お久しぶりですねー!サヤっちの彼氏さん!!」
無駄にハッキリとした声が響いた瞬間、時間が止まった気がした。
その時俺が目にしたのは、人懐っこそうな笑みを浮かべる金髪ちゃんと――
笑顔を貼り付けたまま青筋を浮かべながらこちらに向かってくる、北原沙耶の姿だった。
※※※
「まったく……りさちー!あなた何回言えば……」
「なんだー、本当に彼氏じゃなかったんだ……往来の真ん中で抱き合ってたのに」
「なにか?」
「なんにもー?」
……別に抱き合ってた訳じゃないんだが。
金髪の子――もとい
「りさちー……?」
「おっと、サヤっちがマジギレになっちゃうからおふざけはここら辺にして」
見たことないくらい表情豊かに猛抗議している北原に背を向け、コホンと咳払いをした白川さんが改まって切り出した。
「この人がサヤっちの目当ての先輩さん、で良かったの?」
この人はまだ言うのか……と、流石に抗議しようと口を開こうとしたが、当事者であるはずの北原は真面目な顔で首を縦に振った。
「実は今日悠先輩を呼んだのは、私達の『手助け』をお願いしたかったんです」
北原は先程までの、ステージ上で見せていたSAYAの姿はなりを潜めた、いつもの北原沙耶に近いトーンで話し始めた。
「手助け?ああ、力仕事とかだったら言ってくれれば出来る範囲で――」
「違いますよ」
キッパリとした否定。
「悠先輩、あなたなら……いえ、あなたにしか出来ない、お願いです」
心なしか、北原の言葉に無言の圧のような物を感じる。
「私達に、曲を作ってもらえませんか?イブキ先生?」
――!?!?
「どうして!?北原がその事を……!」
北原の話からして、どうやら俺が作曲をしていることを知っているようだ。しかし、一体どうして……!?
俺が作曲を始めたことを知っているのは、総一郎や健二といった数少ない友人を除けば、つい先日楽曲提供をした白鳥香澄くらいしか居ないはずなのだ。
何故その事を――と聞こうと北原に向き直ると、しばらく隣で様子見をしていた白川さんが先に口を開いた。
「ほぇー、これは黒だね。ほんとにあの『イブキ』さんだったとはねー」
えっ。
「ほら、言ったでしょ?確実な証拠はないけど、そんな気がするって」
「だからって、こんなに綺麗にカマかけて引っかかるとは思わなかったけどね。いやー、偶然ってのは凄いもんだ、色々とね」
カマ……?
「…………あの、北原?」
「なんですか?イブキ先生?」
嵌められた…………っ!!
こうして『イブキ』の顔を知る人物が二人も増えてしまった。
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