第7話 共鳴

3月9日 午前2時


月明かりの空の下、10人ものオーヴァードらが苛烈なまでの戦いを繰り広げる。


「マリアさん、敵は荊の牽制からあの少年の攻撃で来ます。」

スタッフの戦術分析は紫月、政宗の連携を当て、的確にマリアに指示を出す。

「っ……読まれてる……!!」

「大当たりね、スタッフさん。」

マリアは政宗の一撃を回避し一撃叩き込む。

「紫月……さん……!!」

同時に光の銃を構え、回避行動の遅れた紫月に向けて一筋の光を放った。


「紫月さんは……やらせません……!!」

それを遮る二刀流の剣士、宮本。

「助かったわ……宮本さん。」

「寧ろ私はこの戦いではこれくらいしかできないので……。」

「二人とも、一息つくのはまだ早いようだ……!!」

雲井は二人を守る立ち位置で紅の刃の群れをスタッフに向けて放つ。


それらの刃はスタッフが放った無数の弾丸とぶつかり合うが、一部はすり抜け雲井の外装甲にめり込んだ。

「雲井!!」

「大丈夫だ。ただ、向こうの参謀もやるようだね。」

ミニガンに弾を込め直すスタッフ。

「こちら側に時間をかけてる余裕はないのですが……。不死身を相手するのは骨が折れますよ全く。」

常に動き続ける戦場の中で彼は思考を巡らせ続けた。

そしてその戦術の中心となっているのは、彼の視線の先にいる稲本であった。



「喰らいなァ!」

「っ……!!」

鉄をも溶断する灼熱の双爪が稲本に幾度となく襲いかかる。

バルログの近接の間合いは長物を扱う稲本の動きを大きく制限する。

「距離を……!!」

「させねえよ!!」

足下を爆破することで距離を取ろうとしたがそれよりも早くバルログが足下を焼き尽くしまともに動くこともままならない。

「巻き込まれたくなきゃ退いてください、バルログさん。」

「っ……!!」

ドヴェルグの操縦するヘリによって行われる機銃掃射。

咄嗟に壁で守るがそれでいても尚、削り倒されるまでわずか数秒しかない。


「霧崎……!!」

「ったく……!!」

稲本の合図と共に霧崎は音の弾丸を放つ。

先ほど同様放たれる無数の弾丸。

「クソ……狙いがまばらなせいで避け辛い……!!」

「もっと正確に狙えよクソが……!!」

被弾し墜落するヘリ、バルログも不規則な軌道のせいで回避を余儀なくさせられた。

「助かった……」

「後で焼肉奢りな。」

「クッソ頼らなきゃよかった……!!」


軽口を叩きながらも霧崎がこの戦場における戦力として大きな役割を果たしていたのは事実であり、

「……ドヴェルグ、あのちょこまか動くクソ野郎からやるぞ。」

「アンタに言われなくても……!!」

「え、嘘?」

レイヴンにとっても優先排除対象となったのだ。


「稲本!!」

「一旦下がれ!!」

稲本は咄嗟に庇う立ち回りを取る。

「無駄だァ!!」

バルログの右手から放射状に放たれた熱波。

それは稲本の護りを嘲笑うかのように二人を灼熱の地獄へと叩き込む。

「熱゛っ!!クソがっ!!」

「俺も熱いんだからとりあえず我慢しろ!?」


「全く……巻き込まれる僕の身にもなってほしいよ……!!」

人型機動戦車とも言うべきか、巨大な体躯を操り接近してくるドヴェルグ。

その右腕に搭載されたガトリングで霧崎をミンチにしようと弾丸を掃射してくる。

「六之太刀…………!!」

稲本は灼熱の中でその弾丸全てを斬り落とす。

「遅えんだよォ!!」

だがその隙を突きバルログが接近してきたのだ。

「させるか……!!」

刀を投擲しバルログの攻撃の軌道を逸らす。

「これなら……!!」

ギリギリで回避する霧崎。

まだバルログの猛攻が続かんとしたとき、二人の間に円筒形の物体が投げ込まれる。

「耳と目塞げェっ!!」

「っ……!!」

「おまっ……!!」

強烈な光と音が撒き散らされ、その光の中でバルログは強烈な衝撃と共に後方に吹き飛ばされた。


互いに10m離れ再度戦況は中立へと戻る。

「……全く、難儀なもんだなお前も。」

稲本は笑いながら言う。

「何がだよ。」

「働きたくねえ、厄介ごとに巻き込まれたくねえなんて言ってるくせにこうやって何よりも厄介ごとに巻き込まれてよ。」

「…………どの口が言ってんだか。」

霧崎も、呆れたように口にした。

「お前、何だかんだ俺を守りながら戦ってるだろ?」

「…………」

「お前がこの場で誰よりもアレクシアを助けに行きたい筈で、何だったら俺たちのことなんて見捨ててでも今すぐに行きたい筈だろ?」

「…………」

「そう思ってる癖にここに残ってるから難儀な奴だって言ってるんだろ。馬鹿なの?死ぬの?」

「お前には言われたくねえかなぁ!?」

反論はしたが、今すぐこの場を放ってでも彼女を助けに行きたいのは事実だった。


それでも、失う辛さは知っている。

奪われる辛さも知っている。


誰一人死なせないって、あの日心に決めたのだから。


だから、誰かを助けたいという理由が、誰かを見捨てる理由にならないことも分かっていた。


「ま、お前が何思ってるかは知らねえけどよ……」

霧崎も敵をしっかりとその視界の中心に捉え、

「アレクシアも一緒に、さっさとみんなで焼肉食い行こうぜ?」

レネゲイドの力を全力で解放した。

「ああ、そうだな……!!」

稲本も彼に引き上げれるように己を鼓舞しその刃を構えた……


「ふざけてんじゃねえぞテメェらァ!!!!」

再度熱波を放つバルログ。

熱が彼らの体を蝕み、怯んだ隙にドヴェルグが彼らを追い詰める。

だが稲本は臆すことなくバルログとその刃を交える。

接近戦ならばバルログの方が優勢だと知りながらも尚。

「ドヴェルグ!!今のうちにあのクソ野郎をやれェ!!」

「分かってますよ……!!」

霧崎に迫るドヴェルグ。

だが彼は微動だにしない。


「……稲本ォ!!」

「……ああ!!」

瞬間、二人は笑みを浮かべた。

「何を……!?」

次の瞬間、稲本とバルログの頭上に作られた傘のような、ボウルのような金属上のそれ。

「霧崎、思いっきり全弾ぶっ放せェ!!!!」

「おうよ!!!!」

バルログは危険だと判断し逃げようとした。


だが、足を何かが絡めとっていた。

「この……小細工如きで俺を……!!」

それを溶断するバルログ。

必死に距離を取ろうとしたが、時すでに遅し。

「足が止まった時点で、お前の負けだ……バルログ!!」

霧先の弾丸は全て放たれた。

彼らの頭上の、金属に向けて。



パラボラ、というものを聞いたことがあるだろうか。

それはアンテナなどに用いられる構造であり、電波や音などを一点に集める構造である。


霧崎の扱うハヌマーンの音の弾丸、それは一つ一つの威力は高いが散弾や掃射としての意味合いが強く、熟練の一人の敵に当てるのは途轍も無く困難なものである。


だが、仮にそれを一点に集中することができれば?

もしその全てが、一人の人間に叩きつけることができれば?


「っ……ぐおぉぉぉ!?」

「バルログ!?」

「っしゃあ!!!!」

それぞれの弾が互いに威力を強め合い、装甲すらも貫通する最強の一撃へと変化したのだ。

音の嵐に飲み込まれたバルログ。

それでも彼は倒れる事なく、燃える闘志を糧に稲本に突っ込んできた。


「俺は……あんたを殺す……!!」

「悪いな、こんなダメな隊長で……だが————、」

刀を抜き、構えるは必殺の一撃。

灼熱を宿した爪と白き刃が今交錯する。


そして———、

「隊長ォォォォォっ!!!!」

「終わりだ……!!!!」

ぶつかり合った二つの一撃。

白き刃は赤爪を砕き、黒き装甲に迫った。

「————ガッ……!!」

「暁…………!!」

そして吹き飛ばされたバルログの身体。

その体躯は地を転がり、今その意識を失い倒れた。


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