断章

カラス

カラス


正義

意味:人の道にかなっていて正しいこと。


ヒーロー

意味:敬慕の的となる人物。英雄。


辞書にはこのように記されている。

そうであれば俺は決して正義の味方などではない。

英雄ならばあながち間違いではないかもしれない。人間、戦時中であれば100人殺せば英雄ともてはやされるのであるから。

どちらにせよ俺は人の道を外した外道だ。



黒服を身に纏い、黒いフェイスハイダー越しに遠くのビルを眺める一人の青年。

「お、任務直前だったのに彼女のことでも考えてんのか稲本。」

「うるせえ芝崎。何も考えてないお前とは違うんだよ。」

「二人とも、敵に聞かれたらどうするんですか。僕は死ぬのはごめんですからね。」

稲本の背後から現れる二人の青年。

「変わんねえだろ、どうせ皆殺しにするんだから。」

『ったく、僕みたいに作戦を考える人間のことも考えてくれよね。』

通信機に届く声。

若い青年の声である。

「うっせーよ陽一。お前の作戦なんて大したもんじゃねえだろ?」

『君たちは何度も僕の作戦に助けられてきたんだよ?それでも大したものじゃないと言うのかい?』

「あ?だったらテメエの作戦なんざ要らねえよ。」

険悪な雰囲気になる二人。

「揉めるな、任務開始5分前だぞ。」

「ハイハイ、分かりましたよ隊長。」

静止する稲本によって喧嘩をやめる二人。


「これよりFHの研究セル、『ファータイルプラント』に対し攻撃を仕掛ける。俺たちの雇い主はこの研究施設の存在が公になる事を快く思ってないようだ。」

「長ったらしいのは良いからよ。さっさと言えよ隊長。」

『全て破壊、全員殺せ、でいいかな?』

「……ああ。」

「了解でーす、隊長。」

稲本は少し不服そうに頷く。

谷口はそれに対して気だるそうに乗り物を作り上げる。

ヘリコプターだ。

彼らはそれに乗り込み、それぞれの武器を手にする。

「じゃあ、行きますよ。」

そして谷口が操縦桿を動かすと共にそれは急加速し、一気に目標のビル前へとたどり着く。

そして彼がトリガーを引くと同時にばら撒かれる無数の弾丸。

弾丸は窓ガラスを砕き貫き、次々と無抵抗の人間を殺していった。


名前「谷口 宗介(たにぐち そうすけ)」

年齢「18歳」

コードネーム「ドヴェルグ」

罪状「親殺し」

彼は優秀なチルドレンであった。

だが有り余るレネゲイドの力を暴走させた結果、彼の育ての親二人は死に至ったのである。


「さあ、さっさと終わらせちゃってくださいよ。」

『二人とも、まずは窓際に出てきた戦闘員を仕留めたほうがいいよ。』

通信機に届く声、

「うるせえんだよ!!」

「行くぞ…!!」


名前「鈴鳴 陽一(すずなり よういち)」

年齢「20歳」

コードネーム「スタッフ」

罪状「謀殺」

彼は優秀な参謀であった。一度たりとも戦況を見誤ることなどなく、多くのエージェントの生還させてきた。

だがそんな彼が指揮していたある任務、全てのエージェントが死んだのだ。

それも、敵と示し合わせたように。

故に謀殺と認定され、彼は今ここにいる。


「死ねよオラァっ!!」

炎を纏いし爪で敵を切り裂く芝崎。

「もっと強え奴出てこいよ……そして俺に殺させろ!!!!」

「落ち着け芝崎。俺たちが狙うべきはセルリーダーと施設だ!!」

「分かってんだよ隊長!!」

芝崎は荒々しいその様子とは対極的に、冷静に、的確に次々と敵を屠っていく。


名前「芝崎 龍朗(しばさき たつろう)」

年齢「22歳」

コードネーム「バルログ」

罪状「同僚殺し」

彼は優秀な戦闘エージェントであり、陽気で社交的であるが、戦闘中は人が変わったように好戦的になる。

そして戦闘訓練中に昂りすぎた結果、訓練相手のエージェントを殺害し今に至る。


そして彼は、今セルリーダーを射程に捉えていた。

「っくしょうてめええええ!!!」

「……暁。」

敵の攻撃を避け、一瞬の一撃を叩き込む稲本。

「こちらゼロ。目標を排除。」


名前「稲本 作一(いなもと さくいち)」

年齢「21歳」

コードネーム「ゼロ」

罪状「上官殺し」

俺は、ある人を助けたいという思いから特務部隊を抜け逃げようとした。

そしてその最中、親代りだったH市支部長を殺害した。


「任務完了。"レイヴン隊"、帰投するぞ。」

そう、俺たちは何かしらの罪を背負ったロクでなしで作られた、ゴミ溜めに生きるカラスの群れだ。

そして俺たちは全てを喰らい尽くしその場を離れた。



戦いを終えた彼らは再びビルの上で一息つく。

「なあ稲本、殺し足りねえから相手してくれねえか?」

「悪いが議員への報告があるからな。」

「さっさと帰りますよ芝崎さん。僕ら明日も授業があるんですから。」

「ちぇーっ。稲本と戦うの楽しみにしてたのによーっと。」

『戦いたいのであれば後日にしましょうよ。僕は後処理とかめんどくさいんで。』

通信機は全て回線が閉じられ、彼らはそれぞれの場所へと戻っていく。


そして彼はケータイを開き、一人に電話をかける。

「議員、任務は完了。ファータイルプラントに関する情報も人間も何もかも抹消しました。」

『そうかい、よくやってくれた稲本君。』

彼が電話をするのはUGN本部中枢の評議員、"アッシュ・レドリック"議員である。

黒い噂が絶えない、オーヴァードの存在を公にし権利を勝ち取ろうとする改革派の議員の一人である。

「いい加減、俺を自由にしてはくれないのか?」

『別に君が抜けたいなら構わないよ。ただ君が抜けるということは君の過去が世間に暴かれ、そして君の大切な日常である"アレクシア・リリー・ヴェッツェル"が研究対象になってしまうかもしれないね。』

「……やめろ。」

『彼女は一度死に、レネゲイドビーングに支配されながらも自我を取り戻し、平穏な日常を送っているらしいじゃないか。さぞ、研究員達は興味を――』

「やめろ!!あんたに従えばいいんだろ……」

彼は諦めたように声を放つ。

『そうだ、君は私に従っていればいい。それが君の日常を守る方法だ。』

電話は切られる。

稲本はケータイを叩きつけ足で踏み潰した。



2:04

彼はバイクで家へと帰る。

自室のドアを開こうとした。

「稲本さん…?」

その時、眠たげに目をこするアレクシアの姿に目が留まった。

「……アレクシア、何でこんな時間に?」

「バイクの音が聞こえたので、帰ってきたのかなって思って……」

「起こしちまったか……ごめんな。」

彼はアレクシアの頭を撫でる。

それと同時に彼女は稲本の体に腕を巻いた。

「アレクシア…?」

「こうさせてください。稲本さん、疲れてるみたいなので……。ハグってストレスの1/3を解消してくれるみたいですよ?」

「ありがとう。1/3どころか全部吹っ飛んだよ。」

稲本は彼女を強く抱きしめると彼女を離す。

もっともこれ以上続けていたら理性が飛んでいたからというのが理由だが。

「おやすみアレクシア。」

「はい、おやすみなさい稲本さん。」

稲本は彼女と別れると部屋に入り布団に倒れるように寝込んだ。


いつか自分は自由になることができるのだろうか。

俺という真っ黒に染まったカラスは、いつか彼女と大空を羽ばたくことを許されるのだろうか。


そんな思いも、虚の中へと消えていく……


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月昇る蒼き空の下で 芋メガネ @imo_megane

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