第5話 世界ヨ正シク在レ

 地面に埋まってしまっていたので正面からは運転席に行けない。仕方なく、一番運転席に近い所の扉をこじ開けると恐る恐る中に立ち入る。


 電車の中は案外普通の様子だった。一時的に機能が止まっているのか、何か襲ってくる様子はないが……


 ゴクリと俺は唾を飲みこんだ。


 気を抜いたところをグサリと……という事もあり得るだろう。とりあえず、こんな所はさっさと出てしまおう。例の人形は――運転席にあるんだったな。


 それにしても普通の列車だ。さっきまでよく分からない言葉を発していたからてっきり、おかしな仕掛けの一つや二つ……いや、もっとあると思っていたのだけれども。


「ねぇ、何で私だけこんな目に遭わないといけないの?」


 声?


 若い女性の声。聞こえた気がしたが、周囲には誰もいない。やはり何かありそうだ。すがるように刀を前に出しながら、一歩ずつ慎重に足を運ぶ。


「助けてよ……私を助けてよ」


 助ける? 一体何を? ダメだ、耳を貸したら。今度は何が起こるか……。


 さっさと進んで運転席の前まで来る。地面に入り暗くなった車内——でも、何故だろう。俺はこの電車をよく知っている気がする。暗い中、何の迷いもなく運転席への扉を開くと人形の前に立つ。


 ……あとは人形をこの刀で壊すだけ。


 そんな事を考えていた時。ピカッと頭にある絵が浮かんだ。

 何気ない日常——この電車に乗って通学している自分の姿だった。


「……何だ、今のは?」


 しかし、人形も電車も動く様子はない。何かの間違いだろうか。それとも……まぁ、いい壊すぞ。


 刀を逆手に持ち変えて、人形に向かって一突き刺した。思ったよりも簡単にそれは貫かれると、それは力なく地面に横たわった。それにしても、これで終わりか。案外拍子抜けである。


 まぁ、これも全部あの二人がやってくれたお礼だけれども……。


「そうだ! 「7」さんが!」


 運転席から離れると、私は元来た道を戻っていった。


 * * *


 修理は外では出来ないという訳で、「7」と「31」の住み処に招待された。住み処と言っても、半分崩れかかった家を補強しただけの、雑な作りだが。


 下半身が丸々潰されて壊れた「7」を十分ほど、「31」は観察する。しばらくして、一度頷いた。

「どう? 治りそう?」

「肯定――頭部の記憶メモリーには損害がないため、現在は完璧にというわけにはいかないが」

「部品が足りないって事?」

「肯定――よって、代替措置として、代わりの身体を用意した」


 そう言って取り出したのは紫の球体の……ボールか? これは?


「これが代わりの身体?」

「肯定——スピーカーと言われるもの。カメラも取り付けている為、私達の姿も見えるはず。残念ながら移動には他の助けがいるが」


カチッとそれのスイッチを入れると、ピカピカと光る。


「……ここは?」


 スピーカーから流れる声は間違いなく「7」の声だった。

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