第29話 とあるお方とご対面(AVG編)

『きゃあー、遅刻しちゃうわ!』


 どこからか聞こえる可愛らしい声とは裏腹に、ドタバタと豪快な足音が彼方かなたから響いてくる。


 私は朝日の眩しい青空の下、制服姿でとある歩道に突っ立っていた。


 だけど少し気になる点が一つ。

 何で私は男子の制服を着ているのかな?


 まあ、いいや。

 考えたって進まない。

 とりあえず学校に向かって歩こう。


 ──ふと、先の道が右向きの曲がり角になっていることに気づき、私がその角を曲がると……。

 

「……きゃっ!?」


 なぜか、食パンを口にくわえた女子生徒と思いっきりぶつかった。


「イタタ。もう、どこ見てるのよ、あなた痛いじゃないですか!」

「ご、ごめんなさい……」


 私は立ち上がり、服についた汚れをはたく。 


 自分からぶつかってきて何なのよ、この少女は……。


 ──それから私は彼女を深々と観察する。


 年齢は高校生くらいでピンクの長い髪型に、なぜか瞳の色はピンク。 


 頭はウィッグで瞳はカラコンかな? 


 それからやたらと大きな瞳に、あるかないか分からない点のような小さな鼻。


 さらに胸がやたらと大きい。

 今にも制服のボタンがはち切れそう。


 しかも真正面以外の体つきは紙みたいにペラペラときたものだ。


「一体、何なのよ。この少女は?」

『──英子えいこちゃん、それにはワシがお答えするぞい』

 

 突然、私の頭の中で響くおじさんの声。


 もうお馴染みの誰だっけ? 

 だったかな?

 

『違うわい、ワシはじゃ。いい加減名前を覚えよ』


 ということは、ここは私の夢の中で、またゲームの世界なのね。


 今回はホラーゲーム? 


 枯れた井戸から出てきた目玉ギョロギョロの少女が食パンの枚数を一枚、二枚と数えて……。


『そんなキテレツな内容じゃないわい。今回はワシが一番作るのを得意とする、オリジナルの二次元キャラによる、恋愛アドベンチャーゲームじゃ』

「恋愛、誰と?」

『じゃからお主の目の前にいるそのむすめじゃ』


 いや、無理無理。


 こんな輪郭りんかくがちんちくりんな化け物染みた相手を好きになるなんて。


『英子ちゃん、彼女は化け物じゃないぞい、ワシが丹精たんせいこめて作った美少女ゲームのキャラクターの一人じゃ』


 えっ、美少女? 

 とあるお方さんのセンスがよく分からないよ。


 あの……。

 下手な刀も数打ちゃあたるの、刀鍛冶の間違いじゃないの?


『まあ、色々と体験してみたら分かる。ワシも初めはそうじゃったからな。

──では、この世界を存分に楽しみたまえ、アデュー!』


****


 私はおじさんの声が消えた後、再度、転んだままの彼女を見てみると、私の目の前に横長の選択肢が出てきた。


→名前を聞く

 助ける

 逃げる


 ……何、この選択肢。

 下手すればストーカーじゃん。


 初対面で正面衝突して名前を聞いたり、転んだ彼女の手を掴み、助けたり……。


 だったら逃げるしかないじゃん。


「見ず知らずの娘さん、本当、すみません」

「あっ……待ってよ!」


 これでいい。

 女の私に妄想爆発な美少女ゲームとやらをプレイさせる方がおかしい。


 すると、後ろにいた彼女が突然、体を震わせ、あのペリカンに怪獣化して私に問いかける。


「アナタ逃げたからワタシの恋愛度は最低限まで下がったわ。よってワタシ自身がアナタを処刑しょけいするから」

「はあ、意味が分からないですよ?」

「ワタシは恋愛によって人の姿をしていましたが、アナタへの信頼度が下がると怪物になり、アナタの敵になるのですわ」

「あの、怪物ごっこなら他所よそでして下さい」

「ああ、またひどいこと言ったわね!」


 鳥獣化した彼女=ペリカンが口から大量の炎を吐く。


 私はその炎を避けるのに精一杯だ。 


 これ、アクションゲームだよね。

 ゲームのジャンル間違えてるよね?


 すると、そんな困惑している私の前に新たな選択肢が出現する。


→そのまま抱きしめる

 攻撃を食らいながら説得する

 逃げる


 あの、あんな怪物をハグしたり、あんな炎の攻撃を受けたら私の身がいくつあっても持たないんですが……。


 やっぱり、これは逃げるしかないよね。


「ああ、また逃げたな! 待ちやがれ!」


 例のキャラが男勝おとこまさりな乱暴な喋り方で、素早く回り込み、私の前にドシンと立ち往生おうじょうする。


 しまった。

 退路を塞がれたよ!


「ふふふっ、観念しなさい」


 →キスをする

 逃げる


「ええい、まあよ!」


 私はその怪物の顔に迫り、彼女のクチバシに口づける。


「なななっ!?」


 頭から湯気が出そうなほど顔を赤らめて、人らしき姿に戻る彼女の体。


「あわわ、私の初めてが……今日出会ったばかりの男性に……!?」

「いいえ、私は女ですよ」

「なっ、なんだとー!?」


 明かされる事実にもだえ苦しむ女性。


「何かこの歳までときめきがなかった本当の理由は、実はワタシはノーマルではなかったのが原因か……」

「まあ、ここはゲームの中だからそう悩まなくてもいいですよ。私も初めてでしたから」

「じゃあ、続きを……」

「いい加減にしなさい、エロの化身」

「ワタシ、エロじゃないよ?」


 ああ、こうやってこのゲームもエロく染まっていくのですね……。


 そうそう。

 それがギャルゲーの神秘だから。


「……ちょっと勝手に私の思考に入り込まないでもらえますか?」

「いいじゃん、口づけを交わしたラブラブカップルだから」

「だからこのゲームの中だけですからね!」

「別に照れなくてもいいじゃん♪」

「違います、勘違いしないで下さい。とにかく私とあなたはゲームの中だけの関係です。よろしいでしょうか!」

「だったら今から関係を深めよ♪」

「ここで脱がないで下さい!」


 危ない、せっかくの健全なゲームが私の手によって、エロく染まるかも知れなかった。


 この少女、以外とあなどれないよ。


 しかし、いつまでも少女のままだったららちがあかないよね。


「あの、ところで1つ伺いたいことがあるのですが?」

「何なりと♪」

「あなたのお名前は?」


「あっ、はい。ペリ・カン子です」

「ペリカン?」

「はい、いい名前でしょ♪」


 ちょっと、とあるお方さん、キャラクターの名前設定とかも過ぎるんですけど!?


『まあ、ワシが居眠りしながら制作したゲームじゃからの』

「寝ながら作らないで下さい!」

『でも英子ちゃん、人間寝ないと倒れるぞい』

「そんな時は、まずは寝てください!」


 ああ、願わくば、このゲームが私の夢の中だけでリアルでは生まれませんように……。



第29話、おしまい。









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