第28話 お正月の初詣

 ──西暦2100年。


 人間と異星人との戦いが終息しゅうそくし、ながらく続いた30年に渡る地球戦争もようやく終わりを迎えた。


 異星人との激戦で世界は崩壊し、唯一残った日本列島さえもバラバラの孤島となり、大地は荒れ果て、足も踏み入れられなかった人類は『富士』という孤島を中心に『神社』という楽園を設立した。


 人々はそこの『神社』に強力な結界を張り、ようやく安楽の土地を手にしたのだ。


 僕の名は蛭矢えびや

 この富士の大陸の創造主であり……。


「ちょっとストップ!」

「何だよ、英子えいこちゃん。ここからが僕の見せ場なのにさ?」

「……わけの分からないナレーションを入れないでもらえますか。みんな混乱しています」

「いやはや、参ったな。これから僕の新作小説がこの世に公開されるのに?」

「だからと言って私たちの世界を引っかき回さないで下さい」

「ちぇっ、メジャーデビューのチャンスだったのに」

「公募の宣伝なら他所でやって下さい」

「PayPay」

「それも他所よそでやって下さい……」


****


「ねえ、蛭矢との戦いは終わったの?」


 私たち二人から離れて遊んでいた美伊南びいなちゃんが神社の鳥居の影から姿を現して私におずおずと尋ねてくる。


「はい。もう難しい戦争ごっことはさよならですよ。美伊南ちゃん、何もかも忘れて目一杯はしゃいでいいですよ」

「ヤター♪」


 美伊南ちゃんが神社の境内に向かって無邪気に駆け回っていく。


 ごめんね、美伊南ちゃん。

 息苦しい思いをさせて無理させちゃったね。


「だが、神社ではしゃぐのもどうかと?」

大瀬おおせ君、それ以上喋ったらあなたの首が飛びますよ」

 

 私は目を光らせ、キルユーと首を刈る仕草をする。


「……こわっ、いつもの英子のキャラじゃない!?」

「私だって血の通った人間ですよ。怒りもしますよ」


 そう、今回は美伊南ちゃんに罪はないんだよ。


 分かってくれると嬉しいけどね。


「──まあ、そりゃそうだ」

「その首謀者が、何、何事もなかったかのように納得しているのですか!」

「ははっ、ごめん」


 蛭矢君が笑いながら逃げていく。


「さあ、妖精さんたち。首謀者である僕を捕まえられるかな?」


 蛭矢君がアル○スの少年のように、アハハとルンルン気分で私たちの周りを駆け回る。


 この人は私たちを挑発して、一体何がしたいんだろうね。

 

 ああ、そんなことよりお参りしないと。

 

 私たちは悪ふざけな妄想ごっこではなく、そのために初詣に来たんだから……。


****

 

 さて、お賽銭さいせんを投げてと……?


「……うんっ? 美伊南ちゃん、それ何ですか?」

「何ってキュウリの輪切りだよ」

「……ここは動物園じゃないんですよ。食べ物は投げたら駄目です」

「だって、蛭矢が、この神社には河童かっぱを奉っているから、お賽銭より好物なキュウリあげた方が喜ぶって……」


 ふと問題の人物を見返すと、下手な口笛を吹きながらうわの空な蛭矢君……。


「……蛭矢君、純粋無垢な美伊南ちゃんに嘘を教えないで下さい!」

「ゆるちて、ごめんご♪」

「可愛く言っても駄目です!」


 もう、私は本気で怒ったよ!


『ポカポカポカ!』


「痛てて、英子ちゃん、何で僕だけ殴るんだよ。騙される美伊南にもがあるだろ?」

「なら、ビンタの方がお好みで?」

「いや、もはや英子ちゃんじゃないよね。女の顔を被った鬼だよね?」

「その鬼にさせたのは誰ですか!」

 

『ポカポカポカ!』


「……痛たた、お前ら、見ているだけじゃなくて僕を助けろよな!」


 蛭矢君が私の攻撃でボロボロになりながらも遠くにいる二人に何か叫んでいる。


「……時に仲良く、時に修羅しゅらのごとく。

──美伊南、あれが本当の夫婦の生きざまと言うんだよ」

「ふーん。夫婦生活も大変だね」

「そう。もはや、あれは二人だけの問題であり、俺たち一般人が手を出す状況じゃないのさ」

「なるほどね」


 ふんぬと腕を組みながらコクコクと頷き、顔を見合わせ、お互い納得する二人。


「おい、お前ら! 勝手に解釈して納得するなよな! 

……あ、痛たた、だから、ちょっと本気でボコるなよ。英子ちゃん、流血試合になるってばっ!?」


 もう、蛭矢君なんて知りません……。


****


 さて、今年もみんな揃って素敵な年になりますように……。

 

 そして、無事に四人とも大学受験に合格しますように……。


「英子ちゃん、何をお願いしたのかい?」

「えっ、私はみんなの幸せをお願いしましたよ。そう言う蛭矢君は?」

「ああ、僕は世界中のギャルゲーヒロインとハーレムになる願いをな」

「……あっ、そうですか」


 本当、蛭矢君はゲームが好きだよね。


 たまに、とんちんかんなことを言うからついていけない時があるけど。


「英子。美伊南はね、お金持ちになりたいな」

「素敵ですね。お金持ちになって何がしたいですか?」

「あのね、大きなお家建てて、陣取りゲーム♪」

「はあ?」


「リビングと寝室を含めた各部屋割りを巡ってみんなで争うの。居間サイドとか」

「なるほど、美伊南、冴えてるな。三国志のように領地を巡る戦いか」

「でしょ。大瀬、誉めて♪」


 ……ということは畳の部屋とか、フローリングの部屋とかが強きものによって侵略されちゃうんだよね。


 それに寝室を相手に取られたら寝る場所がないよね。


 最悪の場合、冷たくて堅い廊下の床で寝るのかな……。


「ちなみに勝負する時の武器は何ですか?」

「じゃんけんだよ。勝った相手が負けた相手に対してグーで殴って、パーでビンタで、チョキが目つぶし」

「最後のチョキが凄くえげつないのですが……」


「ああ、下手すると失明するな」

「大瀬君、真顔でそんな怖いことをさらりと言わないでもらえますか!?」


「心配するな。大丈夫、負けなければよい」

「何で蛭矢君も乗り気なんでしょうか?」


「まあ、病はちからと言うからな」

「四人揃ってんでしまうこと前提ですか!?」


 ああ、こんなお馬鹿ばかな仲間たちに囲まれて、新しい一年が始まりますよ……。


 皆さん、今年もよろしくお願いします。



第28話、おしまい。

 

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