第27話 明けましておめでとう

「もうすぐ年が明けるな……」


 蛭矢えびや君が大晦日の闇夜で何か呟いてるよ。


 でも何で部屋を暗くする必要があるのかな。


 別に誕生日ケーキのロウソクの炎を吹き消すわけじゃないよね?


「蛭矢君、どうしてでしょうか?」

「えっ、なぜ暗くする意味があるかって? 迷えるお嬢さん、闇鍋に入れるとしたらどんな具材だい?」

「私は大根ですね」

「ちっちっ、英子えいこちゃん。普通に食べられる食材を入れたら闇鍋にする意味がない。ここでは発想を切り替えて大胆にしてだな……」

「いや、食べれないと鍋の意味がないですよね?」


 しかし、私たち、年越しそばも食べたのに何で鍋なんか囲んでるんだろうね。


 蛭矢君は育ち盛りはお腹が減るもんだとか言ってたけど……。


「もう面倒くさいな。カボチャを丸ごと入れたらいいじゃないか」

大瀬おおせ、それは止めてくれ。僕はアレが苦手なんだ」

「そうだったな。野菜なのに甘いのとかが、どうのこうのだったな」

「ああ、あの異形は人間に対して甘くて優しすぎる。あの食感は人類の歴史に残るし、もし手足が生えたらカボチャ嫌いな人類は滅亡するな」


「ええー。美伊南びいなは好きだけどな。蛭矢、このさいだからこれ克服しちゃいなよ」

「何だ、この肌触りと質感は?」

「これはカボチャだよ♪」

「……なっ、一体どこから持ってきた。その場違いなデカイカボチャは? 

……や、止めろ!?」


****


『ゴーン、ゴーン♪』


 そんなこんなで除夜の鐘が部屋中に響いて年が明けたよ。


「皆さん、明けましておめでとうございます~」

「ひゃっ!」


 ああ、びっくりした。

 

 私が新年の挨拶をして、電気のスイッチをつけたら、蛭矢君が異様な仮面を被りながら歌舞伎の舞を踊っていたから。


 その暴れ狂う姿に大瀬君が近づいて、彼の肩を優しくポムッと叩く。


「蛭矢、なま○げは郷土祭りで歌舞伎じゃないぞ」

「なぬ!? 泣く子はいねーが!」

「お前が号泣してどうする?」

「だって私、わたし……」


「そこで何で私の物まねになるのですか?」

「ちっちっ、違うな。英子ちゃん。僕は君から食べる予定だから」

「えっ、三匹の子豚じゃないんですよ?」

「違うな。三匹の人間だ」


 そこへ美伊南ちゃんが興味深そうに私たちの輪に入ってきたよ。


「なになに、面白そう。妖怪人間ネタ? 美伊南も混ぜてよ♪」

「嫌だ。お前が混ざるとややこしい」


 いや、蛭矢君。

 

 あの、なま○げの踊りの時点で十分にややこしいんだけどね……。


「……まあ、それはそうと、正月だからな。僕からみんなへお年玉をプレゼントしよう」

「わーい。蛭矢、最高ローステーキ♪」


「……とか、言いながら去年はビー玉でしたよね?」

「ふふっ、英子ちゃん。見て驚くなよ。今年は一味違うぜ」


 あの……。

 

 だからもう十分になま○げの格好で驚いているんだけどね。


 もういいから早く着替えてきてくれないかな……。


****


「英子ちゃん、はいどうぞ」


『ペロン!』


 そんな悩みとは裏腹に私の頬に触るお年玉袋。


「えっ、本物?」

 

 私は私服に着替えた蛭矢君から受け取ったお年玉袋の封を開けて、恐る恐るそれを取り出してみる。


「えっ、一万円札?」


 いや、よく見るとゼロが二つ多い。

 これは100万円……。


「……あの、お札の端に小さく、『子供銀行』と書かれていますが?」

「どうだい、正月からビックになった気分は?」

「ビックもなにも、ただの紙切れですよね?」

「英子ちゃん知らないのか。紙のお札は実質二~三円しか金をかけていないんだぜ」

「あの、誤魔化さないでもらえますか?」

「いいじゃん、一瞬だけど気分が高揚こうようしただろ。それにあっち側は好評みたいだぜ」


「──みてみて、大瀬。美伊南、今日から大金持ち♪」

「そりゃ、良かったなあ」


 ──確かに向こうは盛り上がってるみたいだけどね。


「美伊南、これで大きな家を買うんだ♪」

「そうか、じゃあ犬小屋は卒業だな」


 今、とてつもないことを暴露ばくろしたよね!?


「大丈夫だよ。英子ちゃん。最近飼い始めたペットの話だから」

「そ、そうなんですね……」


 私はほっと息をつき、胸元に手を当てる。


「……ところで蛭矢君、美伊南ちゃんが飼っているのは、何の種類のペットですか? 犬小屋だから犬でしょうか?」

「いや、猫だ。イリオモテヤマネコ」

「なっ、天然記念物じゃないですか!?」

「……いや、イリオモテヤマネコに似た猫」

「……紛らわしいですよ!」

「まあ、拾ってきた猫だからな」

「もう、野生がみんなヤマネコとは限りませんよ……」


「にゃおーん?」

「蛭矢君、猫になりきって可愛く誤魔化しても駄目です」

「にゃにゃー、子猫の飯屋さんは~♪」

「だから猫から離れて下さい!」


「……すまん、いつも交通事故で亡くなった猫ばかり供養していたせいか、猫の怨霊おんりょうにとりつかれていた」

「そうですか。お帰りなさい」

「ただいま」

 

 蛭矢君が腕時計を見ながら、私たちの前に踊り出る。


「……さあ、皆の衆、時は満ちた。我ら地上人は天界を求めるがごとく、これから神聖な結界に立ち入ろうとおもんずる」

「まあ、簡単に言うとただの神社参拝で初詣のことだけどな」

「ああー、大瀬。俺が丸一日かかって考え出した台詞をフイにするのか?」

 

 蛭矢君、そんな考えがあったらその知力を受験勉強で発揮できないのかな。


「まあ、何はともあれ、神社へれっツラごう~♪」


 私たちは美伊南ちゃんを先頭に近所の神社へと初詣に向かうことになりましたとさ……。



第27話、おしまい。

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