第6話 プール開き

「夏だ、プールだ、バリバリ泳ぐぞー♪」


 ビーサンを履いた美伊南びいなちゃんが快くピョンと軽快けいかいに飛び跳ねる。


 そう、今週からプール開きになり、今日は学校はおやすみ。


 私たちは近所の市民プールにやって来たよ。


「じゃあ、各自水着に着替えたら30分後にここに集合ね」


 美伊南ちゃんが洗い場にあるシャワーの場所をちょんちょんと差す。


 美伊南ちゃんも中々やるね。


 出入り口の塩素消毒による、体を洗う洗い場の前に集合だなんて。


 これならあの男性陣二人も約束を守って集まってくれるはず。


 特にあの男子たちはすぐにナンパするから注意が必要だからね……。


「へーい、彼女。可愛いですねー!」


 あれ、この声は蛭矢えびや君?

 もう言わんこっちゃない。


「吸い込まれそうな大きな瞳にちょこんと乗った小さな鼻先、そしてその可愛さを強調した金色の長い髪……」


 あれ、ナンパ相手の女性の髪型は栗色のショートなんだけど?


「……願わくば、そのTシャツを脱ぎ捨て僕とデートして下さい!」

 

 蛭矢君、ちょっと正気? 

 いきなり脱げなんて女性相手に何てこと言うのよ!

 立派なセクハラで警察のお縄だよ!?


「だからさ、僕だけの飛鳥あすかちゃんになって下さいよ」

「ちょっと蛭矢君、プールでのナンパやセクハラは禁止ですよ」

「おっ、英子えいこちゃんも僕らの愛を認めてくれるんだ♪」

「違います。さあ、早く更衣室で着替えますよ。

──すみません、えっと、飛鳥さんでしたよね?」


「いや……。あのさあ、あたしはかえでって言うんだけど?」

 

『えっ?』と楓の体に着ていたシャツに目が行く。


 そのシャツに描かれた長い金髪の美少女。

 

 まさか?

 飛鳥ってこのキャラのことなの?


「──なあ、飛鳥ちゃんは可愛いだろ♪」


 滅茶苦茶、恥ずかしいわ。


 ……というか女の子なのにああいう痛いシャツも着るんだね。


 私の情報不足だったよ。


「……本当にすみません、さあ行くよ!」

「ああ、飛鳥ちゃんを僕に、いや嫁にくれよおー!!」

 

 やれやれ、二次元オタクにも困ったものね。


 まあ、ナンパには変わりないか。

 蛭矢君をナンパの現行犯で逮捕します!


****


「さあ、みんなで泳ごうか♪」


 私たち四人みんなで集合し、軽く準備運動をしてプールに浸かる。

 

 それにしても美伊南ちゃんがビキニで来るなんて。


 彼女はスタイルがいいからなあ。 

 

 私なんて中学の頃から、ずっとこのスクール水着だもん。

 どうやったらこのペッタンな洗濯板から卒業出来るんだろう。


 ──というか、やっぱりみんな泳ぎが上手いよね。


 大瀬おおせ君のキレのあるバタフライの動きと、美伊南ちゃんによるセクシーなクロールが男女ともに釘付けにしている。


 また、ちびっ子たちの大歓声により、もの凄い早さでバタ足をする運動音痴な? 蛭矢君もあなどれないよ。


「それに比べて私は……」


 私は、のそのそと手足を動かして、ゆっくりと泳ぎ始める。

 

 ──そんな地味な犬カキは長続きせずに、10メートルくらいでブクブクと沈む……。


 せめて浮き輪くらい持ってくれば良かったかな……。


「……こんな私なんて……」

「いや、諦めないで英子。美伊南が泳ぎを教えるからさ」

「でも私は沈んでばっかりで……」

「だからその潜水せんすいをガチで極めるんじゃん!」


****


 こうして私は美伊南ちゃんから潜水の泳ぎ方を覚え、いつからか市民プールで人気者になった。


「よっ、カチカチの冷凍マグロ。今日もクールビューティーな泳ぎを期待してるぜっ!」

「よっ、魚の女王マグロ、マグロ!」


 むさい筋肉質な男衆に囲まれて熱い声援を浴びる私。


「ひゅー、英子やるじゃん。人気者は辛いね!」


 何か私が思っていたのと違うような気がするけど……?



第6話、おしまい。

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