第26話 テメエこのクソ野郎が‼
直接的なものではない。声をかけられただけ。
思わず互いに手が止まる。
剛己の拳は眼前に。
誡斗の銃口は心臓に向けている。
相打ちを防いだ乱入者はこの場におらず、ただセットされたモニターから眼鏡を掛けた男がこちらを見ていた。
……あの野郎、どこかで……?
『私は久米晶。スペシャルスタッフの社長を務めており、そこの粗忽者の兄だ』
思い出した。あの鬱陶しいCMに出ていた顔だ。
てっきり従業員の誰かかと思っていたが、どうやら社長自ら出演していたらしい。
「おいおいアニキぃ、せっかく良いところだってのに邪魔するなよ」
『貴様が無様な姿を晒す前に手助けしてやろうというのだ。こんなガキ一人殺すのにどれだけ時間をかけている』
「そりゃアニキがこいつの強さを視野に入れてねえからだよ。ガキはガキでも伊達に異形狩りと呼ばれちゃいねえ」
『はっ。ドーピングしているくせにミュータントが人間に苦戦するのか。情けない。いつから我が愚弟は雑魚に成り下がったのだ?』
「あ? その雑魚がいなけちゃまともに金稼ぎも出来ねえモヤシが言うじゃねえか」
剛己の言葉から察してはいたが、予想以上に仲が悪いようだ。
視線と殺意こそ誡斗から外さないが、兄への敵意も欠かさない。
兄も兄で弟へ文句を言いに現れたとしても不思議ではない罵詈雑言だ。
『口の減らない脳筋め……まあいい。貴様に余計な時間を使っている暇はない。私は忙しいのだ』
「だったら邪魔せず仕事してくれよ、社長様?」
『黙れ。コホン……黒川誡斗君。まずはよくここまで来てくれた、と言っておこう』
やはりこっちに用事か。
今のやり取りで弟とコミュニケーションを取りたかったわけではないのは分かっていたが、いったい何の要件だろうか。
「悪いが後にしてくれないか? テメエの弟を地獄に送ったら手土産の鉛弾プレゼントしに行くからよ」
『ククク……これを見ても同じ台詞が吐けるかな?』
カメラが動き、晶の姿が消える。
「なんだその三流映画の悪党みてえな笑いかた、は……」
次に映ったのは
「花莉奈……⁉」
拘束され、床に座った幼馴染の姿だった。
『ごめん、誡斗……』
「なんで……」
『君のことは調べさせてもらったよ。孤児院を破壊したミュータントを探す為に異形狩りをやっているんだって? ご苦労なことじゃないか』
嗤い声がカメラの外側から聞こえる。
『けど関心しないな。恨みを買っている自覚はあるのだろう? こんな可愛いガールフレンドを放っておくなんて、襲ってくれと言っているようなものではないか』
「テメエ……‼」
『君が悪いのだよ。昔から復讐は良くないと言われているではないか。仇討ちなんて忘れて、二人で仲良く喫茶店を営んでいれば幸せに暮らせたものを』
――巻き込まない為に黙っていたのに。
伝えていれば逃げられていただろうか。……いいや、花莉奈は戦い方も逃げ方も知らない。
自分が狙われた時点で遅かれ早かれ起きたことだ。それに気付かなかった自分のせいだ。
『言わなくても分かるだろうが……抵抗すれば彼女を殺す。分かったかね?』
悔しくて悔しくてブチ殺してやりたくて……だけどもう引き金は引けない。
強く拳を握りしめ、爪が食い込み血が零れる。
『さ、無能な弟の為に舞台は整えてやったぞ。とっととそのガキを始末したまえ』
『やめて!』
『黙れ』
花莉奈の顔が蹴り飛ばされる。
「花莉奈⁉ テメエこのクソ野郎が‼」
『好きに言いたまえ。それが君の断末魔になるのだからな』
「やれやれ、気が進まねえな」
眼前に迫った凶器が引いたと思ったら、軽い仕草で銃を叩き落とす。
軽いのは、あくまで動作だ。手に当たった瞬間、コンクリートで殴られたような痛みが走る。
それを受けながらも、睨むしか出来ない。
「俺はこんなやり方好きじゃねえが、アニキは悪趣味でな。悪く思うなよ」
これ見よがしに、拳を振り上げ見せつける。
「ま、楽にしてな。そうすりゃ苦しまずに済むからよ」
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