第27話 必要な人間なんです!
「これでようやく一段落か」
モニターには愚弟が異形狩りを殴り飛ばす姿がはっきりと映っていた。
激しい破壊音を響かせながら壁に激突した誡斗は、埋まったままピクリとも動かない。
その光景に満足げに鼻を鳴らす。
とある薬を投与して以降、剛己の能力は飛躍的に向上した。九ミリを数発防ぐのがやっとだった硬化能力は、見ての通りマグナム弾ですら多少のダメージで済ませる。その他身体能力も上がり、都内に剛己以上のミュータントは存在しないと、毛嫌いしながらも認めざるを得ない。
その一撃を生身で受けて無事でいた者はいない。
四肢が折れ曲がり、身体が潰れた死体もある。そういう意味では五体が無事なのは珍しい。もっとも、壁に埋まった部分がどうかは分からないが。
とにかくこれで異形狩りの看板もおしまいだ。
「……ん?」
ふと、映像の中で何かが動いた。
瓦礫か? と思って無視しようにもどこか違和感がある。
誡斗の周りの壁が細かい欠片となって落ちる。それだけ――いや違う。
だんっ! という音が聞こえた気がした。
映像の中の誡斗が、自らの手を壁に押し付けたのだ。
「ちっ……まだ生きているのか」
誡斗は死にかけの芋虫みたいにモゾモゾと壁から離れ、その場に崩れた。
だが事切れはおらず、どうにか立ち上がろうともがいている。
「おい、無抵抗のガキ一人殺せないのか貴様は」
『うるせえ。ったくなんで死なねえんだコイツ』
剛己が近づき、蹴りを食らわす。
サッカーボールのように跳ねた誡斗は、それでも動きを止めなかった。
血だらけだ。吐血もしている。内臓や骨だって潰れているはずだ。
大方、剛己がわざと時間をかけているのだろう。晶を苛立たせる為の単なる嫌がらせだ。
「なんで? どうしてこんなことするんですか?」
こんなもの見続けても面白くないし、シャワーでも浴びて寝ようかと考えていると、声がかかる。
花莉奈、とかいう異形狩りの女だ。
彼女は顔面蒼白になりながら晶に問う。
これで抵抗しているつもりなのか? あまりの可愛らしさに思わずにやける。
「彼がいけないんだよ。ただの便利屋程度ならまだしも、異形狩りなんて大層な名前でいい気になって、私の仕事の邪魔をする。今年だけでも彼のせいで十件も契約を切られてしまった。はっきり言って迷惑だ」
「そんなことで……」
「そんなこと? 私が雇うことで救われるミュータントが大勢いるのだよ。考えてもみたまえ。彼はミュータントとなれば見境なく噛み付く狂犬だ。今やミュータントとの共存は不可欠。事実、過去に恐れられ嫌われていたミュータントを使った私の商売は年々業績を上げている。人類もミュータントを必要としているのだよ。にも関わらず未だにミュータントを排斥する動きはある。であれば、彼らを救ってやっている私と、殺す彼。どちらが社会的に有意義な存在かは一目瞭然ではないかね」
現に表の社員達は晶に感謝している。仕事を与えてくれた、ミュータントに理解のある社長だと。
……そうだ。私は上に立つべき人間なのだ。
剛己のような暴力装置なんかより、誡斗のような見境のない殺人鬼なんかより、世に必要とされている。
「……貴方の言うことも、一理あるかもしれません」
「ふふふ、理解してくれたかね」
「でも、貴方がしていることはミュータントを利用した犯罪です! 業績だって、悪い事をして上げてるだけじゃないですか。ミュータントを使った? 救ってやっている? とてもミュータントの為を考えた言葉じゃありません。
……貴方はミュータントを支配したいだけじゃないんですか?」
「なんだと……?」
「それに彼は狂犬じゃありません。貴方達のような、悪いことをしているミュータントから人々を救っているだけです。誰かがやらなきゃ誰も助からないから、何もしないで傷付く人を見たくないから! 見た目よりずっと優しくて繊細な人なんです。貴方なんかよりも、ずっと必要な人間なんです!」
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