第24話 そろそろ役立ってもらおうか
スペシャルスタッフが所有するオフィスビルの最上階は久米晶の自宅となっている。
中はとてもビルの一層とは思えぬ豪奢な様相だ。
子供が駆け回れる広いリビングは白で統一され、家具はどれも金の装飾が施されている。
大災害前から残る絵画に一本数十万のワインが並ぶワインセラー、選りすぐりの素材と凄腕の職人が拵えたオーダーメイドのスーツ。腰を据えているソファなど、これだけでサラリーマンの平均年収を超える代物だ。しかも屋上にはプール付き。
カーペットから照明器具まで全てが一級品。
まさしく一般人が金持ちの家と聞いて想像する部屋だ。
晶は赤ワインを口にしながら大型テレビに映る映像を眺める。
映し出されているのは監視カメラの映像。
弟の剛己と邪魔者の異形狩りが戦っている。
戦いに関しては素人だが、少なくとも映像を見る限り互角、いや、やや剛己が優勢か。
――それでは駄目だ。
裏社会、引いてはミュータントを使っている組織にとって異形狩りは邪魔な存在だ。
大金が動くシノギでも被害者が異形狩りに泣きついたらパアとなる。
たかが一人の人間。そう侮った輩は地獄か刑務所にブチ込まれた。
警察であれば金を握らせるだけで何とかなる。しかし異形狩りは金を受け取らな い。ミュータントを憎んでいる故に金では解決出来ないのだ。
その被害は我が社にも及んでいる。早急に対策――異形狩りを消さねばならない。
しかし罠は幾度となく回避され、挙句の果てには牙城にまで攻め入られた。
幸い奴は侵入者だ。捕まえようとしたら激しい抵抗に合い、自衛の為に戦闘をしたら殺してしまった。そんな言い訳と少量の金があれば正当防衛で片が付く。
だから、何としてもこの場で殺さねば。
「……どうせなら相打ちになってくれればいいものを」
剛己が晶を嫌っているように、晶も剛己を嫌っている。
暴力的で浅慮で自己中心的。自分が会社を立ち上げてやらねばとっくに刑務所行きだ。
にもかかわらず慎重過ぎて臆病だの上に立っただけで自分をミュータントと勘違いしているだの、感謝どころか罵倒する始末。
体格に性格に異能の有無。同じ親から生まれてどうしてこうも違うのか。遺伝子とは言うほど信用出来ない。
愚弟も異形狩りも大嫌いだ。諸共死ねばいい。
……かといって、欲張って異形狩りを殺せないのもまずい。
あくまで目的は異形狩りの始末。
剛己も実力だけみれば社内最強格だ。代わりを見つけるまでは持っていたい駒ではある。
視線を動かす。
ソファでなく、地べたに座らせた“ゲスト”と目が合う。
怯えた子兎のようだ。何度見てもこの視線はたまらない。
「おい」
「はっ」
部下の一人に呼びかけ、マイクを受け取る。
もう片手のワインは机に置き、リモコンに変える。
「さて、そろそろ君にも役立ってもらおうか」
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