第2話
家に帰ると、意外な事にママは上機嫌でした。
パパがトコに買ったサンダルの値段を聞いて少し無言にはなりましたが、それでも奮発してみんなにホットケーキを焼き、すっかり朝の
早速ママはパパに一つの提案をしました。
「ねえ、一週間だけバイトしないかって話があるんだけど、どうかしら? 総合展示場で
「どうかしらって、うちには1才の赤ちゃんがいるのに無理だろ」
「一週間だけベビーシッターを雇うのよ」
「オイオイ、一体どれだけ高給が稼げるバイトなんだよ! バイトのためにベビーシッターのバイトを雇うなんてさ。あり得ね」
「本当に高給なの。それにね、ベビーシッターって言ってもSNS通じてそういうバイト紹介し合うサイトがあって安くつくのよ。学生とか主婦とか…」
「やめてくれよ、そんなインチキなバイト雇うの。そこまでしてお金稼がないといけないの?」
パパはすっかりあきれて話にならないと思いました。
「だって貯金だってしたいじゃない、将来のために。…もうこのオンボロアパートがイヤなの」
「良い環境じゃないか。昼間はほとんどの住人がアパートにいないから淋しいだろうけど、両隣にも恵まれているし。右隣の家族の女子中学生も左隣の家族の男子高校生も友達多いみたいでみんな
ママは心の中で反対していました。
――あのコ達が!? どう見ても不良よね! 高校生の髪は金髪やピンクだし。うちには3人も子どもがいるのに絶対悪影響よ――
「二部屋向こうのおばあちゃんだって親切じゃん。ヒロキやトコが赤ちゃんの時も育児のアドバイスしてくれたりしてさ」
ママは心の中で首を振っていました。
――あの人絶対ワケアリよね。どう考えても育児経験あるのに誰も訪ねて来る気配ないじゃない――
ママの心を見透かしたようにパパが言いました。
「誰も完ぺきというわけにはいかないよ」
ホットケーキを食べ終わったヒロキはミットとボールを抱え、向かいの公園に行こうとしました。それを目ざとく見つけたトコは追いかけていこうと立ち上がりました。でもすぐには立ち上がれません。ミルクのみ人形のパティをおんぶしていたからです。パティは本物そっくりのブロンドの女の子のミルクのみ人形で重さも値段もそれなりの物。トコが玩具屋で一目惚れして絶対買ってとダダをこねたものでした。
お兄ちゃんはトコがいると面倒なので、急いで外に駆け出そうとしました。でもトコも負けてはいません。お兄ちゃんのボーダーのシャツを何とか
ママはパパに説得を続けていました。
「ねえ、いいでしょ?私はただお金のためだけでなく、少しの間だけでも
「本当に一週間だけなんだな。それに…住まいの事なら来年にはこのアパートを出る約束になってるんだし…」
「ええ、あなたの田舎の実家で同居するのよね。本当は私たち家族だけでこんな家に住みたいんだけどね」
ママは密かにしまっていた広告を食器棚の引き出しから取り出しました。広告には、ヨーロピアンハウスと書かれ、白亜の外国様式の家の写真が一面に
「夢だって分かってるけど、この広告を目に見える場所に飾っていてもいい? 元気が出てくると思うの」
パパは優しくうなずき、ママは広告を冷蔵庫のドアにハートの形のマグネットで留めました。
その時、外からバタンという物音と、うぁーんという
そこには地面に転んでうつ伏して泣いているトコの姿、バラバラにひっくり返っている赤いサンダル、そしておんぶ
「うわぁーん。お兄ちゃんが! お兄ちゃんが行ってしまったよ」
「お兄ちゃんを追いかけようとして転んだのね」
「お兄ちゃんひどい。ねぇパティのケガの手当てをしてちょうだい」
「かすり傷で良かった。優香里、ベビーシッターにはトコの事もしっかり頼んでおくんだぞ」
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