第48話 犯人は・・・
蔵書整理期間最終日、王立パウール図書館に衝撃が走った。司書の1人が警務部によって逮捕されたのだ。司書の名はラウロ・ムナーリ、ベルデス教の信者だった。
事情聴取によると、ラウロは熱心な信者であるが故にベルデス教を信仰しない他宗教信者に対して嫌悪感を抱いていた。特に同じくらいの勢力を持つバンモルト教においては憎むほどになっていたらしい。
その狂信的な信仰心は次第に本にも向けられていく。本がバンモルト教布教の一助になっているかと思うと耐えられなくなっていったラウルは、蔵書整理期間中の忙しさに紛れて処分しようと思いついたと話したという。
「とまあ、ムナーリが話していたのはこんな感じだ」
館長にラウロが自供した事件の顛末を教えてくれたのは、聴取を担当した刑事だった。
「それにしても、本当に取れるとは」
警務部に本と出勤簿を提出した時、最初は突き返されそうになっていた。出勤簿を提出したのは、出勤簿を拇印で押しているからだったのだが、図書館の本というのは職員をはじめいろんな人間が触ることができることから、指紋の取りようがないと思われたのだ。
しかし、館長の説明を聞いて警務部はその二つを証拠として受け取った。
「当館は返却時に本を拭く作業をしてから棚に戻しますからな」
今回焼却炉にあった本が返却されたのが概ね蔵書整理期間に入る直前であり、それから貸出されていない。つまり、本には拭く作業をした人と、本を棚にしまった人、犯人の3人分の指紋が残ることとなる。幸いなことに燃やされた本の中でも本の7割燃え残っていた本があったことから、その本から指紋の採取が可能だと判断された。
ここで重要となるのが出勤簿の写しの存在だ。20人分ある出勤簿にある拇印から絞り出し身辺調査をすることが可能となった。
これらの証拠から捜査の結果、ラウロがバンモルト教の対抗勢力であるベルデス教の熱狂的な信者であることや、蔵書にバンモルト教のものがあることに対する不満をもらしていていたことがわかり任意同行。その後自白をもって公的資産損害罪での逮捕という流れになったのだ。
「それにしても、なぜこうあっさり自白したのでしょう」
指紋を証拠として提示したとしても、他の人も触っている事実は変わらない。それを理由に否認されてしまえばもっと時間がかかっていたはずだ。しかし、彼が連行されて逮捕されたのは連行された当日のこと。あまりにあっさりしすぎていた。
「本人は悪いことをしたと思ってないようだ。聴取で燃やしたことを尋ねても、隠す素振りもなかった。むしろ徳をつんだくらい思っているのだろうな」
まるで褒めて欲しいと言わんばかりに話すラウロのおかげで聴取は非常に捗った。
「いずれにしても指紋がなければ今回逮捕には至らなかっただろう。ラッキーだったな。ま、犯人は捕まっても燃えた本は戻らないが」
「絶版になっていないものは再度購入することになると思います」
「全部購入できるのか?」
「大体は。すでに一冊は絶版になっていましたからそれ以外はできると思います」
「そうか。 さて、俺はこれで失礼する。他にも捜査があるものでな」
「わざわざありがとうございました」
「あ、かかった費用は損害賠償請求しとくといい。裁判所に認められれば、費用があいつ負担になるさ」
刑事を見送って、館長は新たに生まれた懸念に頭を悩ませていた。
「心配なのは、出所後に他の図書館に勤めるかもしれないことだな」
ラウロは自身の思想にそぐわない著書を勝手に排除しようとした。図書館の蔵書を故意に偏らせることは避けなければならない。
1番問題なのは彼が罪悪感を感じていないという点。彼を雇うのは各図書館の采配に任せるところではあるが、そういう経歴がある人物であると知っているのと知らないとでは話が変わる。
館長は急ぎペンを取り手紙をしたためた。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘
「副館長、図書館協会宛にお届けものです」
「ありがとう」
図書館協会の事務局を王立中央図書館に置いているため、図書館協会宛の郵便物はここに届くようになっていた。図書館協会宛の郵便物は全て事務局長であるペンフィールドが目を通していた。ここ最近は支部設立に関する書類が多かったが、その中で明らかに手紙だと思われる封筒を見つけ封をあけた。
手紙の内容を確認して、ペンフィールドは驚きのあまり言葉を失った。手紙にはラウル地方の図書館で職員による焚書が行われたということだった。犯人は反省しておらず、服役後の再犯の可能性が見受けられるため各地方と情報共有を図りたいというものだった。
「理事会で報告するか・・・」
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