第47話 蔵書点検
図書館の業務の中に蔵書整理がある。年の一度、1週間程度閉館して資料の点検を行うのだ。お店で言う棚おろしに近いだろう。この蔵書整理期間があることで、返却処理漏れや本の紛失を発見することができるのだ。その他、曝書という虫食い対策をしたり、管内の模様替えをするなど来館者に見せられない作業をまとめてしている。いずれにしても1週間と長い期間閉館することになるので、できる限り近隣の図書館と被らないように時期を分けていた。
今の時期は王立パウール図書館の蔵書整理期間。職員は手分けして蔵書目録と棚にある本を照らし合わせ確認していく。館内にある本は横線を引き、棚になかった本は今貸出中でないかをチェックする。それでもあぶれる本を今度は新たに
一覧にしていった。
毎年行われるこの作業。今年も大きな問題もなく終了するものと思われていた。ある職員が紛失本一覧の共通点に気づくまでは。
「館長、これはもしや・・・」
「・・・由々しき事態だ」
蔵書整理で紛失本として上がった本は、ある宗教に関する本に集中していた。
この国ではベルデス教とバンモルト教という2つの宗教団体がそれぞれ勢力を持っていた。お互いが平和にそれぞれの神を信じていればいいのだがそうもいかず、ベルデス教とバンモルト教は敵対関係にあった。2年前、バンモルト教の信者がベルデス教の信者を言葉巧みに勧誘し改宗させたことから、敵対関係はより濃厚となった以降、信者の奪い合い合戦が繰り広げられている。
今回紛失していたのはバンモルト教関連のものであり、それは意図的に資料が破棄された可能性が示唆されていた。
「このことは秘密裏に調査を開始する。決して口外しないように。職員の誰にも言わないでくれ」
「承知しました」
副館長は一礼して館長室を退室していった。扉が閉まるのを見て、館長は紛失本の一覧を引き出しにしまい深いため息をついて椅子に倒れ込んだ。
「起こってしまったか」
図書館は現在どちらの宗教の本も所蔵している。どちらかを贔屓してどちらかを置かないということはしない。
しかし、それは信者にとっては快くないだろうことは想像にかたくなかった。加えてここ最近のベルデス教とバンモルト教の確執はより深刻化している。敵対する宗教の本は悪であり、排除しようとする輩が出てもおかしくはない。
「内部犯ではないことを願いたいものだな」
紛失した本は全て最後の履歴が返却処理済みだった。その後貸出されていないとなれば、本は図書館の中で消えた可能性が高い。副館長に職員にも口止めしたのは、職員の中に犯人がいる説が濃厚だと考えた故だった。それでも、職員を信じたいという気持ちもある。
そんな館長のかすかな願いは、青い顔をして駆け込んできた職員によって打ち砕かれた。
「館長!本が、本が!」
「落ち着きなさい。どうしたのだ」
館長室に駆け込んできたのは今年採用となった新人司書だった。焼却炉にゴミを投げ入れようとした時に端の方にあった本らしき燃え残りを見つけたのだ。急いで火かき棒で掻き出したそれは、まさしく図書館の蔵書だった。
「これが見つけた本です。ここしか残ってなかったんですが・・・」
布に包まれた本を受け取り開くと、背表紙だけが残った本の残骸があった。それには禁帯シールが見受けられる。タイトルこそ燃えて見えなくなっていたが、館長はこの特徴ある装丁の本に覚えがあった。
「君、取り出す時にこれの本に触れたかい?」
「焼却炉から出すときは火かき棒で、持ってくるにはその布に包んでいましたので、本には触れませんでした」
「わかった。ありがとう」
「は、はい。失礼します」
新人司書が退室した後館長は紛失本の一覧を引き出しから取り出し、そして見つけた。燃え残りとなってしまったこの本は一覧にある本と合致したのだ。きっと、他にもあるだろう。館長は焼却炉を漁り、端の方にあって燃えなかったのだろういくつか本の残骸を見つけた。わかる限り調べると、こちらも一覧と一致する。
焼却炉は位置的に一般の来館者が入れないところに設置されている。そこでこの本が見つかり、さらには焼かれていたと言うことは内部犯であることはほぼ確定となった。
問題は、誰が犯人なのかということ。
「こんなことはしたくないが・・・」
無惨に燃えた残骸を見て、館長は覚悟を決めたように手のひらを握りしめた。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘
勤務終了後、館長は王都の警務部を訪れていた。ここでは事件の立件捜査を行なっている。今回図書館の本が正式な手続きなく廃棄されたことになり、公的資産損害罪にあたるのだ。そのため、警務部に捜査をしてもらうことにしたのだ。
館長は焼却された本の残骸と出勤簿の写しと一緒に被害届けてを提出した。
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