第46話 思わぬ贈り物
教授によってジョシュとシオドリックに鉄槌が下された翌日、シャルロットはフレドリック教授に呼ばれ教授室を訪ねた。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します。図書館情報学部、司書専攻のシャルロットです」
「よくきたね。まあ、そこにかけてくれ」
壁一面には教育学関連の本がびっしりと並べられた本棚があり、教授のデスクの前には1人がけの椅子が4つ置かれている。そのうちの一つに腰掛けた。
「呼び立ててすまなかった。これを渡そうと思って」
教授はデスクに置かれていた紙袋をシャルロットへと手渡す。中身を見てシャルロットは驚いた。
「これは・・・、教科書とノート?」
「昨日彼らの家にすぐ連絡したんだが、汚してしまった教科書を弁償したいと申し出てくれてね。私がそれを預かったというわけだ」
今回救いだったのはジョシュとシオドリックの両親が常識ある人たちだったということ。本当なら本人に直接謝罪をしたいとまで言っていたのだ。しかし、ここから先はジョシュとシオドリックがどうするかを判断するべきだと判断したフレドリック教授は、教科書の弁償で十分ということで話をつけた。
「心遣いに感謝いたします・・・」
感謝の言葉の割りにシャルロットは嬉しそうではなかった。シャルロットはジョシュたちの振る舞いを受け止めることが自分への罰だと思っていた。このように弁償してもらえるなんて思ってもなかったために素直に喜んでいいのか分からなかった。
そんなシャルロットの様子を見て、フレドリックは気になっていたことを口にした。
「報告ではジョシュやシオドリックの嫌がらせを抵抗もせず受け入れているようだったと聞いている」
「その通りですわ」
「どうして抵抗しなかったか聞いても?」
教授の目的は教科書を渡すことだけでなかった。何故シャルロットが抵抗しなかったのか、報告を聞いてずっと気になっていたのだ。
「私は、過去に過ちをおかしました」
「君の経歴については、私も耳にしている。刑に服していたことも」
特殊な経歴のある生徒については全教授に情報共有されることになっている。シャルロットのことも当然共有されていた。
「はい。私も彼らと同じように人を貶め、傷つけていました。そして今自分が反対の立場にいることは、因果であり罰なのだったのと思ったのです」
「だから、抵抗をしなかった、か」
教授は行動として納得はしたもののの、それを良しとは思わなかった。
「老婆心ながら君に忠告しよう。それは償いではない、自己満足だ」
「自己、満足・・・」
シャルロットは膝に置いていた紙袋をぎゅっと握りしめた。
「君は彼らを貶めていなければ傷つけてもいない。彼らがする行動を受け止める義理はないのだ。君は刑に服すことで償い、そしてそんな君をガーランド先生も許した。だからこそ君はここにいるのだ。自身が持つべき尊厳を見失ってはいけない。いいね」
シャルロットは横面を叩かれたような衝撃を覚えた。過去の行いを責める人は大勢いたが、シャルロットの尊厳を考えてくれる人なんてほとんどいなかったのだ。
フレドリック教授の言葉を頭の中で反芻しながら、気づけば頬には涙が伝っていた。
「す、すみません!私これで失礼いたしますわ!」
乱暴に服の袖で涙を拭くと、ガバリと頭を下げて教授室を飛び出した。
廊下を少しいって、歩みを止める。前から歩いてきたのは、ジョシュとシオドリックだった。
「「「!」」」
お互い立ち止まるも、気まずさからか沈黙の時間が流れる。そんな中たまりかねて口火を切ったのはシオドリックだった。
「す、すまなかった」
それを聞いて、ジョシュも謝罪の言葉を口にする。
「私は怒ってはいませんし、恨みにも思ってません。ですから、もうしないでください」
「わ、わかった」
「もうしない!」
昨日教授室で教授にコッテリしぼられ、やっと解放されたかと思えば同級生の冷たい目線。落ちるのは簡単だが回復するのは容易ではないポイント制度。もう彼らには誰かにちょっかいをかけている余裕はなかった。
そんな事情をシャルロットは知るよしもなかったが、これ以降、ジョシュとシオドリックがシャルロットに絡むことは本当に無くなった。
シャルロットはもらった教科書とノートに書き込み直し、平穏な学生生活を取り戻した。
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