第9話 校長と面談!?

「さて、突然呼び立てて申し訳ないが、少し話を聞かせてもらいたいと思ってね」

「(私何かした⁇⁈)」


 司書たちの質問に答え終わり、新たなパスファインダーを作るため作業に入ろうとしたときのことだ。校長室に行くと言って席を外していた館長が戻ってきたかと思えば校長が呼んでいると楓を連れ戻り、楓はあっという間に校長室のソファに座っていた。


「どのようなことでしょうか」

「君は司書専攻を開設したいと希望しているのだったね」

「はい」


 何かを咎めるために呼ばれたのではないことがわかって安心した反面、いずれは話す機会が欲しいと思っていたもののいきなりそのタイミングがやってくるとは思っていなかった楓は校長向けの回答を用意してなかったことに焦る。


「そのことについて今館長から要望書を受け取ったところなんだが、具体的な部分を含めガーランドさんからも話を聞きたい。この学校にとってどんな利益があると思う」

「利益、ですか」


 頭の中で今までレオンや王立中央図書館の2人と話したことを必死に思い出しながら質問の答えを練った。


「端的に言いますと、収益が増えます。そして、司書のレベルが上がることで教育の質も微力ながら上がります」


 後者は想像していたが、収益が増えると言いきったことに校長は驚いていた。


「収益が増えるとはどう言うことだね」

「まず、司書資格を取る方法を2通り設定します。一つは従来通り試験を受けて入学し4年間のうちに資格を取るもの。こちらは他の学部の科目も取れるようにして、図書館への実習ができるようにします」

「他の学部の科目は現在も取ることができる仕組みではあるものの、基礎科目だけということになっていることは承知しているか」

「はい。むしろ深く知るよりは広く浅くの方が司書にとっては有益だと思うので問題ありません。2つ目は司書の科目だけを取り最短2年で資格を取るというものです。仮に科目等履修生と呼びますが、こちらは他の学部の科目も図書館での実習もできない代わりに学費を安くするんです」


 これで怪訝な顔をするなら、司書専攻を開設する計画は難航する。今のところ校長にその様な様子はないが、利益があるとちゃんと伝えなければならない緊張感から楓の手には汗が滲んでいた。


「学費を安くか・・・」

「そうすることで、4年通うほどの余裕はないけれど安くなった分通うことができる層を誘い込むことができます。セントパンクロス大学校を卒業したというだけで、就職に有利ですから」

「結果的にその分、収益が増えると言うことか」

「はい」


 校長の反応を伺うも、校長は淡々としていてどう思っているのかまでは掴めない。しかし、真剣に話を聞く様子から楓が提示する話を端から否定しているわけではないことは伝わってきた。


「しかし・・・。科目等履修生とやらがこなければ収益は増えないのではないか?」


 校長の疑問はもっともだった。学部を開設しても人が集まらなければ収益は増えない。国内初で開設する学部に応募があるのかは未知数だ。


「その点に関しては私も課題があると思っていて、学校だけでどうにかできるものではありません。その解決作の1つの案としては官職側に協力してもらうと言うことを考えています」

「協力か・・・」


 学校と官職との関係性はかなりドライだ。癒着が起きにくいことを考えれば悪いことではないのだが、それぞれの領分を犯さない分協力するということはない。そのためか、楓のいう協力という言葉がいまいちピンときていないようだった。


「今審議している図書館法において、最低でも1人司書資格を有するものを配置することという一文を入れる予定です。つまり、各図書館から最低でも1人受講しなければならなくなるのです。加えて、最終的には現役の司書は全員取るように働きかけるつもりです」


 図書館法を施行してもそれを理解する人が図書館にいなければ浸透しない。図書館法を現役の職員に素早く広めるためこの一文は必要だった。


「セントパンクロス国内には図書館が20箇所ありますから、確実に同じ人数だけ受講者が見込まれます。しかし、強制的に取らなければならなくなるのに受講料をとるわけにはいきません。そこでその受講料を補助金として学校へ支払い、学生は受講料なしで受講できるようにするのです」


 それだけの受講者がいれば専攻としては十分成立する。しかし、彼らには働いているが故の問題点があった。


「しかし、彼らは平日の講義を受けることが出来ないだろう?」

「集中講義という形が取れればと思っています」


 彼らはすでに現場で働いていることを踏まえると実習の必要はない。となれば、座学だけ受けられればいい。


「1日6限、11回+テスト+解説と言う形で1.5ヶ月ほど最低限必要な座学を受けてもらいます」

「なるほど。それなら可能だろう。しかし、依然として継続して人を集められるかについては課題が残る」

「確かに今のところ一般からどれだけ応募があるかについてはわかりません。こちらも官職の各部署に相談してみないといけないことですが、資格を持つものを優先的に採用する仕組みとかがないと、資格を取るという強みは薄まってしまいますね」


 新たな問題点が見え、ポケットからメモ帳を取り出す。校長に断ってすぐにメモを取った。


「ところで講師に心あたりはあるのか」

「私をはじめ、王立中央図書館の館長副館長にもご助力頂こうと思っています」


 それを聞いて校長は驚いた。官職に報酬を払えないことを当然知っていたからだ。


「官職は副業が禁じられているだろう。君は良くても王立中央図書館の2人は承知してくれるかどうか・・・」

「その点については2人に了承を得ています。受講した生徒の中からさらにOBを含めた経験者を集めていずれは私や中央図書館のお二人とバトンタッチしていこうと考えています。ですので、その間人件費が浮くはずですが・・・、その使い道については学校側にお任せします」


 楓と話しているうち、校長は詐欺の口車に乗せられているような気分になっていた。いくら司書専攻を開設させたいとはいえ、無給で働くことを了承しているなんて普通じゃない。もしやこの子娘の企んだ詐欺なのではないか、そんな疑いが思考を占めた。


「それではこちらばかりがプラスになるが、それで良いのか」

「それもそうですね・・・。代わりと言ってはなんですが、いずれは正式に教授として人材を採用していくことを条件とするのはどうでしょう」


 楓からすれば、うまい思いだけをして後から専門に教える人が出てきた際に前例があるから無給となっては困る。楓や王立中央図書館の2人が教えるのはあくまで教えられる人材ができるまでの間。いつまでもタダ働きをさせるわけにはいかない。


「そんなことで良いのか?」

「はい」

「わかった。司書専攻開設が現実となればの話にはなるが」

「そう言ってもらえると安心です」


 ふと窓に目をやれば外はすっかり暗くなっていた。図書館はもう閉館している時間だ。


「さて、随分と話し込んでしまったか。時間を取らせてすまなかったね」

「いえ、お話しさせていただいてありがとうございました」


 メモ帳をポケットにしまうと、席をたつ。


「今は開設しようと言うことはできないが、もし開設すると言うことになれば今話したことを素にするだろう。ぜひまた話を聞かせてくれ」

「もちろんです。失礼します」


 校長室を出る楓を見送ると、隣の部屋に控えていた秘書に明日以降のスケジュールを確認する。そして、空いている日に新たな用事を入れた。ある人に会うために。

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