第7話 中間結果
バーが声をかけてくれたおかげで、数名の司書が手伝ってくれることになった。それぞれ農学部出身のノエル・グリーンハルシュ、法学部出身のマーティー・キーリー、医学部出身のレックス・ダンヒル、薬学部出身のドン・ナッシュが出身学部のパスファインダーを担当してくれる。残る教育学部は楓が担当して、これですべての学部を一気に取り掛かることが出来る。
工学部の時と同じように教授に要点を教えてもらい、教育学部のパスファインダーを大急ぎで仕上げる。そして、工学部と教育学部の教授にチェックをお願いした。そのレスポンスが返ってくるまでの間に、次のテーマ展示のテーマを探し始める。
そうしてテーマ展示を更新しながらパスファインダーを増やす毎日を繰り返していくうちに、あっという間に1ヶ月たっていた。
「やばい。疲れが抜けない」
楓の疲労はピークに達していた。お昼休憩の時間、楓は机に突っ伏して遠い目をしている。
3ヶ月出向しているとはいえ、時々見に行かないと荒れてしまうのが城内図書館。空いている時間を見つけては、城内図書館に戻りそちらの仕事もしている。そんな生活をしているうちにどんどん疲れが溜まりに溜まっていったのだ。
「ガーランドさん」
流石に業務中にこんなにだらけていたら怒られる!と思った楓。声をかけられた瞬間咄嗟に姿勢を正した。
「すみません!」
先手必勝。謝りながら急いで立ち上がり振り向くと、そこには館長が立っている。しかし、謝りながら立ち上がった楓に、館長は何を謝られたのかわからないと言いたげな表情をしていた。どうやら館長が楓の勤務態度を指摘しにきたと思ったのは早とちりだったようだ。
「あ、いやいや。なんでもないです」
「そう?」
「何かありましたか?」
「いやね、先月の貸出統計が出たんだよ。これから決裁を回すんだが、早く結果を知りたいだろうと思ってね」
図書館では毎月利用者や貸出冊数の増減を前年度同月比と前月比を出し報告書にまとめている。今回の月間利用統計報告書は楓がテーマ展示を始めた期間を含んでいる。館長はその結果を伝えにきたのだ。
「もちろんです」
「これが、今回の報告書だ。コピーだからゆっくり見るといい」
館長は報告書を楓に手渡すと、自身もお昼休憩を取ろうと自席へ戻っていった。
「どれどれ、と」
早速報告書に目を通すと、貸出冊数は前年度同月比7.4ポイント増、前月比6.5ポイント増でどちらも貸出冊数は増えていた。利用者もそれに伴い増加している。
さらに、報告書にはもう一枚添付資料がつけられていた。それは、テーマ展示に使った本の貸出冊数についての表だった。
その添付資料からは当該の資料の前年度同月比及び前月比の貸出回数が18ポイント〜26ポイント増加していた。
「貸出冊数、増加してる・・・」
これは楓が想像している以上の結果だった。裏を返せばこれだけ本借りたいけど借りられていなかった潜在的利用者がいたということになる。そうやって利用者をどんどん巻き込んでいけば、次第にテーマ展示やパスファインダーに載っている本だけでは物足りなくなり、最終的にはもっといろんな本が読みたくなるはずだ。そうなれば司書に声をかけざるおえなくなる日がいずれくる。
そうしていくうちに司書は経験を得て、資料はもっと豊かになり、図書館は成長していく。まるで有機体のように。
「もう一推ししてみようかな」
今回の統計の結果を受けて、楓の頭の中にはもう一つ考えが浮かんでいた。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘
「ん?なんだこれ?」
いつものように課題をこなすため必要な本を探して入った棚で、工学部機械科学専攻の彼は見慣れない光景を見た。司書が返却本を戻す時に使うような小さな可動式の本棚が通路の邪魔にならない場所に何ヵ所も設置されていたのだ。
興味本位で見てみると、その本棚に付けられたポップにはこう書いてあった。
【ウィルコップス教授おすすめ!機械工学の応用がわかる本】
「(ウィルコップス教授のおすすめか・・・)」
青年は数冊手にとってパラパラと捲り見ると、その中の1冊を手に取り棚に入った。
⌘⌘⌘⌘⌘⌘
昼食時の食堂はいつも学生たちで混み合っている。毎日食堂を使う学生はもうだいたい定位置が決まっていた。
「なあなあ、最近図書館行ったか?」
「いや。行っても見たい本なかなか見つかんねえんだよな」
1人は先日図書館を利用した青年。もう1人はその友人だった。2人は専攻こそ違うものの同じ学部で、いつもこの席で待ち合わせ昼食を取っている。
「それが、棚の間に本が置かれててさ。ウィルコップス教授のおすすめ本があったんだ」
「おすすめ本?」
「そ。思わず一冊借りちまったんだが、その本、今出てる課題にドンピシャだったんだよ」
「え⁈」
「お前の専攻の教授のもあったから見るだけ見てみろよ」
「あとで行ってみるわ」
こんないい情報人に聞かれてはいけないと次第にヒソヒソ話になる2人だったが、すでに周りのテーブルの学生に聞かれてしまっていることに気づいていなかった。
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