第6話 協力者

 ウィルコップス教授に教えてもらったあと、建築専攻と化学専攻の教授にも会うことが出来たので、そこで教えてもらった本やポイントを参考に図書館の棚からめぼしい本を何冊か取って目次を確認する。


「こっちは良さそうだけど、こっちはどうかな・・・」


 内容を選分けながら工学部で学べる建築・化学・機械の専攻ごとにパスファインダーに載せる本を6冊づつに絞り、それらをもって事務所内のデスクへ帰った。

 見つけた本を今度はパスファインダー用の紙に書き込んでいく。本のタイトル、著者、出版社、請求記号を記すとその下には本の内容を簡単にまとめた本の紹介をつける。特に教授たちから教えてもらったキーワードに気をつけて書くと、それを清書して最後に協力してくれた教授の名前を監修者として記録する。ただ“図書館の人がまとめました“とするよりも、“教授も関わってできたもの“だと知ってくれた方が手っ取り早く信用してもらえるだろうと考えたのだ。


「あとはチェックしてもらうだけだ・・・」


 出来上がったパスファインダーを天井へ掲げて眺める。教授に聞いていなければもっと時間がかかっていたかと思うと、それだけでげっそりしてしまう。


「(これあと6学部分やるのか)」


 思い出さなければよかった事実を思い出したところで、ちょうどお昼休憩のチャイムが鳴った。


 ⌘⌘⌘⌘⌘⌘


 本を元の棚に戻して再び事務所に戻ると、同じくお昼休憩のためにカウンター対応していたダレル・バーが戻ってきた。

 ちなみにカウンターを無人で開けるわけにはいかないので、人員を半分に分けて交代でお昼休憩を取る。そのため事務所に戻ってきたのは1人だけだ。


「ガーランドさん、パスファインダーとやらはできた?」


 ダレル・バーはテーマ展示を手伝ってくれたうちの1人で、勤続7年の中堅司書だ。新しいことを次々やろうとする楓の動向を面白がっているようだった


「なんとか工学部のものは形になりました。あとは確認作業が終われば完成です」


 出来上がったパスファインダーの試し書きを渡すと、バーは端から端まで眺める。


「へえ・・・。これがパスファインダーかあ」

「これをブラッシュアップして完成にしようと思ってます。パスファインダーって更新し続けることができるので新しい本でより適切な本があれば、変更していくことになります」

「じゃあ、定期的に見直さないといけないね」


 そう。パスファインダーは作って終わりではない。新しい本は随時発刊されている中で、パスファインダーに載せた本の情報が古くなってしまう事もある。そういった本を変更し続ける必要があるのだ。そして、それをするのはこの図書館の職員だ。

 仕事が増えたと思うだろうか。楓にとってはそこが心配で、自然と顔が曇る。


「もし大変になったら、パスファインダー自体を下げてしまっても・・・」

「僕、こういうの好きかもな」

「え?」

「僕は主に選書に携わってるから新しく入った本は大体把握してるしね。まあ、僕がいなくなる時にはガーランドさんがいったように大変なら下げるよう引き継げば良いわけだし」


 そう言ってパスファインダーを楓に戻す。バーは選書入荷担当で、本を選ぶことや実際に入荷したときの本の処理と管理をしている。確かに、そうなれば新しく入る本を把握するのは容易くなる。


「面倒だなとか思いませんでした?」

「別に思わない。こういうの好きかもって言ったでしょ」


 好きかもというバーに、それならと一つ妙案が浮かぶ。それを言えば断られるかもしれないが、承知の上で頼んでみることにした。


「では、他の学科の分手伝ってもらえませんか?」

「いいよ。今はそんなに忙しくないからね」


 僕、仕事早いからと腕を組み威張るバーに、楓は喜びを隠しきれなかった。


「い、いいんですか?」

「チェックするのはいいけど、そもそも作り方知らなかったら意味ないでしょ?」

「それもそうですね。よろしくお願いします」


 思わぬ協力者を得られたおかげで、他の学部のパスファインダーを想定してたよりも早く作ることができそうだ。


「どこか1学部担当してもらおうと思ってるんですが、ちなみに得意な学部とかありますか?」

「んー。学生の時は経済学を専攻してたよ」


 バーはこの学校の卒業生だ。卒業後の進路は図書館になったが、勉強していただけあって経済学に明るい。


「じゃあ1年次に参考にする本も」

「まあ、大体分かるね」

「お願いします!」

「君、工学部専攻じゃなかったんでしょ?どうしてたの?」

「教授にキーワードを教えてもらって、それを参考に作りました」

「え!?」


 バーは楓に一度返した工学部のパスファインダーを奪い取り絶句する。


「流石に何冊か教えてくれましたけどね」

「・・・やるな」

「恐れいります」


 バーのやる気に火がついた瞬間だった。とはいえ、分担するにしてもあと勉強したことのない他の学部分も手伝える自信はない。


「他の司書にも声かけとくよ。この学校の卒業生が何人かいたはずだから」

「やった!できれば早く終わらせて次の作業入りたかったんです!お願いします」


 手伝ってくれる人が増えれば増えるほど、完成まで期間が短くなる。願ってもない申し出だった。


「それにしても、次の作業ってなんだ?」

「次のテーマ展示のテーマを考えます」

「この間作ったばかりじゃないか」


 何を言ってるんだと言いだけなバーに楓はいえ、と首を振る。


「テーマ展示は大体2〜3週間、長くて1ヶ月で変えます。次のテーマ展示の準備するには逆算して大体2週間前に始めないと物によっては間に合わないので、そろそろ準備しないと・・・」

「横幕や装飾を作ることを考えたら確かにそうだけど、それじゃあ、できたそばから新しいのを用意しないといけないってことじゃないか」

「そうなんですよね〜。でも慣れてくるとそう大変でもないですよ。今作ってるのが来年度応用で使えたりするので、やればやるほど楽になっていきます」

「でもそんなに早く変えて利用者が借りたかったとしたら?」

「もし借りたい本があったと問い合わせが来てもリスト化してるので大丈夫ですよ」

「そこも含めて準備期間ってことか」

「そうです」


 バーは感嘆するしかなかった。セントパンクロス国の働き方は日本よりかなりゆるい。アーキュエイトでの楓が担当する事務作業が週1で済むのも、そういった部分を摘んで仕事しているからだ。

 しかし、バーにとっては新鮮だった。楓のいた図書館はこんなに間髪をいれず仕事をしていたのか?一体どんな図書館だったのだろうと少し考えてやめる。とても想像できそうにもなかった。

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