第27話 講習会1
今日は前回相談していた修理or廃棄講習会をすることになっていたので、そのための会場準備を進めていた。事前に人数を確認したところ8人参加予定らしく、ハリーが前日に椅子机の設置を手伝ってくれた。開始時間が1時間後に迫り、長テーブルにこの日のために徹夜で用意した用意したレジュメと教材となる破損本を乗せていく。
「ページ抜けと背割れの本っと」
用意したのは2つのパターンの本。これに対応出来れば大方の修理はこなせるはずなので、破損してるものと修理したものを、さらに修理したものは一つずつ段階に分けて3分クッキングのようにすぐ見せられるよう用意している。これを準備するために昨日は徹夜になり、おかげで今朝はクマを隠すのに苦労する羽目になった。その甲斐あって準備はバッチリだ。
「さて、あとは迎えるだけかな」
事前準備が全て終わり時計を確認すると、開始時間の10分前になっていた。そこにノックの音が聞こえてドアを振り返り答えると、リックが顔を出す。
「は、早すぎましたか?」
「いいえ、準備は終わってますから大丈夫ですよ」
今日は図書館の休館日。いつもなら彼らの休みの日になるため、他の職員とは一緒に来なかったようだ。ちなみに、講習に参加する者はカウリング卿の計らいで出勤扱いとしてもらうことになったらしい。
「時間まで少しありますので、ご自由にお待ちください。先に修理本をご覧なってもらっても構いません」
「これは、破損した本と・・・これは?」
リックは修理過程の本に気づくと指さした。
「この場で修理するという訳には時間的にもいかないので、説明しながら見てもらいたくて修理過程のものを用意しました」
「そ、そこまで・・・」
「せっかく説明するならと思って、ちょっと頑張っちゃいました」
そんな話をしているうちにちらほらと他の職員も集まってきた。今回はカウリング卿は参加せずペンフィールド卿だけ参加することになっていた。彼も到着すると混じり数人の職員と修理本を見始めたので楓は開始の準備のため資料を確認しに戻った。
程なくして事前に聞いていた人数が揃い、講習会を開始する。
「では、皆さんお揃いですので、講習会を始めさせて頂きます。さて、まずは破損・廃棄の判断ですが、1つに現在の自分の技術や職員の中で修理できる技術を持つものがいるかどうか、あるいは自分たちに技術がなくても技術をもつ第三者に委託できるかどうかです」
「委託?」
「はい、これは修理をこなすうちに数が増えて対応できなくなった時のことも想定して考えてみてもらいたいです。外注というと予算のことが頭を過ぎるかもしれませんが、ボランティアを募るという選択肢もあって、製本業から引退した方や趣味でやっているような人でもいいですか、そういった人たちをターゲットにして前もって募集して委託する人を確保しておくと後々困った時に対応出来るかな、と」
「なるほど。その件は持ち帰って検討します」
ペンフィールド卿は手持ちの手帳にメモをしている。
「そういった条件を踏まえて出来る出来ないで振り分けて、場合ごとにチャートを作ることで誰でも対応出来る形が取れるのではないかなと思います。では、どんな修理が出来ればある程度対応出来るのかというと、過去様々な本が出発されていますが、現在一般書の製本がくるみ製本、絵本などは糸綴じというのが主流です。とりあえずはこの2つの修理に対応出来るといいのかなと思います」
くるみ製本とはページをのりで接着する製法で、文庫本などに見られる製本方法のことをさし、糸綴じとは、紙を谷折りにし冊子にしたものを折丁と言うが、その折丁を2冊以上合わせ糸で縫いつなげる製本方法で、ページ数の少ない本によく見られる。この国ではこの2つの製本方法が主流だった。
「ここからは修理方法について簡単に説明させて頂きます。くるみ製本の場合はのりからページが抜けてしまうのと、背面が割れて真っ二つになってしまうという破損が多いことが想定されます。実際の破損本がこちらです」
ページ抜けは糸で縫われた作り方と製本のりで固めて作られた本の両方によくあるもので、背割れはページを製本のりで固めて作られた本に多く見られる破損だった。
みんなに見えるようにそれぞれに本を近づけ見せる。
「これはあるな」
「背面の製本のりが劣化し柔軟性や接着力を失った結果起こります」
ああ〜と一同からため息が漏れる。本当によくある破損なのだろうと推測し話を進める。
「ページ抜けはページを入れたいところに製本のりを入れて接着することで直すことが出来ます。ただ、製本のりを使うので油断すると失敗することもあります。どうしたら上手くいくかコツを掴めればなんら問題はありません。一方、背割れは真っ二つになってしまうので、もう修理できないんじゃないかと思ってしまいますが、これは背面に被すように厚紙をあてて製本のりで接着して直します」
説明しながら実際にやって見せると、ところどころペンを走らせる音が響く。
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