【閑話】彼女がストーカーになった訳

 ○シャルロット目線○


 とある夜会に出席していた時のこと、少し酔いが回っていたシャルロットに後ろから来た男性の肩があたり、シャルロットは転びそうになってしまう。


「君、大丈夫か」


 バランスを崩し倒れ込みそうになったシャルロットの正面に立っていた男性が彼女の腕を取り転ばないよう支えた。シャルロットが見上げると金色の髪が目に入る。それは会場の明かりに照らされキラキラと輝いて、シャルロットを覗き込むダークグリーンの瞳は吸い込まれるようだった。


「え、ええ」

「今日は人が多い。気をつけたまえ。ん?服に飲み物が溢れているな。時間的にも夜会はもう終わる頃だろう。今帰ったとしても支障はない。馬車の手配をしよう」


 シャルロットが無事であるとこを確認すると手を離し、帰るよう促した。


「大丈夫です。迎えの馬車が控えているはずですわ」

「そうか」


 なんて素敵な方なんだろうか。シャルロットは一気に心惹かれていくのを感じていた。


「あのわたくしシャルロット・キャンベルと申します。あの、お名前を伺っても?」

「レオン・ゲイリーだ」


 レオン・ゲイリー卿といえば、たしかエライアス・ゲイリー伯爵の息子で今は王城に仕えているとか。滅多に夜会に顔を出さないので今まで顔を知らなかったのだ。男爵家の娘が伯爵家のご子息に名前を聞くなんて不敬だと言われても仕方ないことだったと今更ながら冷や汗が出たが、咎めることなく答えてくれる心の広さにさらにどんどん想いが加速していく。


「この度はありがとうございました。ぜひお礼を・・・」

「礼には及ばん。気にしなくていい」


 そう言ってレオンは足早に立ち去った。目線で背中を追うと、夜会のホストに挨拶していた。その容姿、佇まいすらも素敵にうつり、目を逸らそうとしても勝手に目で追ってしまう。


「あの方こそわたくしの運命の人・・・」


 それからシャルロットは帰るまでずっとレオンを目で追い続けた。レオンのことをもっと知られるようにと。

 普段なら何か落ち度を見つけては怒ってから馬車に乗り込むのに、今日は心ここにあらずの様子で馬車に乗り込むシャルロットに従者は首を傾げたが、聞いても生返事が返ってくるだけで何もわからなかった。



 ⌘⌘⌘⌘⌘⌘


 その日を機に、シャルロットはレオンを探すようになる。この日お城でたまたま出くわしたレオンに、思い切って声をかけた。


「レオン様!あの!」

「君は、この間の」

「はい!わたくしあなたのことを好きになってしまいましたわ!」


 意を決した告白は、残念ながら断られた。しかし、せっかく見つけた運命の人を逃すシャルロットではなかった。以降レオンを見つけては押しかけ、告白を重ねるようになる。

 ところが告白すればするほど、どんどんレオンに会えないことが多くなっていった。レオンはシャルロットのようにグイグイくるタイプの女性が好きじゃなかったのだ。

 レオンはもともとモテるほうだ。容姿はそれなりに整っていたし、伯爵家の三男だけれど文官になっている安定性も加わり見合いをさせようとする父親も多い。そんな父親に言われ夜会ではレオンに近づこうとする女性も多い。大体の女性は素っ気なく対応していると次第に諦めてくれる。それでもしつこい女性もいた。レオンはそういった女性たちに辟易していたのだ。そして、シャルロットはその中でも群を抜いてしつこかった。

 次第に職場に押しかけてくるシャルロットへの対応を苦慮していたレオンを見かねて、同僚や上司がさりげなく逃してくれるようになっていった。


「どうしてレオン様に会えないの!?」


 同僚や上司の対応は、なぜレオンに会えないのか分からないシャルロットにとっては苛立ちの元でしかなかった。その苛立ちは次第にレオンの近しい女性に向いた。嫌がらせをしたり脅迫をしているうちに、さらにレオンに会えなくなった。この頃にはゲイリー伯爵家によってシャルロットからレオンを守るよう要請が出始めていたため、行きつけのお店に来ているか尋ねてもいないと言われるようになっていたのだ。

 愛しのレオン様。私が好きなくせにそっけないのは、愛情の裏返しなのね。と思い込むシャルロット。レオンが嫌がっていることにも気づかず、この頃にはもうストーカーと化していた。


「なによ、なによ、あの人はわたくしのものなのに!!」


 こうなるともう収まりはつかなくなってしまい、なんとかレオンに会おうと仕事を終わりを狙って待ち伏せたり以前に増して監視するようになってきた。

 そんなある日、レオンが担当している図書館に女の職員が入った。楓のことだった。ハリーを問い詰めて聞き出した情報から使用人だと思い込んでいたため、男爵の娘である自分が会えなくて使用人のあの女が話せるなんて、ありえない。シャルロットは怒りに震えた。

 さらには身の程を知らない使用人に忠告してあげようとしたら、レオン直々に庇うという光景まで見せつけられて、もはやシャルロットの怒りが爆発してしまう。


「あの女、二度とレオン様に近づけないようしてやるわ!ほほほほほ!」


 シャルロットは自室にあった髪飾りを乱暴に掴むと、普段持ち歩くポーチにしまいポーチを手に自分の部屋を後にした。

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