第15話 本の配置を変えましょう
それからしばらくはシャルロット嬢と遭遇することもなく、黄の月になっていた。日本で言う2月だ。その間に目録カードと貸出カードを作り、同時進行で図書館内に書庫が作られて書庫リストを作って書庫に幾分か本をしまう作業を進めていた。それが大体終わり落ち着いてきたところだった。
嬉しいことに来年度の予算で図書館枠ができて事務費などがついた他、書庫を一棟建ててくれることになった。城と城壁の間に林があるので、その一部を伐採して書庫を建ててくれる。これでやっと書棚のプア状態は解消されるだろう。
「問題はこれよね〜・・・」
目下の課題は、カウンターと側にある箱で山積みになっている故障本の修理と製本されていない資料の製本だ。これは修理・製本器具が必要なので予算が使えるようになる再来月から取り掛かることにして、それまでの間は分類ごとにまとまるように本を並び替える作業を始めることにした。
「5年前の灌漑事業についての資料を見たいのだが」
「ご案内します」
本が整理されてきたことで、レファレンスにも対応できるようになってきた。レファレンスとは、利用者の学習の手助けのこと。関連資料の提供や必要であれば専門機関の紹介をする図書館サービスの一つだ。
今までは専門の職員がいなかったため、対応していなかったらしい。調べ物をしたいときは王都にある中央図書館へ依頼していたらしいが、中央図書館には公文書のコピーしかないため対応できないこともあった。
「ん?ここの統計がないな」
「それはたしか別冊の方に入っていたような・・・」
横に並んでいた別冊を開き当該ページを開いて見せると、必要な情報があったらしく目印に紙を挟み込むと手に持つ本と合わせてコピーしていった。
男性とすれ違いでハリーが入ってきた。シャルロット嬢に絡まれたことをきっかけにレオンは1か月に一回しか来なくなり、その分ハリーとケネスがよく来てくれていた。1〜2時間だけだが、男手があると助かる作業は彼らが来てる時間にするようにしている。
「今の人は農業担当の職員だね」
「5年前の灌漑事業について調べて帰りました」
「来年度新しい灌漑事業をする地方があるからね」
どんな資料だしたの?と言われて本を渡す。
「もう本の内容を把握してるんだ」
「ちょうどこの間見たばかりで」
分類を決めるのに本の内容を目次を見たり内容をサラッと確認している。先ほどの本はその過程で最近分類をつけたものだった。
「分類をつけていたからか。もう全部の本につけ終わったんだろう」
「はい、今日は分類ごとにまとめて棚に収めるために配置図を書いてます」
「じゃあそれが決まったら本を移動させるんだね」
「はい。分類をつけながら大体考えていたのであとは図面におこすだけです」
大きめの紙に棚の配置だけを書いたものを取り出すとハリーに見せる。
「どうして分類ごとでまとめるんだい?」
「え・・・」
素直に疑問に思っただけという様子のハリーに、これが図書館が物置になった所以かと合点がいった。
「分類ごとにまとめた方が見つけやすくて、しまいやすいですよね。我々管理する側も、利用する方にとっても」
「なるほど!」
「ええ・・・。まあ、そういうことで、配置決めていきます」
「へえ〜」
ツッコむと疲れそうなのでとりあえず流して、配置図の作成に取り掛かる。この図書館は中心から円形に棚が段々と外側へ広がるように置かれていて、角の方に壁に向かって垂直に棚がある感じで棚が配置されている。
この棚に本を入れ直していくために、分類方法を日本のものと合わせてつけているので以前見たことのある図書館を参考にしながら、考えていた案を書き出していく。
一通り書けたところでこれを元に本を動かしていくことにした。
「クーパー卿も手伝ってくださいね」
「了解!力仕事はまかせて」
「すごい助かります」
カウンターに一番近い棚から取り掛かる。作業工程としてはまず対象の分類の本を集め、一段ずつ本を引っ張り出す。空いた段に順番通りになるよう本を並べていくというのをひたすら繰り返していくのだ。同時に引っ張り出した本も分類ごとに仕分けて今後の作業に繋げていく。
「これをひたすらやっていくんだ。気が遠くなるねー」
「乗り越えた先に明るい未来がありますから」
「頑張るよ」
「さ、これ1ヶ月で終わらせますよ」
「ひえ〜!」
ハリーは1ヶ月でやる作業だとは思ってなかったようで、顔が引き攣っていた。顔の真ん中にマジかよと書いてある。
「蔵書目録をあのスピードで作れたんですから大丈夫、大丈夫。休憩しながら頑張りましょう」
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
「クーパー卿、そろそろ1時間経ちますから休憩しましょう!」
「りょうかーい!」
2階で本を探すハリーに声をかけるとサッと作業の手を止めて降りてくる。カウンター横のテーブルにお茶とお茶請けを用意して一服する。仕事中に何してんだと日本なら注意されそうな光景だが、この国では怒られない。ちゃんと働いて結果を出してさえいれば、結構自由に振る舞っている人が多い。中には結果も出せないのにだらけている人もいて(キャメロットの父もこのタイプ)、そういう人はちゃんと上司が見ているので昇進が遅い。
「このお菓子、アシェ・アッシュのクッキーなんですよ。刻んだナッツがクッキーに練り込まれてるんです」
「うん、美味しいね」
10分程度で作業に戻るとそれからは数時間に一度休憩を挟みながら進めていく。終業時間までには棚3つくらいは終了した。本を集めてくるのに結構時間がかかるので、そんなにサクサクとは進んでくれない。1時間残業して本を集められるだけ集めて帰宅した。
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