第13話 衝突事故?

 今日は図書館出勤日。ひたすら目録カードと貸出カードを作っている楓に朗報を持ってきたのはハリーだった。


「返却ボックス出来たってさ。今日の午後には届けてくれるよ」

「やったー!ありがとうございます」


 楓は両手の拳を上げ喜んだ。ハリーに頼んだ時からこの返却ボックスの到着を心待ちにしていたのだ。拳も振り上げたくなる。


「じゃあ、直接図書館に来るはずだから対応よろしくね」

「あの、料金は・・・」

「それは文書管理担当で注文してるから大丈夫」

「重ね重ねありがとうございます」

「図書館はまだ予算枠がないからね。あれくらいならうちから流用出来るし問題ないよ」


 楓がハリーを拝み倒すと照れ臭そうにやめてやめてと片手を振り、逃げるように図書館を退出していった。

 その後、午後一で返却ボックスを工房の職人さんが届けてくれた。

 早速返却ボックスの中を確認すると、まさに楓が作って欲しい通りの仕組みで出来上がっていた。正面上部に本が入れられる口があり、中に向かって傾斜する板があって本を入れるとそこを滑って中に入っていくようになっている。背面には鍵付きの扉があって、中には本を受け止めるための箱が入っていた。本を取り出すときはその箱ごと取り出すことができるのだ。


「うわ〜!完璧ですね!」


 お願いした通りの作りになっているのを見て感動する楓に、職人さんは大袈裟だなと苦笑いを浮かべる。


「いやいや、あんな素人の適当な図から仕上げちゃうんですから。ほんとすごいです」


 本当によくあのメモから仕上げてくれてくれたものだと伝えると、嬉しそうな様子で帰っていった。


「あとは箱の中に本が落下した時に衝撃を和らげるクッションを入れないとね」


 ある程度本が入るようになっている分、本を入れるところから箱の底までそれなりの高さができる。そのまま本が落下すれば本が痛む原因となってしまうため、その衝撃を柔らげるものが必要だった。


「たしかあの辺に謎のクッションが・・・」


 この図書館、掃除をすればするほどいろんなものが出てきていて、処理に困っていた。ティーセットから始まり、高そうなクッション、小さめの絨毯、高そうな肘置き付き椅子2脚。この一式を見つけた時はお茶会でもしとったんかと一人でツッコミを入れてしまうほど驚きと呆れが入り混ざった気持ちだった。


「うん、ちょうどいい大きさなんじゃないかな〜」


 そんなわけで見つけたクッションを箱の底に入れるとぴったりとはまった。クッションを入れた箱をしまい、返却ボックスの鍵を閉める。あとは看板を書いて、文書管理担当を通じて各部署に通知すれば完璧だ。

 早速看板を書いて通知文書を書き終わるともう夕方になっていた。帰る前に図書館を閉じて通知文書を持って文書管理担当へお願いしに行く。もう終業時間を過ぎていたが、誰かしらいるだろうと思って行くと、事務所ではレオンをはじめ職員が残業をしていた。楓が来たことに気付いたレオンが席を立つ。


「これなんですけど、各部署に通知してもらうことできますか?」

「閉館中の本の返却について?なるほど前に言ってた返却ボックスのやつだな」

「はい。今日返却ボックスを届けてもらったので、早速運用しようと思いまして」

「わかった。明日通知しよう」

「ありがとうございます!」


 書類をとんとんと整えてデスクに置くと、レオンは帰り支度を始めた。フロア内の他の職員ももう帰り支度を終えてちらほらと帰り始めていた。


「今日はもう上がりなんですね」

「これ以上は効率が悪いからな。繁忙期以外は帰れる時に早く帰らないと体がもたん」

「そうですね。じゃあ私も失礼します」

「お疲れ様」


 事務所を後にして階段を降りていると、前方から派手な装いの女性がカツカツとヒールを鳴らしながら上がってくる。女官でもない女性がここにくるなんて珍しいと思っていると、女性は楓を見つけてカッと目を見開いた。


「あなた、こんな時間にこんな所で何をしていますの?!」

「えっと、仕事の帰りですけど」

「仕事?あなたの仕事は図書館の掃除で上の階には関係ないでしょ!?まさかレオン様に会おうだなんてしてないでしょうね」


 掴み掛からんばかりの剣幕で、話している内容が全く入ってこなかったが、とにかく何か責められていることだけはわかった。


「えっと?」

「なによ、図星なのね?!使用人ごときがレオン様に近づこうなんて身の程を知りなさい」

「いや、近づくってどういう」

「口答えするんじゃないわよ!!!」


 話を詳しく聞こうとしてたが、さらに激昂させてしまう。

 女性は持っていた扇を振りかぶり楓に叩きつけようとしたその時、


 パシッ!


 扇は楓に届く寸前に止められた。後から階段を降りてきていたレオンによって。


「一体何をしているんだ」

「レオン様!」


 レオンが来たことで女性は自分がしたことも忘れて目を輝かせた。しかし、当のレオンは眉間にシワがより、嫌悪の目で女性を見ていた。


「シャルロット・キャンベル嬢、こんな時間に一体何用ですかな」


 なるほど、彼女がシャルロット・キャンベルかと納得していると、レオンの後ろにいたケネスが城の出口を指してウインクしていた。

 今の内に逃してくれるらしい。ご好意に甘えて静かにそそくさと退散させてもらった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る