第2話 王都へ

 森に挟まれた道を馬車で1時間ほど進むと、お互い少し打ち解け話をするようになった。このキャラバンはリーダーのジョン、ロベルタ、レベッカ、アナスタシアで構成されていて、同じ町出身で町で作った生地を王都まで納品しに行っている。


「カエデというのね。あんまり聞かない雰囲気の名前ね」

「かなり辺鄙なところにあってあんまり外部と交流のない村なので、文化が違うのかもしれません」


 日本に由来すること、物の説明は非常に難しいので全部ど田舎の変な村だからという設定で話すことにした。信用して載せてくれているのに申し訳ない気持ちはあるが、どうやらここは機械が発展していなくてかつ一般的な交通手段は馬車や馬らしく、本当のことを話せばきっと混乱させてしまう。


「それにしても相当方向音痴なんだな。森に入り込んだだけで道がわからなくなるなんてなかなかないぞ」

「そうかも・・・。一人で来たのは失敗だったかもしれません」

「女の子一人はほんとに危ないよ〜。キャラバンもいい人ばかりじゃないから、変なとこに売られる可能性もあるんだからね〜」


 セントパンクラス国は奴隷制こそないものの、風俗的なお店はある。借金が払えなくてといった話も無くはない。


「気を付けます」

「まあ、今回は俺たち一緒に行くからいいけどな。ちなみに着いてもからのあてはあるのか?」

「職業相談所に行こうかと思ってました」


 キャラバンのメンバーは皆顔を見合わせる。なにか変なこと言っただろうか。


「職業相談所??そんなものあったか?」

「ないんじゃないかしら」

「聞いたことないね〜」


 職業相談所が、ない?これは困った・・・。仕事探さないと家も借りられない。愕然としてる楓に気づくとみんな頭を抱えた。


「あてが、外れました・・・」

「お前、大丈夫?働く場所決めないで来たのかよ」

「ほんと危機感ないやつだと思ってますよね?」


 ロベルタは腕を組むとなにを言っているんだと言わんばかりにふんっと鼻を鳴らす。


「当然だろ。男ならどこでもすぐ働く場所見つかるだろうけど、女はそもそも紹介が多いし募集が多くない。それも仕事紹介するって言って騙されることだってある。だから働く場所決めてから自立する奴が多いからな」


 ここではそれが一般的な就職の仕方だった。日本なら職安あるから楓もそのままの感覚でいたが、職安がないとは。ともかく仕事を探す方法を考えないといけなかった。


「ちなみに紹介以外で仕事を探す方法って?」

「なくはないけど、水商売が多いな」


 ちーん。今度は楓が頭を抱えてしまった。完全に詰んでしまっている。キャラバンのみんなはここまで行き当たりばったりだと思っていなかったようで、もう呆れ返っていた。そこに馬車を操縦しているジョンが何かを思い出したようで、あ!と声を上げた。


「僕たちが生地卸してる店に紹介してあげればいいんじゃない?事務処理してくれる人足りないって言ってたよ?」

「ああ、そうだったわね。まあ、見てる感じちょっと心配だけど、悪い子ではなさそうだしいいんじゃない?」

「人を騙せる感じには見えねえし、大丈夫だろ」

「そうだね〜」


 それは褒められているのでしょうか。貶されているのでしょうか。ロサルタに同意するレベッカにすこし凹んだ。


「そういうことでどうかな?」


 ジョンはキャラバンメンバーの同意も得られそうなのが分かると今度は楓に確認してくる。


「私にとっては渡りに船ですけど、会って数時間の人を紹介しても大丈夫ですか?仕事はじめてから問題起こしたりしたら皆さんの信用に関わりませんか」

「まあね〜。でもそうやって気にするなら大丈夫じゃない〜?それにその服、女将さん興味持ちそうだよね〜」


 会ったばかりの人間をそこまで信用するなんてよっぽどそっちの方危機感無いんじゃないかと思ってしまったが、とにもかくにも怪しいお店でなければなんでも良くなっていた。


「よろしくお願いします。お世話になります。ちなみに、生地を取り扱ってるお店ってことでしたけど、どんな雰囲気のお店なんですか?」

「アーキュエイトってとこなんだけど生地を主に取り扱ってて、服も扱ってるお店って感じ〜。100年近く営業してる老舗だよ〜」


 老舗。輪をかけてこんなやつ紹介しても大丈夫なのだろうか、そもそもそんなところに入ってやっていけるんだろうかと少し不安が過ぎる。


「老舗ってことは従業員教育は結構厳しいですよね?」

「そうでもないかな。あそこはほどんど家族経営みたいなもんだからね」


 それを聞いて楓は少し安心していた。人間関係さえ上手くいけばやって行けそうかもしれない。


「そうなんですね。私の服に興味を持ちそうって言ってましたけど、デザインも?」

「そう。あそこは店長さん、ロゼッタさんっていうんだけど、店長さんともう一人でデザインして服を作ってるのよ。いつも参考になるものを探してるから、きっと気になるはずよ。あなたの服今まで見たことないもの」

「たしかに。一般的ではないね」

「もうすぐ王都につくよー!」


 ジョンの声に前を見れば白く大きな城壁が見えてきた。段々と城門が近づいてくると城壁の高さがよくわかる。高さもあるが返しが付いていたりして容易く登れるようなものではない。


「ジョン、いつもの納品か?」

「そうです。アーキュエイトへ」


 門番は軽く積荷を確認し、載っているメンバーを確認すると見慣れない顔があることに気がついた。


「なんだ、新顔か?」

「まあね」


 門番はそう話しながら手元の紙に何か書き込む。何かを確認するように紙に向かって指差し確認して仲間に合図すると、門の扉が開き街が見えてきた。


「よし、通っていいぞ」

「ありがとうございます」


 すんなり入れたことに楓が驚いていると、アナスタシアが理由を教えてくれた。


「私たち何年も月一で来てるから顔見知りになる衛兵もいるのよ。だいたい用件はわかってるし、アーキュエイトに納品してることも結構知ってる人多いからそのまま通してくれることが多いわ」

「信用があるキャラバンってことですね」

「まあね〜。もちろん何回かに一回は持ち物の検査を受けてるよ〜」

「よっし、このままアーキュエイトに向かうよー」

「「「りょうかい」」」


 キャラバンの馬車は街の中心へ向かって進んでいった。

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